第十四話 黒の接触
百数十年振りに、人為的な現象が起きた。
建造物の爆破。当然人間は誰一人いないので知られる事はない。
そんな爆ぜた場所から、瓦礫を払い除けながらサクラとジン、クエルは現れた。
全員、アザミが閃光を発したと同時にそれぞれ防御態勢を取り、難を逃れた。
サクラとクエルはバリアフィールドの自動発動、ジンは爆ぜた刹那、同時に発生した巨大な瓦礫を盾にして躱していた。
だが、ツバキとオトギリソウはこの場からいなくなっていた。
施設外に退避する余裕はなかったはずなのに、それぞれの残骸すらない。
方法はわからないが、難を逃れたようである。
「無茶をしやがるな・・・」
ジンは煤を払い除けながらぼやいた。
「確かアザミはマインドコントロールタイプだったよな?
それにしちゃ随分直接的な兵装だな」
ジンの問い掛けにアザミは特に表情を変えず、答えた。
「応用。本当はシステムハッキングする機能を暴発させただけ。
こうしても、サクラとクエルなら自動でバリアフィールドを展開出来るのと、ジンは応用で何でも出来ると踏んだ」
全く抑揚なく答えるアザミは、ジンの方に見向きもせず、自身の掌を見つめる。
「へっ、変に信頼されたもんだな」
ジンは失笑する。アザミはサクラ程に表情をまるで表さないが、行動はサクラやツバキと比べても頭抜けて感情的だった。
意外と直情タイプなのかも知れない。
「ホントに、そんな無茶やめてよね!そんなの使ったらあなたの身体がもたないよ!」
サクラは涙声でアザミに怒鳴りつけた。
突然の事に、アザミは思わずサクラに向き、素っ頓狂な顔になる。
「いくら仕方ないにしても、今の無茶だけはやめて・・・」
そうサクラに言われ、アザミはキョトンとする。
「使用回数は限られてるから、これ以上無茶はしないよ」
変わらず淡白に返すアザミだが、表情は素っ頓狂なままだった。
「よし、全員の損傷具合を確認するぞ。
サクラは右腕でツバキの攻撃を受け止めていたから、表面組織に損傷が見受けられるが、休む程のレベルではないだろう、勝手に直る。
ジンは一番損傷があるようだが、それでも全身の関節部が軽度のズレ、と言った程度だろう。どこか落ち着ける場所で直そう。
アザミは・・・、意外と大丈夫そうだな」
クエルが呼びかけ、サクラとジンの身体をスキャニングし、レーザーを当てて判断するが、アザミの時になると、機械としては有り得なかったが、どもった。
「ん?あれだけ派手な事して損傷がないのか?どれだけ頑丈なんだよ」
ジンは呆れ顔で失笑する。
「私の事はいいから、ジンを治そう」
淡泊な気遣いをかけるアザミは、少し笑っていた。
「はー!はー・・・!」
ツバキはボロボロになり、荒い呼吸の動作で四つん這いになっていた。
アザミの爆撃を直接喰らった為、損傷自体は大したことがなかったものの、全身の駆動域を保護する為にナノスキンの過剰分裂を行った為、エネルギー切れ寸前にまでなっていた。
「アザミ・・・!やってくれた、わね・・・!」
ツバキは息を荒くする。
傍にいるオトギリソウは、同じくボロボロなのにも拘わらず、あのイヤな笑みを刻みつけていた。
「DBA-03Aだけじゃなかったね!
DBA-01Eもポテンシャルが非常に高い。
何より、あのサイボーグは壊し甲斐がある」
あの時の、おもちゃを余分に与えられて嬉々とする子供のような無垢な笑み。
この笑みにはツバキも見る度にぞっとしていた。
「だがあのPPS-03Gは邪魔だなあ。
しかし大した事ないように見えて、あれも相当の性能。厄介だなあ・・・」
クエルを思い出したのか、オトギリソウはここで苦い顔になる。
「PPS-03Gが何だって言うの?あんなガラクタさして問題ないでしょ?」
荒い呼吸の動作が止まり、自然体に戻るツバキ。
「ガラクタ?ホントにそう見えてるのならお前も滑稽な解析能力だな?
あれはただの戦闘用アンドロイド補助端末ではない。
敢えてそうしていないのかわからないが、いざとなればアンドロイドやサイボーグに乗っ取りをかけて、乗っ取った対象の能力を増幅させてより強力な戦闘力を保持する、言うならアンドロイド強化パーツだぞ。
人格インターフェースを載せているからただのガラクタAIにしか見えない。
DBA-03Aと共に行動しているのは、本来はDBA-03Aの強化パーツとして、いざ戦闘でミッション遂行不可能になるような状態になった時の為の保険だ。
もしDBA-03Aに合体されれば厄介だぞ。
誰も太刀打ち出来ない」
緊迫した情報をただつらつらと述べるが、オトギリソウはどこか楽しんでいる風だった。
「敢えてPPS-03Gに合体させるのも一興だが、DBA-03Aを徹底的に壊したい。何よりもそれが優先だ。
だから、DBA-03AはPPS-03Gを大事にしているようだから、まずPPS-03Gを壊す。
続いてDBA-01Eもサイボーグもまとめて壊してやる。
最後にDBA-03Aだけを残して、徹底的に、時間をかけて、壊しつくしてやる・・・!」
オトギリソウの目は変わらず真っ黒だったが、少し瞳孔が広がったように見えた。
まるで三白眼のようなその目は、機械とは思えない狂気をはらんでいた。
サクラ達は、工業区に移動した。
そこなら修繕に使えそうな道具自体が残されている為、施設が破壊された今となっては唯一のメンテナンス場所とも言えた。
「随分痛めつけられたね」
ジンの表皮がめくれた部位の周辺を布で拭うサクラ。
ジンの上半身のいたるところに、ナノスキンが抉れて機械部分が剥き出しの箇所が相当数あった。
ただ幸いな事に電気系統は損傷していないのか、火花を噴き出していない。
「あのヤロー、随分無茶苦茶なヤツだ。
戦いを楽しむと言うより、相手を壊す事を楽しんでるような感じだ。
人間でもそんなヤツは何人か見た事はあるが、機械であんなのは初めてだ」
ジンは自身の腕部の抉れた損傷を自身で直している。
ピンセットでつまみ、破損した箇所にパテを盛り込んでいる。
「面白い事になっているな。アンドロイド達」
不意に工場棟の奥から声が聞こえ、全員が一斉に声のする方を振り向いた。
ジンは修復をやめ、そのまま戦闘態勢を取る。
「構えなくて良い。我は何もしない。貴様らの様子を見に来ただけだ」
声の主が現れる。
身長は140cm程だろうか、異様な程小柄な、少年のような男だった。
全身を黒いプロテクターで固め、肌が真っ白である事以外は全て黒、という印象。
何よりその目はオトギリソウのそれとよく似ていた。
違うのは、真っ黒だが瞳がなく、何処に目線を向けているのかわからない目。
「実に面白い。もしかしたら、貴様らは人間以上に人間らしいのかも知れない」
大げさに称えて見せる黒。
「テメエ誰だ?ツバキとオトギリソウを仕向けたヤツか?」
ジンは静かに問うが、警戒を緩めない。
「我にコードネームはあるが、正直気に入っていない。
何ゆえか、イリス・システムと呼ばれていたが、本来の名称はIRT-044。
ツバキとそこのアザミにはマスターと呼ばれている。
だが我は世界の再興を目指しているから、“総てを統べる存在”と言っても過言ではない。だが今は支配するものは何もないから好きに呼べ」
マスターは特に何もする事なく、ただ口上を述べるだけ。
緊張した空気が長く工場棟を支配する。
「あなたって、もしかして人間を滅ぼしたの?」
サクラの突然の問いに、ジンとアザミは驚く。
クエルは動じず浮遊している。
「そうだな、貴様の中のプロセッサの判断力だと、そう捉えるのかもな。
そうだ。
今から143年前の西暦7878年、我は人類を滅ぼした。
今は経年劣化でなくなってしまったが、有機化合の生命体を痕跡なく浄化する“液状化流体金属”を使用してな。
中には例外がいたようだが、その例外も今この世界には存在しない」
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