第11話、だからもう限界で、諸手を挙げてへこへこしたいです



不意に、ポテっと頭の上に落ちてくる巻物タイプの指令書。


それは、魔力の塊であったのか。

そのまま吸い込まれるかのように頭の中へと消えていって……。



『今のはね、五人それぞれ別々の、この試験をクリアするための条件やヒントなどが書かれたものなの。与えられたその条件やヒントを班のみんなに教えるのも自由、教えないのも自由。後は、中にいるナビに従って、ゴールを目指してね!』


わざとやっているのが確実なくらい明るい声でジュアナ先生は説明を終える。

後は全て僕らでやれ、ということなのだろう。

僕は先生から提示された条件とヒントを見て、思わず笑みをこぼしてしまった。



「……貴様、何をたくらんでいる? その顔はなんだっ」

「ふんだ、この顔はもともとじゃい。 それより、どうすんねんな? ヒントと条件、ここで出し合うんか?」


僕は目ざとくつっかかってくるサユをあしらい、先を促す。


「……いえ、とりあえず中に入りましょう。始まってから教えあってはいけないとは言われていませんし」

「中に入って協力するステージなのか、競争するステージなのか確かめなくちゃね」


セツナやヒロの意見はもっともで、それに異を唱えるものはなく。

ステージへとつながる扉から、中に入ることとなった。


「……」


ただ、すぅは一人、さっきから続くピリピリムードが嫌らしく、溜息なんぞ吐いている。



「すぅ、僕が言うんも何やけどな。試験中は集中せな、足元掬われんで?」

「あ……は、はいっ」


すぅは、僕が声をかけたのに驚いたらしく、縮こまってそう答えた。

一応ただの前置きだから、あんま恐縮されても困るんだけどな。


「……それから、いろいろとごめんな」

「えっ?」


そして、僕は言っておきたかった一言をすぅだけに聴こえるように言うと。

再びサユにナイフを突きつけられる前にさっさと中に入ってしまうことにした。

すぅは何だか呆気にとられたようだったけど。


これで覚悟完了、だ。

心置きなく、試験に集中できるってもんだ。

後は、僕の運と実力次第って所ですな。






そんなこんなで。

いよいよ試験が行われるステージの中に入ると。

目の前には凝った岩壁がおどろおどろしいフロアがあり、その突き当たりに二枚の扉があった。

僕らはそれらに注視しつつフロアの半ばまでやってくると。

どこからともなく先生……ではなく、ナビの声が聞こえてくる。



『ようこそ、実践試験用ステージ、『開かない扉へ』。このステージは五人が協力してゴールを目指すものです。ナビの終了後に、二つの扉は開かれますので、事前に提示された条件とヒントを元に、頑張ってステージクリア、してください』


それだけ言ってナビはぷつりと途切れて。

それと同時に、鉄製の頑丈そうな二つの扉が音を立てて開いていく。



……班協力か。

僕は正直胸を撫で下ろしていた。

どちらかと言えば競争タイプの試験のほうが苦手だったって言うのもある。


「協力……ですか。それではお互いの情報を提示することにしましょう」


セツナの言葉に、やっぱり異を唱えるものはいなかった。

情報を言う言わないは、個々の自由だが、ここで拒む理由はない。

提示された僕以外のヒントと条件を要約すると。


1.二つの扉の先には、最終的にゴールにつながる扉があるフロアと、その扉を開けるための鍵になるスイッチがあるフロアに別れており、扉を開けるためにはスイッチを押すものと、扉の前に立って待つものといったように、二手に別れなければならない。


2.今回のステージは6×2のフロアで構成されており、その難易度は変化する。その一つ一つのフロアはやはり扉で区切られており、そのための鍵も探さないといけない。


3.制限時間はなし。合否はゴールまでの様々な判断材料から算出したポイントで決まる。そして、各フロアの扉を開けるとその場で連絡が取れる。相談も可。


……こんな感じだった。



「さあ、後は貴様の情報だけだ……早く言え」

「んー? 情報提示するしないは各自の自由やなかったんか?」


でもって僕は、白々しくもそんなことを言ってやる。


「そんなのずるいよ! わたしたちは教えたのにっ!」

「吟也くん……」

「今回は班協力なのですよ? 情報を提示しない、意味が分かりませんわ」


僕の言葉に、そんな人だとは思わなかったって感じの非難の声がかかる。

そうや、僕はそういう奴なんだぜ、やっと気付いたか。

心底見損なってくれてていいんだぜ。

……なんてほんとはちっとも思ってないんだけど。


「そんな目で見んなや。誰も言わんとは言ってへんやろ? ただなあ、言うてもうたら僕だけ損やしなあ」

「だ、大丈夫ですっ、吟也くんだけ損になるようなこと、しないからっ」


真正直に、自分の気持ちを訴えてくるすぅ。

あかんなあ、また動悸が激しくなってきそうだ。


「さよか、それなら話たるわ。……僕がもろたんは、『五人の班のうち、一人でもギブアップした場合、連帯責任で班全員今回の試験、不合格になる』ってやつや」「そう言う事は早く言えっ! 知らなかったらみんなが大変なことになっていたじゃないか!」

「みんなが大変、やて? 大変なのは僕だけの気がするけどな。あんさんらは試験一回くらい不合格でもどうってことないやろ。僕は、これ不合格になったら終まいやけどな」


僕はサユの言葉を聞き、いかにもひがんでますって態度を見せつつ、そう言い返す。それは、確かなことだった。

僕以外の四人は、今まで実績がある分、有力視されているから一度の失敗くらいで落とされることはないだろう。


「……まあ逆に言えば? あんさんらが僕を蹴落とすつもりならわけないってことやけどな」


流石に本気でそんなことされたらあんまり洒落になってないが、それにより最初に火がついたのはヒロだった。


「信じらんないっ! わたしたちがそんなことすると思ってるの!?」

「そうは思えへんけどなあ? 君らのギブアップする権利、奪ってしもうたみたいで何か嫌やん?」

「貴様っ、言わせておけばっ!」


続いて今にも胸倉を掴みかねない勢いでサユが詰め寄ってくる。


「やめてください、沙柚さんっ! 吟也くんもっ、そんな事、言わないでくださいっ」

「……」


今度はすぅが、サユを押さえて、ちょっと怒ったようにそう言った。

僕は何も言わず、何もかも見透かされる前に瞳を逸らす。


「……で? 後は?」

「後って何やねん」

「提示された情報は他にもあるでしょう? 大人しく、それを話しなさいと言っているのです」


セツナの言葉遣いは丁寧だったが、その声色は冷たかった。

それは、僕の態度に相当頭にきてるって感じだった。


「流石、元№1。何でもお見通し、やな」

「……」


挑発して怒らせてやろうなんて考えたのだが、セツナは何も言わなかった。

何でも一番に拘っとるやつだと思っていたが、どうやら違うらしい。

それとも、それだけすぅのことを認めている、ということか……。


僕は胡乱な考えを取り消し、セツナの言葉に答えることにした。



            (第12話につづく)






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