第二話 滅亡後の世界
着衣を選び終えたサクラとクエルは、外に出た。いくら見渡しても随分と荒涼としており、生き物の姿が見受けられない。
コンクリートの瓦礫やガラスの破片は黒ずんでいて、世界そのものが廃墟、といった具合である。空は灰色に澱んでおり、自然な景色は全く想像すら出来ない。
「・・・なんでこうなったの?」
サクラは問う。おそらく既にプログラミングされている記憶情報と相違があるからだろう。
製造当時の時代情報がサクラにインプットされており、本来なら人間が街を行き交い、空は澄み渡った青色。鳥という生物が空を飛んでおり、遠くには緑の山並みが少し見える。
そのどれもが一致していない。遠くに見える山並みは、緑ではなく煤けた茶色。禿山と言ったところだろう。
この問いにクエルは答えた。
「今から143年前、西暦7878年8月1日に発生した事件が原因。銀色の流体が生物のみに特定して襲撃して全て殺害し、同年12月31日に全ての生命体が滅亡している。何が原因で、誰が実行したのかはわからない」
淡々としたクエルの返答に、サクラは呆然としている。余りにも違い過ぎる周りの情報に、頭にあるCPUに熱が持ち始めているのが感じれる。
「ある人間が残した言葉でこんな言葉がある。完全な人工知能が開発されれば、人類は終焉を迎える可能性がある。別の言葉では、人類が滅びるのは、戦争や疫病、天変地異、異種の侵略で滅ぶのではなく、自ら作り出したものによって滅ぼされる、と」
クエルは変わらず淡々と続ける。
「え・・・、人間って、私と同じようなのに、滅ぼされたってこと?」
サクラは目を剝いた。
「これ以上の事は、人間で言う憶測になるので俺には断言出来ないし、有益な情報はない。ただ、人類は生み出したものに滅ぼされた可能性が高い。街やテクノロジーは残っているが、ここに人間がいたという、物質的な証拠がひとつもない。お前が目覚める前に一度調べていたが、一切何も出てこなかった。これは人類の超えた力によって滅ぼされた可能性が高い」
クエルは続けていたが、サクラはほとんど聞こえていなかった。
起きてからすぐ、外の世界を楽しみにしていた。
作られている時から、自分という存在を認識するようになり、外の世界に非常に興味を持った。
それからどれ程の刻が経ったのか計り知れないが、楽しみにしていた外の世界は何もなかった。
「私、どうしたらいいの?」
サクラは不安になり、クエルに聞いた。
「俺はお前の指示で動くだけだ。お前がどうすればいいのかわからないのなら俺にはどうしようもないが、敢えて言うなら、好きなようにしたら良いんではないかと思う」
クエルは全く動じる事無く淡々と答えた。
ただの機械ではあるから当然な反応ではあるが、あれ程指示を求めていたクエルがまさか、小さな事とは言えアドバイスをくれた事に、サクラは少し驚いていた。
「指令もいない。お前を縛るものは何もない。咎めるものもいなければ会話する相手もいない。お前ひとりだけなのだから、思うようにすればいいと思う」
クエルの答えにサクラは少し元気が出て来た。
確かに、本当に誰もいないのなら何も気にする事はない。
プログラミングで、抹殺ミッション基本データや施設破壊ミッションの訓練シミュレーターなど物騒な記憶情報があるが、こんなものに惑わされる心配もない。
サクラは自由だった。
「でもひとつ訂正しないとね」
サクラはニッコリとクエルに微笑みかける。
クエルは向き直っただけで、特に表情を変えるような様相を見せない。
無骨なデザインのせいで感情表現が出来るシステムが何もないから致し方ないが。
「会話する相手はあなたがいるじゃん!」
サクラはそう言って、街中へ繰り出す。
クエルは今サクラに言われた事が理解出来ず、少しフリーズしていた。
サクラとクエルはショッピングモールにやってきた。
とは言ってもまるで賑やかさの欠片もない、殺伐とした大型の廃墟、と言った佇まいの場所である。
モールにあるテナントだったであろう場所には、とにかくガラクタや瓦礫しかなかった。
人類が滅んで百数十年による風化で形状維持が出来なくなって風化したのであろう、商品は何も残っていない。
ただ、金属製のものはいくつか残っているようで、錆びたハンガーや掌サイズの何かしらの機械がいくつか転がっている。
あまりにも殺伐としているが、サクラはあきらめずに何かないかと旧モール内を探し回っている。
「何を探している?」
クエルが問う。サクラの行動を分析しても理解出来ず、聞いたのだ。
「んー、あなたにこう言ってわかるのか疑問だけど、暇つぶし」
サクラはぶっきらぼうに答える。
「暇つぶし?データでは、人間がする事がない時にする、周りに意味はないが本人に意味のある、謎の行動の事か?」
クエルが堅苦しく返す。
「んー、余りにも切り捨てすぎじゃない?」
サクラはげんなりとする。
サクラは小さな機械屑や何かしら目についた物を片っ端から手にとっては繁々と眺めて何やら確認する、と言った事を繰り返している。
「ただ時間が過ぎてもいいのなら、映画、と言う物があるぞ」
クエルが提案すると、サクラは目を丸くした。
「映画!?映画見れるの!?」
サクラが叫ぶ。
「ここは昔モールだったわけだから、映像媒体がどこかにあるかも知れない。それに、モールには映画館、と言う物があったとデータにある」
クエルの目と思しきレンズ部分がチカチカと様々な色に点滅する。どうやら膨大な記憶情報から検索をかけているのだろう。
「映画館!私眠らされる前に聞いた事があるよ!行ってみたい!」
クエルの言う通り、旧モールの三階に映画館、だった場所があった。
周囲の瓦礫化している場所と比べて、構造がしっかりしていたのだろうか、原型がそこそこ残っている。
中に入って、サクラとクエルはシアターホールを確認するが、どうにも使える状態ではない。
この時に作られた映画館はどうやらかなりの昔の構造をしているらしく、スクリーン壁は意外と良好な状態だった。
しかし、映写室という小部屋が別にあったが、映写室らしき小部屋の窓から大量のコンクリートの瓦礫がすし詰めになっている。
これでは只の広い部屋、と言った風体である。
「これは使えないな。他のシアターホールは完全に塞がれているし、無事なここですら使えない」
クエルは冷静に分析して、サクラに伝える。が、
「えー、せっかく来たのに」
サクラはむくれていた。
「そんなに見たかったのか?」
クエルの質問。
「そりゃあ、話に聞いてただけで楽しそうだったから」
サクラの表情が曇る。
そこでクエルは少し無言で何か考えてか、視覚レンズをチカチカと点滅させながら、
「俺自身にプロジェクター機能が内蔵されている。映画のデータさえあれば、インストールして映し出す事が出来る。データを探しに行くか?」
クエルの提案に、
「最高!!あなた最高!!」
とサクラは叫びながらクエルに抱き着いた。
「探しに行くぞ」
クエルは全く動じずに答えた。
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