第2話 本屋イストワール
地図を見るが、この辺りは近場だけどあまりこっちには来たことがないな。
こっちの方は殆どが昔ながらの住宅街が広がっているので、俺たちのような学生が遊ぶとなればこっちに来るよりも反対側の液側の方にいって遊ぶことがあるので来ることは無いのだ。実際にこんな奥まで進んでいるのは初めてだ。
俺は地図を頼りに町の中を進んで行く、進む途中にちらほらと店の余蘊物が見えるがそのどれもがすでに閉まってしまっている。
本当にこんなところに店なんてあるのか……?
正直な話少しあるのか不安になってきていたが柊が教えてくれた場所までやってきた。話が本当ならこの辺りにあるはずなんだが。
俺は周りを注意深く見渡して探す。
「もしかしてあれか?」
俺は一つだけ建物の上に看板のような物があるのに気付いて、その看板に書かれている文字を見るとそこには〈イストワール〉という文字が書かれていた。
あれで間違い無いな。それにしてもよくこの薄さで見つけたな……。
俺は店の方に近づいてくと店の入り口の所に張り紙で〈バイト募集中〉と書かれている紙を見つける。
本当にバイト募集してるんだよな?
正直、俺は子の店の様子をみて少し半信半疑になった。何しろ、いかにも人が少なさそうな場所にある店だ。儲かっているとも思えないし、客がそこまで来る様子には見え無い。
でもまあ、雇われなかったらそれでも良いか。別に仕送りもあるからそこまで困っているわけでもない。
俺は薄い望みを持ちながらイストワールの扉を開ける。
扉の先は大きな本棚に色々な種類の本が並べられていた。それは古そうな本から、最近でも見るような本も色々な本が並べられている。
悪くないな
俺は店に入って最初に感じたのはその一言だけであった。店は静かで神聖な場所を感じさせるほど心が落ち着けられる。
俺の頭の中でここでこの静かな空気の中穏やかに働く自分が予想されて、少し興味が湧いてきた。とにかく俺は店の店員を探すことにする。
見た感じ、いなさそうなんだよな。
店の中は大きな本棚があるせいで死角がかなり多いので店の中全体を見渡す事が出来ない。
「すいません。誰かいませんか?」
「はい」
奥から一言返事が返ってきて、一人の女性が本棚の影から現れた。彼女は少し明るめの茶色のエプロンを身に纏っている。エプロンには何も書かれていないが本を手に抱えている所からここの店員であると予想がつく。店員の彼女は俺を優しい目つきで見ているとその要望の予想通りの優しげな口調で微笑みながら俺に話しかけた。
「いらっしゃいませ。どうかされましたか?」
「ええと、実はここでバイトの募集があるって聞いたので寄せてもらったんですが」
すると彼女は手を合わせながら笑顔で話す。
「バイトの応募ですか!初めまして、
俺は彼女に案内されるがままカウンターの方へと歩いて行く。カウンターの方は本棚の所とは違ってきれいに整理されて本が数冊おいてあり、小さな動物の置物がカウンターの上を賑やかにしている。
「こちらにどうぞ。お茶を持ってきますので少し待っていて下さいね」
「ありがとうございます」
生田さんはカウンター近くにあるドアから奥の方に入って行き、その場に俺だけが残される。とりあえず待っている間、俺はなんとなくカウンターの周りを眺めていた。カウンターは普通にここで並んでいるのであろう本の値札貼りの途中のものやメモ帳など特に普通の物がある。
だが俺はその普通のカウンターの中で一つだけ気になった物があった。
これは本なのか?
俺が見つけたのは一つの分厚い本のようなものだった。だがそれには表紙にも背の部分にも題名など何一つ書かれていない。だがそれには本に時々ついている栞として使うヒモがあった。かといって手帳というにはさすがに大きすぎる。
正直な話、中身には何があるのかとても見てみたいが店の物を勝手に触るのはよくない。だけど少しなら良いか?
俺がそうやって謎の本に興味を注がれていると奥の部屋からお茶が入った湯飲みをもって帰ってきた。俺はすぐにのぞき込んで崩していた姿勢をまっすぐに直す。
「お待たせしました。熱いのは大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。ありがとうございます。それじゃあ始めましょうか。もう一度確認だけどバイトの応募ってことで良かったんですよね?」
「はい。そうです」
「来てくれて良かった。私一人だとかなりキツかったんですよ」
「一人でやられているんですか?」
「違いますよ。ここの本当の店主は私のおじいちゃんがやってるんですけど、おじいちゃんは今はちょっと体の調子が良くなくて仕事が出来そうにない状況だったので私が一人で働いているんですよ」
なるほど。そういうことか。見た感じ俺と歳はそこまで離れていなさそうだし、ここで一人で経営するのはさすがにないか。
「バイトの人には最初は本棚の整理をお願いしようと思ってるの。見てもらって分かる通り、こんな感じだから。おじいちゃんもそこまで動けないから私一人でやっていたんだけどさすがにしんどくてね」
生田さんは苦笑いで話す。
確かに一人でやるのは大変そうだな。本の量はかなりあるから管理や整理も大変なはずだ。
「まあ、徐々に慣れていったら他の事とかもしてもらうって感じで。こっちは来てくれるのは大歓迎なんですけどどうですか?」
向こうは歓迎してくれるのならこっちが何も思う事はない。俺は頭を下げて言った。
「よろしくお願いします」
すると生田さんは嬉しそうに顔をほころばせる。
「こちらこそよろしくお願いします」
こうして俺はここイストワールで働くことが決まったのだ。
人生の写本 蓮悠介 @mametaro32
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