人生の写本

蓮悠介

第1話 平凡な俺

「加藤選手。優勝おめでとうございます。今の感想を教ええていただけますか?」

テレビの向こうで一人のアスリートが優勝後に多くの報道陣からインタビューを受けている映像が流れている。

テレビの向こうのアスリートがやりきった笑顔でインタビューの質問に答える。

「ここまで俺を育ててくれた先生、そして俺を支え得てくれたみんなに感謝の言葉しかありません」

「加藤選手がこれを始められたのは中学生の頃だということですが始めたきっかけは何だったのでしょか?」

「最初は自分は普通の学生でした。何かに頑張ることもできずに自分は何の価値もない人間なんだと思っていました。だけどちょうど先生に出会ったことでこの競技に出会うことが出来たんです」

「そうなんですか。では加藤選手。テレビにむけて一言お願いします」

「はい。みんなこれまで俺を支えてくれてありがとうございます!そしてこれを見ている自分の人生は無価値と不安に思っている方々そんな不安はしなくて良いと思います。あなたが価値のある人生を望むのであれば道は開けるんですから」

「ありがとうございます。ではそちらに戻します」

そしてインタビュアーの言葉によって画面はニュースキャスターの方の画面に戻る。

それからはニュースキャスター達が選手について色々な話を広げている。

「…………」

俺はただ黙ってテレビの電源を切った。

「そんな出会いがあるのか?」

俺は伊島凡人いじまなみと。どこにでもいる平凡な人間だ。

これといった長所も短所もなく、何かに熱中するようなこともないない人間。

俺だって最初は何かにテレビに出てくるようなあの今を輝く人たちに憧れて、ものすごい活躍を行わないとしてもほんの少しでも自分が輝きたいと思って気になった事をやろうとは思った。

だけど、そんな事も長続きはせずに途中で挫折。今日も何の代わり映えもしない。普通で何の物語も起きない日常を送っているのだ。

俺は運命の出会いがいつか来るなんて信じられない。だけど本当にそんなものがあれば、その時に俺は今よりも変われる事が出来るのだろうか?

そんなどうでも良いことを考えているうちに俺は時計の時間に気付いて、すぐに立ち上がった。

「・・・もう行かないと遅刻するな」

俺ぁ今日の授業に必要な荷物を急いでカバンの中に詰め込んで家を出て行った。

大学まではそこまでの距離はなく自転車で二十分ほどでいける距離にある場所だ。

この大学もなぜ入ったと言われたのであれば、俺のレベルでいけるというのが理由であった。

学ぶ事は俺が少しだが興味があったのも選んだのも理由の一つだが別にそれを将来仕事にしていきたかったり、詳しい事を学びたいとも思った事はない。ただ少し気になっただけである。

教室に着くと先に来ていた友人が席を取ってくれていた。俺は取ってくれていた席に向かって友人に挨拶をかける。

「おはよう」

彼は田中柊。俺が入学した当初はあまり接点がなかったのだが、彼が通学途中に怪我をしている所にちょうど通りかかってそれ以来話すようになったのだ。

「おう、おはようさん。ほらレジュメの方を配られてたぞ」

「ありがとう」

「そういやさ聞いてくれよ」

柊が少し嬉しそうな様子で俺に話しかけてくる。

「どうした?」

「実はな、SNSで書いてた絵を投稿してたらさフォロワーさんから一緒に画集を出さないかってDMが来たんだよ」

「まじかよ」

「ほら、これこれ」

そういって柊は俺に自身のSNSのDMの画面の見せてくる。俺はその画面をみて、柊に賛辞を送った。

「良かったじゃないか」

「ああ!本当に嬉しい。まさか他の絵師さんたちと一緒に書いて出せるなんて思ってもなかった!」

「それじゃあ画集には何を書くつもりなんだ?」

「そうだな…… やっぱり俺は一番の推しのキャラを書くかな。だけどポーズとかは考えないとな。どうしよう…… 凡人はどんなのが良いと思う?」

「そうだな……」

そうして二人で考えている内に教授がやってきて授業が始まってしまい、話は途中で打ち切られた。だが授業が始まっても俺の頭の中には先ほどの柊の話がいつまでも残り続けている。

やっぱりすごいな…… それに比べて俺は……

俺はただ柊をすごいと思っていた。それは柊の絵が他の人に認められたと言うのも含まれるが。俺がすごいと思うのはそれまでに柊がここまでずっと絵を書いてきたと言うことだ。

柊は絵が好きであった。確かに最初はそこまで上手なものではなかったが、柊はずっと絵を自分なりに描いて上達していったのだ。

俺も何度か上手く描けたと言われたのを見せてもらい、徐々にレベルが上がっていっているというのを感じ取ることが出来た。

ただただ柊の頑張りはすごいと感じることだけだった。だがそれと同時に俺の心の中ではやはりモヤモヤとした物がずっとうずいているのだ。

それは柊や他人などの何かのチャレンジに成功した人間に対する嫉妬というよりも俺がいかにつまらない存在であるのかということを実感していくからだ。

俺だって最初は絵を描こうともしただけどすぐに面倒くさくなってやめてしまった。

だからこそ余計に俺は自分自身がつまらなくてなんて無価値な人生を送っているのだろうと思ってしまったのだ。

高校生の頃は勉強や部活で時間がないからと自分をごまかしてはいたが大学生にも鳴れば時間も出来、より一層自己嫌悪がひどくなってしまう。だけどそんな自分を打破しようと何かに取り組んでみようにも長続きはしない。

もう俺はどうしたら良いのかなんて何も分からないんだ。俺の物語は何もないただの白紙そのものだ。

「おい。凡人」

突然俺は横から声をかけられて、ビクッと反応する。声の主は柊であった。柊は不思議そうな表情で俺の顔を見ながら尋ねてくる。

「何ぼーっとしてるんだ?」

「あ、ああ…… ちょっと考え事をしていてな」

「そっか。ほら、もう授業終わるし。早めに片付けて昼飯行こうぜ」

「そうだな」

気付くと授業は殆ど終わりになっていた。昼の食堂はすぐに混んでしまうので席を取るためにも俺はすぐにもう使わなさそうな物からしまっていき、授業が終わるとすぐに食堂に向かっていった。

食堂はなんとか早めに授業を出れた事もあったので特に並ぶこともなく、楽に席を確保することが出来た。俺たちは向かい会いながら食事を取っている中、柊がスマホをいじっておりスマホの中の画面は色々なイラストのポーズが乗っている。柊はそれを真剣に見ている。

こんな風に俺もなれるんだろうか

すると一通り見終えたのか、スマホから目を離して俺に話しかけてきた。

「そういえば凡人。バイトは決まったのか?」

「実はな、まだ決まってないんだよな。良いところが見つからなくてさ」

「そうなのか。実はさ、この前歩いてたらバイトの募集の張り紙を見つけてさ。そこ本屋でさ、凡人は本も良く読んでるしバイトするなら合ってるかなって思ったんだけど。どうだ?」

本屋か。確かに本屋では少し働きたいと思ってたから悪くないかもな。

「一回話にでも聞きに行ってみようかな。場所と本屋の名前教えてくれるか?」

「おう」

そうして柊は地図のアプリで大体の場所を教えてくれた。どうやら店の名前は地図には載っていなかったようだ。

「名前はイストワールだったな」

「イストワールか。ありがとう。今日はこの後の授業で終わるし一回行ってみる」

その後、俺は今日の授業を全て受けおえると教えてもらったイストワールに早速向かう事にするのだった。

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