第34話、実は結構気や感性のあう、属性盛り盛りダイナマイト
放送室は、学食とは向かい合った校舎の側の、入り口から入った二階にあった。
僕は迷うことなく、スライド白塗りのドアを一気に開け放つ。
するとそこには案の定ミャコの姿があった。
思えば数ヶ月足らずの学院生活で、彼女の印象もずいぶんと変わった気がする。
一見すれば妖艶さすら感じ取れる容姿であるが。
その内にあるものは脆く、アンバランスな危うさを持ち合わせている。
僕の周りにいる、比較的仲のいい女の子達の中では、ある意味一番の乙女、といってもいいかもしれない。
「わ、ホントに来たよっ……ど、どうしよう」
「そん感じやと、いつものようにあんさんも巻き込まれたカタチのようやな、ミャコ」
堂々たる見た目な割に臆病なところがギャップ萌え、なんて益体もないことを思いつつそう言うと。
ミャコはあからさまにびくりと跳ね上がった。
「アタイのこと、知ってるんだ?」
「あっ……ヤバ」
そしてその意味が見知らぬ人間に知った風に呼ばれたからだ、ということに気づき、はっとなる。
どうも、自分の姿が見えないし、初めにあった身体の違和感にも慣れてしまったのか、気づけば普通に接してしまっていた。
「いやさ、もうぶっちゃけてもかまわへんかな? 僕やって、僕、吟也やって。サマルェの魔法料理のせいでこんなんなってますけど……」
「……そうなの? あ、言われてみれば似てるかもしれないわねぇ」
それでも魔法料理体験者のミャコならこんな突拍子のないことでも話せば分かってくれるかもしれないと思い、そのままミャコに状況を説明をしてみると。
少しだけ警戒を解いてくれたような気配を見せてくれる。
しめたと思い、僕は訊きたかったことを訊くことにした。
「でな、理解してもらったとこで訊きたいんやが、何なのこのビラ、臨時試験って。吟也さんこんなん一コも聞いてへんぞ? どうせあれもこれもえっちゃんの仕業なんやろ」
「え、そうなの? アタイ、了承済みだって、吟也が凄く張り切ってるって聞いてたけど……」
すると、そう言ってきょとんとするミャコ。
そんなん嘘に決まっとるやろとも思ったが。
そもそもミャコこと二希観弥子はえっちゃん、僕が予想する企画の黒幕である坂額恵美とは無二の親友らしく。
えっちゃんのことを何においても信頼しきっている所があるし、もとより純粋な性質なので、言われたことをそのまま信じてしまったのだろう。
「……ま、それはいいや。最悪そう言うことにしといたる。それより、その諸悪の根源のえっちゃんはどこや? ちょーっと聞きたいことあんねんけど」
「えっちゃんの居場所? えーっと、あ、こほん。えっちゃんの居場所知りたくば、このアタイと勝負しなさーい」
「ナニその言わされとるマックスなセリフ。って、ち、ちょっと! マジなんかいっ?」
ミャコがそんな棒読みのセリフを口にしたところで、いきなり右手をかかげ、戦闘体勢に入るものだからたまらない。
その右手に宿るのは、鋭利な風(ヴァーレスト)の刃潜みし翠緑の光だ。
その突然の、予想だにしない展開に、思わず慌てふためく僕。
「だいじょぶ、すぐ終わるって。アタイがここで終わらせてあげるんだからね、吟也のニセモノさん」
「だーかーらー、なんでそうなるんや! し、しかも僕のハナシ分かってくれてたんちゃうんかい!」
「何言ってんのさ。そんな分かりやすい嘘。さすがにアタイでも分かるって。第一、吟也はそんなに可愛くないし、もっと生意気でえっちぃよ?」
「……ぐっ」
えっちぃのは否定するつもりはないが今何も関係ない気がしないでもないし、これが嘘だって分かるのならそのアホな試験が嘘だってことも分かって欲しいと思わずにはいられなかったが。
まさかミャコにそんな事言われると意外も意外で、思わず言葉に詰まってしまう。
「図星みたいだね。……それじゃ、吟也を返してもらうよっ!」
「……っ!」
そしてそう言うや否や、ますます跳ね上がるミャコの魔力。
結局こうなるのかと、僕はそのまま圧されるようにして下がる。
『……っ』
そこに、聞こえてくるのは恐れ含んだ詩奈の息遣い。
それにより、僕はミャコが何をしたくて、思っているのかが分かったような気がした。
ミャコたちは、偶然か……そうでないのか、僕が何者かに身体を乗っ取られていると思い込んでいるように見えるのだ。
いや、それは思い込みではないのかもしれない。
事実、詩奈はこうして僕の中にいるのだから。
まぁ、別に乗っ取られているわけでもないし、彼女にもそのつもりはないようだったけど。
「痛い思いをしないですむように、一瞬で決めたげるっ!【ラブラドライト・ウィロ】っ!」
「やばっ」
ミャコがそう叫んだ瞬間。
まるで時が止まったかのような、一時の静寂がその場を支配する。
それから、急激に時が動きがしたかのように。
今まで僕が立っていた空間の空気が、ブツリと音を立てて切り離されて。
その力の余波で、物凄い突風が湧き上がる。
『わ、わぁっ』
聞こえるのは逃げようとしても逃げ場のない、詩奈の焦った声。
それに引っ張られたのかなんなのか。
おかげさまで腰が抜けたようにへたりこむ体勢になっていた僕は、運良く直撃を免れ、そのへたった状態のまま風に流されて、そこにあった長いすやら何やらにまみれて転がっていった。
きっと詩奈にとってみれば、目の前でめまぐるしく世界が回転していたことだろう。
「か、かわした? な、なかなかやるじゃない」
「あ、あああアホゥ! かわした! やないでっ、かわさな死んでまうわーっ!」
よろよろと立ち上がり、涙ちょちょぎれな勢いで叫ぶ僕。
こんなときでもツッコミを忘れないでいられる程度には、僕にも芸人魂があったのかとちょっと思ったり。
「今度ははずさない、アタイが止めるんだから!」
「止めるって! 僕の息の根ってオチかいっ。チクショーっ、こ、こうなったらっ!」
再び右手を掲げるミャコにそう切り返してから、それを迎え撃つようにスパナを構える。
すると、聞こえてくるは。
詩奈とはまた違った、僕だけに聞こえるスパナの彼女の声で……。
(第35話につづく)
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