第33話、もしかしたら初めからきょうだいで同じ『ばしょ』に棲んでいたのかも
アオイは、先程の剣幕はどこへやら。
何やら懐から取り出した言葉通りのビラを僕に手渡した。
そこに書かれた内容を読むにつれ、僕はまたしても驚愕、絶句する羽目になる。
【―――臨時特別試験要項。
他のライバルを退け、校内にいるターゲットを探し出し、
見事ノックダウン(KO)させたものに特典が与えられるビックチャンス。
下の三つからお選びください。
1、ジャスポースの街食い倒れツアー(吟さんの自腹で)。
2、ランプの精(吟さん)が三つのお願いを聞いてくれる。
3、吟さんの秘密写真をゲット!
……なお、提供は太っ腹な吟さんと、これを呼んでくれてる目の前のアナタ☆でお送りしまーすっ! 】
「なっ、な、な、なんじゃあこりゃーっ!」
クセのある、その人となりが垣間見えそうな丸っこい字で書かれた、いかにも手作りなビラ。
そこに書かれたことを何とはなしに口にして読んだ僕は、そのままさいごのアドリブがごとく、大声をあげてしまう。
明らかに、いち個人の対し悪意のこもっていそうな内容だった。
それを臨時試験などとして、許可した? 学園もどうかと思うが。
それを見てアオイやヒースが滅茶苦茶本気で参加しているという事実に僕は思わず頭を抱えたくなる。
しかも特にヤバイと思うのは三つ目だろう。
人に許可も取らずに、勝手にこんな企画を立て、尚且つ参加している者たちの心情が知れないが。
何であれ、それをゲットされるのは流石にまずすぎる。
なんとしても阻止せねば。
幸いというか何と言うか、その秘密を握っている奴……これを書いた人物にはアテがあった。
というか、写真の存在を知っている人物は一人しかいない。
いろいろと手遅れにならないうちに(もう遅いかもしれないが)、その諸悪の根源をとっ捕まえて、この性質の悪い企画そのものを中止させる必要があった。
「くっそ。あんにゃろめー。何の恨みがあってこんなこと……。いいか? 二人とも。それはガセや。嘘っぱちや! 僕をどつきまわしたかて、そんな特典もらわれへんからな! 本人が許可してへんねんから! つーか、1や2ならあんさんら二人くらい吟也はんがなんとかしたる! そんなわけやから、ちょっとこれの首謀者とっちめといたるからな! んなわけでさいならやーっ」
一方的にまくし立てるようにそう宣言した後、二人に何か突っ込みを入れられるよりも早く、僕はその場を駆け出し突っ込みが来る前に離脱する。
「そんなこと言って逃げる気かっ! って、早っ、もういないし」
「……」
だから僕は、そのあまりの逃げ足の速さに呆然としているアオイと。
それとは別に、どこか複雑な表情で見送るヒースのことに、気づくことはないのだった……。
※ ※ ※
『あんな約束して、よかったんですか?』
そして再び学食のある本校舎へと逆戻りし、その建物の中にあるいかにも現代風な名前の放送室へと向かう僕に、ふと、詩奈はそんな事を聞いてくる。
「ああ、そやな。あいつらとこんなアホみたいなことでやりあうくらいなら身銭切ったほうがナンボかましやしな」
『でも、本当にあんなことで吟也さんを襲ったんでしょうか?』
「あんなこと? それはもしかしなくても僕がけなされとるのかな? まあ、実際詩奈の言う通りやと僕も思っとるけども」
そう言われ、あからさまにヘコんだ素振りでそう言うと。
純粋で正直者っぽい詩奈は慌てて言葉を返す。
『あ、いえ。そう言う意味じゃなくって、ホントは別の理由ああったんじゃないかって思ったんです。特に……ヒースさんは、ひょっとしてわたしがいるからなんじゃないのかなって、ちょっと考えちゃったんです』
「つまり、ヒースは詩奈がおんのに気づいてて、それで僕を襲ったって、言いたいんか?」
『たぶん、ですけど……』
自信なさそうに、それでも、どこか確信めいた気概すら持って詩奈は呟く。
僕は、それを否定するでもなく肯定することもできなかった。
「ま、どちらにしろ無益に戦わないこに越したことはあらへんしな。首謀者とっちめたる」
代わりに、そう言って笑った。
まるでそのことが最初から分かっていていたと、少しでも詩奈を安心させるように。
「それもこれも、このありえへん企画考えたやつなら分かるかもしれんよ。いや、むしろ……詩奈のこと、失った記憶も大切な人も分かるかもしらへん。よく考えてみたらな」
『そうなんですか?』
自信たっぷりに僕が言うものだから、その理由を聞きたいって、強い感情が詩奈から伝わってくる。
「ああ、そや。あいつは未来を先読みする力、持っとる。下手したら何もかも知っとってもおかしないな」
『未来を……読む力……』
詩奈は、そう言ったきり、何かを考え込むように黙り込んでしまう。
襲われ記憶を失ってしまった時のことを思い出しているのか、何故か僕にも伝わる、彼女の恐怖と痛み。
(うーむ。だんだんお互いの壁がなくなっとるっちゅーか……)
僕の身体に、詩奈の魂が馴染み始めているのだろうか。
それがいいか悪いかどうかは分からないが、まぁ詩奈ならいいか、なんてその時僕は楽観的に考えていて。
「よっしゃ、まだいてくれよ、とっちめちゃる」
そんな事を考えている間にも。
僕達は目的地の放送室へと到着するのであった。
(第34話につづく)
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