第18話、ちょっとどころかここからオハナシが続くんじゃ
このままここで頑張っていれば。
ブラック・ロックほどの伝説クラスの化け物だって倒せる力を持つことができるんだろうと思う。
あるいはもう持っているのかもしれないけど。
それでも今はまだ早いと。
今はまだ、こんな所でその力を使うべきじゃないと自分勝手に思ってしまったんだ。
だから、一番確実な方法を取ろう思った。
本当は、僕がカッコつけたいだけなのかもしれないけど。
―――僕の信念は、彼女たちのそんな強い心を隣で守ること。
そのためやったらなんだってできるって、それが試験前の最初の決意。
僕が、その力を解放すると。
フロア自体がビリビリと震え、細かな電気が壁に走っていって。
「吟也くん? な、何してっ……?」
すぅの逡巡する言葉に、僕は答えるべく言葉を紡ぐ。
「分かってる思うけどな。あいつは今の僕らが勝ち目のある相手やない。フツーに考えたら、レベルが違いすぎる」
そして、ブゥンと昔懐かしのテレビをつけた時のように、場が揺らめきだす。
「そんなことっ。やってもみないうちからどうして分かるのですかっ!」
セツナの言うように、ここにいるみんながそう思ってるはずだった。
だからこそ、僕は事実を述べ続ける。
「そうやな。やってみいひんと分からへんよな。自分を犠牲にできる意思と力を持っとる、君らには」
「……っ」
「き、貴様……まさかっ!?」
ヒロが言葉を失い、サユが僕の意図に気付いたようだったけど、それはもう遅すぎて。
「……だから、それを君らの誰かがやるくらいなら、僕がと思っただけや」
バチンッ! と、意識がこの造られた世界とアクセスするのが分かる。
それにより、あの……力の覚醒するきっかけとなった夢の意味と。僕が何故この力を使役できるのかが分かったような気がした……。
―――始まりは……きっと、みんな同じだったんだと思う。
世界を救う使命を負うために生まれた子供たち。
ただそれには、自由の意志が約束されていて。
僕は多分、それから逃げ出したんだ。
でも、今はもう、逃げたくない。
何を今更って思われるかもしれないけど。
そんな逃げた奴らの責を全部背負って頑張っとる奴らに。
僕はできることをしたいと思った。
だってそれが、僕の力の源だから……。
だから僕は、その力を降臨させる。
人ならざるもの、【妖の人】と呼ばれるジブンの、その力を解放する。
だから来んなって言ったのに……なんてことを思いながら。
「……全ての人が造りし在に、住くのは紅の証。今、その代価を以って銀色の皇、この地に降臨せよ! 《全言統制(カレット・グロウフィリア)》ッ! 」
ありったけの力とともに僕は叫ぶと。
その瞬間、世界はフリーズする。
目の前には、凍ったように動かないブラック・ロックの姿。
僕はその、0と1で成されたプログラムの塊に手を掲げて。
その存在をこの世界から……デリートした。
※ ※ ※
多分それは、他のみんなからすれば瞬きするくらいの一瞬だったんだろう。
僕の力は、人によって造られたものを媒体にして、現実に具現化し、影響を及ぼすもの。
今やった技は、その応用。
この擬似世界……【異世】と呼ばれる創られた世界そのものを媒体にして操った。
分かりやすく言えば、この異世全てが僕と同化し、僕になっていたってことになる。
ただ、今の一瞬ですら……僕の許容量を遥かにオーバーしていて。
全身の神経が、電力の限界を超えて焼き切れたコードのように、悲鳴を上げた。
「吟也くんっ!」
何の抵抗もせずに崩れ折れる僕に、すぅが、みんなが駆け寄ってくるのが分かる。
「吟也さんっ!? その髪……」
聴こえるのは、ヒロの驚きの声。
何しろこの技を使ったのだって始めてだったから自分でも驚いているのだが。
僕の視界に掠める赤かったはずの僕の髪は、水銀のような……金属のような銀色になっていた。
おそらく、魔力だけじゃ足らなかったのだろう。
その代償は、僕の生命力だったようで。
「吟也さん! あなたは……なんてことをっ!?」
分かってるよ、何をしたかくらいは。
僕はセツナにそう言おうとしたが、言葉にはならなかった。
僕のしたことは、テスト問題そのものを消し去ってしまったのと同じこと。
当然、ルール違反だろう。
「だ……からっ……くんな、言うたや……ろ?」
「それ以上喋るなっ、この馬鹿っ!」
真っ先に僕を支えてくれたサユのそんな叫び声。
関西人(ニセモノだけど)にバカゆーなって突っ込みもできなくて。
それよりもこれでもう落第かなって気持ちのほうが大きくて……。
「ぎ、吟也くんーっ!?」
すぅの、僕を呼ぶ声が聴こえる。
いつまでも、いつまでも心に残るような声。
そして。
ああ、こんな終わり方も悪くわないな、なんて自分に浸りつつ沈んでいって……。
(第19話につづく)
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