第12話、ヘタレで偽悪的なキャラが功を奏して作戦成功


僕は、弱気と言うか問答無用でへへぇと従いたくなっている内心を何とか振り払い、

セツナの要望に答えることにする。



「僕がもろたもう一つは、スイッチを押してゴールへの扉を開けた後の話や。まず、そっからホントのゴールまでは、『協力』から『競争』になる。さらに昇順のポイント制で、一位になれば合格確実、ドベになれば不合格の可能性大って寸法や。そうすっと、スイッチ押す奴が不利になるわけやが、ゴールの扉の先にスイッチのあるフロアにつながる道があるんやと。んで、その不利をなくすためにそのつながる道の途中にはまた扉があって、ゴール側からやってきた内の誰か一人にその扉を開けてもらえば、その一人とスイッチ押した奴には自動的に高ポイントが入る。……何か複雑やけど、ゲーム性あっておもろいやろ?」


つまりは、チームワークとはよく言ったもので。

勝ち上がるためには、冷静に今の自分を判断して一位を狙うのか、スイッチ側の高ポイントを狙うのかがカギになってくる。


「今まで協力していた物同士が……ライバルになるってわけですのね」

「面白そうなのは、何となく分かるかも」

「……」


頷きながら納得し、あるいはやる気を見せるセツナとヒロに対し、サユの顔は複雑そうだった。

どうやらサユも競争が苦手なタイプらしい。

一見そうは見えないけど。



「そうすると、うまくすればみんなが合格できる可能性も……」


僕がそんなことを考えていると、そんな事を言ってきたんはすぅだった。

流石現№1。

常日頃考えとることが違うわ……なんて思いつつ、僕は言葉を返す。


「うまくいけばな。……せめてどっちがスイッチで、どっちがゴールに続く扉のある道なのか分かればいいんやけどな。仮に僕がゴールに続く扉のほうやったらスイッチ側の人間は見捨ててゴール走る思うわ。だって、上位狙えばいいんやし、ゴール側から来た奴が扉開けてくれんとスイッチ側の人間はクリアでけへんからな。……ライバル減って、有利やん?」


ああ、それってスイッチ側の方が圧倒的に不利やねって感じを強調して僕は笑う。



「貴様……そんなうまくいくと思っているのか?」

「さあな。僕は僕の予定を述べてるだけやし?」


僕がからかうようにサユにそう言うと……静かに何かを決断するように、セツナは言った。


「それでは、吟也さん。あなたには右側の入り口に入ってもらいますわ。……残念ですが、私に提示されたヒントの中に、スイッチに続く道はそちらだと示されていましたから」

「何やて? 何でそんなこと黙ってんねん」

「さっき吟也さんも言ったよ? 言うも言わないも自由だって。でも、これで決定だね。吟也さんゴール側の道に行ったら何しでかすか分かんないもん」


大げさに焦ってみせる僕に、畳み掛けるようにヒロは言う。


「じゃ、じゃあすぅは吟也と一緒にっ」

「駄目だ。こいつは一人で行かせる、それが一番安全だ」


すぅが言いかけるのを再び遮るように、サユが冷たく言い放つ。

こりゃまいったね。僕に選択権はないらしい。


「抵抗したらここで切って捨てるって感じやな、全く、泣けるくらい素晴らしい協力テストや」


こうやって弱いものが自動的に落ちる仕組みになってる。

まあ、試験なんだから当たり前なんだけど。


「決定ですわね。わたし達四人はゴールの側の道、あなたはスイッチ側の道で」「……貴様、途中でしくじるんじゃないぞ」

「はいはい、わーってるよ。僕だってクビがかかってるんや」


僕は、セツナとサユの言葉を受けて、さっさとスイッチ側の入り口へ向かう。


「吟也、待っててっ、絶対扉開けてあげますから!」

「そこからは容赦しないけどねっ」


そして、すぅとヒロの励まし? の言葉に、ひらひら後ろ手に手を振ると。

僕はスイッチ側の扉へと入っていったのだった……。





           ※      ※      ※





「……あーあ。やっべーな、何もかもうまくいきすぎて笑いがとまらんわ」



目の前のフロアには、数十を超える魔物の群れ。

僕はそれを見据え、一人笑みをこぼす。

実の所、言ってない条件が一つと、言わなきゃ分からないだろうなっていうヒントが一つあった。


条件の一つは、二手に別れた時の、人数の割合による難易度の変化。

例えば、三人と二人の組み合わせの場合、人数の少ない方、二人で入ったステージの方が難易度が高くなる。

無論四対一の場合、一人で入った方の難易度は、更に跳ね上がるわけだ。

すぅに付いてくる言われた時は内心ヒヤヒヤしたものだが、結果的に一人になれたので、まあ良しとしよう。

もう一つのヒントは、別に知らなくてもいいことだが、誰か一人がギブアップした場合、連帯責任で不合格になるのは本当だけど、それには裏の意味がある。


つまり、僕がどんなに足を引っ張っても、ギブアップさえしなければ彼女たちは失格にならないってことだ。

たとえ死んでしまうようなことになっても、僕一人が失格で済む。

ギブアップさえしなければ。


「ま……ゴールの扉のスイッチ押すまでは、そんなこと言ってられへんけどなあっ!」


僕は、持ってきたワンハンドソードを構え、威嚇するように吼えた。

そう、ただでは落ちてやらない、つーか落ちてたまるかっての。

ここまでハードルをあげたのは、やっと自覚できた信念を証明するため。

この状況を乗り越えることこそが、僕の信念やって信じたかったんだ。



「風の心よ大地の意思よ! その猛る感情を力に変えて踊り舞えっ、【ヴァレス・フィエスタ】ッ!」


目の前に迫ってきた魔物たちの大半が、暴力的な【風(ヴァーレスト)】の魔力に飲まれ、無数の砂礫が見えない針のように突き刺さっていく。

ここに通う者ならば、大抵は使える基礎魔法だが、心なしかいつもより威力が上がっている気もして。

僕はその勢いのままに、残った魔物たちの真っ只中へと駆け出していった。




一フロアごとの扉を開けるカギは、大抵は魔物の一匹が持っているか、そんな魔物たちに守られた場所にある。

トラップや仕掛けなどもかなりの数あったが、それは使わず腐れてた自分の技能によって今の所スムーズに回避できていて。


アドバイスをくれたすぅに感謝しつつ。

それでも数多い魔物たちに辟易しながら辿り着いたのは。


四番目のフロアへと続く扉だった。



             (第13話につづく)






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