第10話 また、救急車に乗車

1ヶ月後、無事に母が退院した。この間の娘と言うと、祖母の入院で少し疲れたのか、1週程、学校を休んだものの、しばらくすると、午後3時頃に学校へ行きホームルームや授業、部活に参加できるようになってきていた。

退院後の母への食事の差し入れ、娘のサポート、仕事の繁忙も佳境に入る。平日休みをとるとはいえ、世の中は、平日も動いている。容赦なく打ち合わせが入ってくる。テレワーク何て言う言葉で、家にいてもちょっとした打ち合わせはできてしまう。娘のサポートの合間にそんな打ち合わせもやってしまうものだから、疲れが蓄積していった。ちょっとしたことで落ち込んだり泣いたり、逃げられない現実に私は追い詰められているような感じだった。時折、

「死んじゃいたいな。」

という気持ちが沸き上がってくる瞬間があった。

 「まずい。私が参りそう。」

仕事は適当にしとけばいいじゃない。と母は言う。卒後20数年勤めて引くに引けない状況に陥っており、明日、1ヶ月後に辞めることができない。娘にとって今が大切なのにという想いが駆け巡る。

 仕事、母、娘のそれぞれの役割をどれも辞めることができないから、

「死んじゃいたいな。」何て気持ちが沸き起こってくるのかもしれない。


 そんなとある深夜、下の娘が体が痛い、と呻き始めた。この間、我慢をいっぱいさせているからだろうと、添い寝して体をさすったり、手持ちの湿布薬を貼っても全くおさまらない。イタイイタイを泣きながら訴える。

 できる限り救急車を呼ばない方法をと思い、小児救急電話や、近隣の病院へ電話するものの、受け入れてくれるところが見つからない。横では下の娘がイタイイタイと泣いている。

 「救急車しかないか‥。」

 母に続いて、またもや救急車に乗車することになった。1か月の間に2回もお世話になるなんて。

 救急車の中で、徐々に痛みが治まったようで、救急搬送先ではイタイイタイと訴えることは少なくなっていった。

 レントゲンや診察をしてもどこも悪いところがない。結局痛みの理由はわからなかった。下の娘は物分かりがよく、私に心配をかけまいとふるまっているんだろうなと気がかりだった。下の娘は0歳児の時から保育園に預けて仕事をしてきた。

 私は、今まで子どもの声に耳を傾けて生活してきただろうか。子どもたちが日中生活してきたことに耳を傾けてきたのだろうか。仕事から帰ってきて、あわただしく家事をして、また次の日の朝になる。私は、心穏やかに子どもたちに向き合って生活できていない。人の少ない、深夜の救急病院で自分が情けなくなり泣いてしまった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

眠れる森の‥。 @mijuku_haha_k

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ