第三話 生き証人
サクラとクエルは映画館のフィルム保管庫に入り、いくつか無事そうなフィルムデータを取り出した。
これも随分と古いタイプで、円形の形をしたリールのようだが、中は磁気ディスクが内蔵されているようで、クエルは体から読み取り機のような先端物を多数出し、触れるだけで解析、自身に取り込んだ。
いくつかあった中には、恋愛映画だったり、ホラー、アクション物、冒険活劇など、様々なジャンルがあった。
「人間はこれで暇つぶし、と言うのをしていたようだが、俺達機械には理解出来ない物だ」
クエルは無愛想に言うが、反して解析作業は手際よく終わらせている。
「そういうもんだって」
サクラはクエルが解析している傍ら、ガラクタの山の中から無事そうなフィルムデータを探し出している。
どれだけ目利きが良いのか、軽くニ十個以上は見つけ出していた。
「まあ良い。俺自身の外部データの保存容量は100ZBある。これぐらいなら一つのデータでも1TBすらも消耗していないから、全部入るぞ」
クエルは全くペースを落とす事なく解析を進めた。
容量は30TB。映像データは総数で千を超えた。
一つ一つ保存する作業は手間であったが、いつでも映画を観れる事にサクラは随分機嫌良くしていた。
「早速データを確認するか?」
クエルが提案する。あれだけのデータを詰め込んだにも拘わらず、全く負荷を負っていないようだ。
「いつでも見れるなら、ここを一巡りしてからにするよ!」
映画館を出たサクラとクエルが次に向かったのは、かつてフードコートだったフロアだった。
カウンター厨房はただの瓦礫の山と化していたが、上にあるメニュー看板から、フードコートだった事が辛うじてわかる。
そしてだだっ広い中央の空間には、椅子やテーブルだったであろうガラクタが均一に配置されていた。どうやらこの配置のまま朽ちてしまっていたようだ。
「ここって何をするところ?」
サクラの質問。
「我々機械が言うところの、燃料補給するような場所だろう。金という対価を相手に渡し、自身の力の供給にする、と言ったところか」
クエルは回答するが、
「補給?機械って補給するの?」
サクラ自身、素直に疑問が出てクエルに問う。
「私にそんな補給するような接続部はなさそうだし、燃料って何?」
「俺自身もそうだが、お前の動力炉は超小型の核融合炉。お前の握り拳のサイズの動力炉がお前の胸の中にある。お前自身は半永久的に自己発電をするから、補給の必要は一切ない。体に不具合が出れば修理すれば良い。お前には補給の概念はない」
クエルの回答に、サクラはどうにも腑に落ちない顔をした。
「何か他にあるか?」
「それって食べる、とかそう言った楽しみがない、って事よね?それはそれでつまらない」
このサクラの回答。クエルは答えられず一瞬、再度フリーズする。
「食べる、とは?人間の補給の事か?」
「機械の補給と同じって考えてもいいかもね。でも、何て言うんだろう・・・」
サクラは少し寂しそうに、フードコートのホールを眺める。
サクラ自身が作られている最中の時の記憶では、作り主である研究員達がサクラの目の前で、談笑しながら食事している光景を何度も目にしていた。
その光景を見て、会話の内容は堅苦しいと感じたものの、楽しそうと言う印象を持っていた。
更に、人間行動パターンのプログラミングをロードされた際、その“家族像”までもが入っており、サクラ自身もどこかその光景に憧れていた。
「まあ、食べ物がないんじゃいても意味ないね・・・」
寂しそうに呟きながら、サクラはフードコートを離れた。クエルは何も言わずサクラに続いた。
次に訪れたのは、ロボット販売店だった場所。
ロボットとは言いつつも、腕部や脚部、胴体内蔵の部品やCPU、追加プログラミングのデータ媒体など、ロボットその物が置かれていない、所謂メンテナンス専門の店だった。
ここは他と違い、金属製の無機物が大半を占めており、室内の湿度管理が徹底されていたのか、腐食が進行しておらず、意外にも埃っぽい程度だった。
「ここは役に立つものが多い。部品だけでも頂こう」
クエルはそう提案し、自発的に部品の選別を始めた。
「何の為に必要なの?」
サクラはショップ内の並べられた、色褪せた部品を眺めながらクエルに聞いた。
「我々は常にメンテナンスが必要だ。アップグレードに関してはシステムの管理者がもう存在しないからそれは望めない。だから、自己修復の為には部品を自己調達する必要がある」
映画データの解析より凄まじい勢いで部品の選別をするクエル。
「お前自身は自己修復が可能なナノスキンが常備されているから、少々の程度の損壊はすぐに回復出来る。だが交換が必要な事もあるだろうから、部品はあっても困らない」
クエルはマジメに回答するも、サクラは余り理解していない風できょとんとして見せる。
店内をある程度見回って小一時間経った頃に、サクラは有り得ないものを見つけた。
「クエル!ちょっと来て!!」
サクラの叫び声に、クエルは選別作業を中断して店の奥まで行ったサクラの元へ飛ぶ。
「・・・人間、かな?」
サクラの視線の先に、男がいた。
どうも眠っているように見える。真っ白な髪に、肌は本来は色白であろうが、煤で汚れて黒ずんでいる。
背丈も寝そべっているだけでゆうに180cmはある。だが、高身長の割に体の線が細い。しかし本来生物の特徴であろう、寝息を立てていない。
「いや、これは半分が人間、半分が機械、と言ったところだ」
クエルはその倒れた男に近づき、解析を始めた。いくら昼間とは言え室内には照明がなく、クエル自身から発するサーチライトでようやくその男の顔を見れた。
おそらく20代後半。サクラの見た目の年齢とそこそこ近いだろう。
前髪から覗かせる顔は端正な面立ちである。
「・・・おそらく動力炉と疑似血管装置が切断されていて動けないんだろう。燃料自体はまだあるから、修復すれば動ける。どうする?」
クエルは解析を終え、サクラに聞いた。
「治してあげて」
サクラは間髪入れずに答えた。
修復作業を始めて僅か15分程で、男は目を覚ました。
半分人間なのがよくわかる。目の開き方が機械のそれではなく、自然な開き方だろう、とサクラは思った。
それ以上に目を引いたのは、男の瞳が真っ赤な事だった。
「起こしてくれたのはお前らか?」
開口一番、男は問う。
「うん。あなた・・・、人間なの?」
サクラが聞く。どこか期待しているような、不安に駆られたような声で。
「元、人間だったかな。俺自身もどういうモノなのかよくわからん。あちこち機械だし。それに機械化される前ですらも、人間だったかわからん」
男が答える。すると、
「て言うか、お前も人間だろ?なんで俺が人間かどうか確認する必要があるんだよ」
と、サクラにすぐに質問返しをした。
「私は、Satellite Active Killing Underfront Runtime Andoroid、DBA-03A。コードネームはサクラ。アンドロイドなの」
すらすらと、サクラは答えた。これには男も衝撃を隠せなかったようで、半開きだった目が一気に開いた。
「アンドロイド?無茶苦茶精巧だな。記録上の時間だと、現在は西暦8021年、俺がぶっ壊れて140年は経っているか。人間らしいのでもこうやって話すのも140年ぶりぐらいだな」
男は自嘲気味に吐き捨てた。
「どうやら、今は何もかも落ち着いている、と言うか全てなくなったんだろうな、いろいろ案内してくれ。俺の名前はジンだ」
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