小さい時に離れ離れになった彼女と俺が再開して

ゆぴな

短編 小さい時に離れ離れになった彼女と俺が再開して

「懐かしいなあ…やっとこの街に帰ってこれた」


親の仕事の都合で街を転々として10年。俺は奇跡的に昔いた街に戻ってきた。

高校2年生として今日からこの学校に転校になった。


「高梨 健太です。よろしくお願いします」


軽く自己紹介を終えると、奥の席から昔の面影がある友人から声をかけられた。


「健太?健太じゃないか!?久しぶりじゃん!」


「弘樹か?久しぶり」


担任の先生から

「なんだお前ら、知り合いか?」


「ええ。ずっと前にこの街に住んでいたことがありまして」

中野 弘樹は小学校のとき同じ1年生から俺が転校するまでずっとクラスだったやつで、何かとバカをやってよく2人で先生に呼び出しをされた。


「そうか。ならちょうどいい。高梨の席はちょうど中野の隣だ。今日はあいつに教科書を見せてもらうといい」


「それじゃあ授業をはじめるぞ」


・・・・・・・・・

「起立!礼!さようなら」


今日の授業がすべて終わり、放課後になり解散の挨拶が告げられると、俺のもとに弘樹が寄ってきた。


「健太!今日この後予定あるの?歓迎会がてらにカラオケでもいこうかなって」


「悪い。引越ししたばかりだから荷物整理しないと。また誘ってくれると嬉しい」


「そうか。じゃあ歓迎会はまた今度だな。また明日」


「楽しみにしてるよ。また明日」


そういって俺は帰り支度を終え、学校を出る。

学校に弘樹の他にも小学校時代の友達がいて安心した。


「街並みは昔とあまり変わらないなあ。あいつはどうしてるかな」


過去と今の景色を比べながら帰り道を歩く。

学校では今日会わなかったけどあいつは隣のクラスらしい。


しばらく歩くと我が家で見えてきた。玄関の前に誰かを探しているのか周りをキョロキョロしている1人の女の子がいた。その子が俺に気付くと


「も、もしかしてけんちゃん?」


「そ、そうだけど…もしかしてそのキーホルダー…」


あのキーホルダーは俺がお小遣いを貯めてお揃いで買った幼馴染へのプレゼントだったはず。てことは、


「えへへ。めっちゃ久しぶりだね!」


そうして彼女、橋本 綾香と10年ぶりに再会した。


綾香はこの町から引越す前に隣の家に住んでいた幼馴染だ。

幼稚園から小学校まで毎日のように遊んでいつも一緒にいた。


・・・・・・・・・

~10年~

親の都合でこの街を離れることになった当日。


「やだやだ、行かないで!けんちゃんと離れたくない!」


「ほら綾香、わがまま言わないの。高梨さんが困っているわよ。悲しいのはわかるけどさよならしなさい」


と、綾香の母。すると綾香は


「また、会おうね!絶対だよ!!」


「うん!あやちゃん。必ず帰ってくるよ!しばらく離れ離れになっちゃうけどまた会おうね!」


「やくそくだよ!」


「やくそく!これあげる!あやちゃんにプレゼント!ぼくとお揃いだから離れてても気持ちはいっしょだよ!」


「キーホルダー?わあ!ありがとう!大切にするね!お花の柄のキーホルダーだね」


「お花には花言葉っていうのがあるらしいんだ!そのお花、バラっていうんだけど、花言葉は“あなたを愛しています”っていうんだって!」


「…え?え??」


「ぼく、あやちゃんのこと大好きだからその花がいいなって」


「そ、それっても、もしかしてプロポーズ…?えへへ…」


あやちゃんが小声で恥ずかしそうにほほ笑む。


「ぷろぽーず?よくわからないけどあやちゃんのこと好き!」


「わたしもけんちゃんのこと大好き!待ってるからね!」


その時はプロポーズの意味がよくわかってなかったが、綾香が喜んでいたからよかったとしか思ってなかった。その後、綾香にまたいつか会おうと別れを告げてこの街から離れていった。


それが今でも綾香覚えていたとは。子供の時の約束を今でも本気にしているとはその時は思ってもいなかった。


・・・・・・・・

綾香と再会して話していると


「今日、晩御飯どうするの?」と聞かれた。


「親父の帰りが遅いから適当にコンビニで済ませるよ」


「じゃ、じゃあさ!うちでご飯食べていきなよ!」


「いやいや、いきなりでおばさんに迷惑だろ…」


「お母さんから『健太君が帰ってきたらしいから一度ついておいで』って言ってたよ!」


「なら、晩御飯ごちそうになろうかな。とりあえず引越しの荷物片づけなくちゃ。晩御飯の時間にお邪魔させてもらうよ」


・・・・・・・・・

「だいぶ片付いたかな」


時計を見ると18時45分。綾香の家は昔と変わらなければ19時にご飯だったはず。

ちょうど一段落したし行こうかな。


“ピンポーン“と橋本家のインターホンを鳴らすと

「はーい!」と綾香の声。


「さ、あがってあがって!」


「お邪魔します」


綾香と一緒にリビングへいくと


「あら~、久しぶりね~健太君。もうすぐできるから座って待っててちょうだい」


「わかりました。ありがとうございます」


「固いわよ。将来息子になるんだからお義母さんって呼んでもいいのよ?」


…息子?お義母さん?


「ちょっと!!お母さん!」


綾香が顔を赤く染めながら怒っている。


「けんちゃんは早く座って!ご飯できるよ!」


「あらあら。なんて怖い娘なのかしら。さて健太君。ご飯にしましょう」


「「「いただきます」」」


おばさんが作ってくれたカレーは絶品で、俺と綾香の大好物だ。

昔に何度も作ってくれてとても懐かしい味だ。


「お口に合うかしら?」


と聞かれると


「もちろんです。昔以上においしいです」


「あら、お上手ね。それに比べて綾香は何も言ってくれないのよ。悲しいわ」


「…おいしい」と綾香


「ふふふ。昔から素直じゃないんだから。今日だって綾香が健太君とどうしても晩御飯を一緒に食べたいっていって聞かなくて」


「ちょっとお母さん!!いいかげん怒るよ!?」


「もう怒ってるじゃない。それでおかわりはいるの?」


「…いる。ルー大盛り」


「まったく。よく食べる娘だわ」


・・・・・・・・・

「今日はごちそうさまでした。カレー、とってもおいしかったです」


「そういってくれると作ったかいがあるわ。またいつでもいらっしゃい。それじゃ気をつけて帰るのよ」


「明日、一緒に学校に行こうよ。朝、迎えにいくから」と綾香


「わかった。それじゃおばさん、綾香。おやすみなさい」


「「おやすみ」(なさい)」


・・・・・・・・・・

ピピピピピピ…

7:30分。目覚ましのアラームが部屋中にけたたましく鳴り響く。


のっそりとベッドから体を起こす。

伸びをしながら窓際に向かい、カーテンをあける。


母さんが作ってくれた朝ご飯を食べ、食器を洗っているとインターホンがなる。


「けんちゃん、迎えに来たよー。起きてる?」


玄関に向かいドアを開けると綾香がすでに準備を終えた様子で迎えに来ていた。


「おはよう、綾香。もうすぐ準備できるからあがって待ってて」


「おはよ。じゃあ待ってるね。」


それから食器を片付け、歯磨きをして制服に着替え準備を終えると綾香に声をかける。


「お待たせ。じゃあ学校行こうか」


2人家を出て学校へ向かっている最中、綾香と話ながらかばんに目がいくと見覚えがあるキーホルダーが目に映った。


「そのかばんについているキーホルダー。まだ持っててくれているんだな」


「あ、あたりまえでしょ!そ、それとさ…覚えてる、よね…?」


と髪をくるくるさせながら少し恥ずかしそうに綾香は聞いてきた。


「あー…言葉?前に借りたゲームのことか?」


「ちがう…」


「じゃああれか?俺がなくした綾香の漫画か?あれなら…」


「…ほんとに覚えてないの?けんちゃんのばかやろーーー!!!」


「お、おい!ちょっと待てって!」


そういって綾香は走っていった。本当は覚えている。このキーホルダーも、あの時言ったバラの花言葉も、あの時はわからなかったプロポーズの意味も。


1人の女の子として綾香のことが好きなのに、ただ恥ずかしくて知らないふりをしてしまった自分が情けなく感じる。

雲一つない春の空を見上げながら溜息をつく。


それから今日の授業は上の空だった。授業の何1つとして頭に入って来ず、板書すらしていなかった。ずっと今朝のことを考えていたから。


チャイムがなり、昼になる。すると


「おーい、健太。もう昼だぜ?今日どうしたんだよ、ずっと上の空だったじゃん。まあ、飯でも食いながら話そうぜ」


と、弘樹が声をかけてきた。


2人でご飯を食べながら、今朝の出来事を弘樹に話した。

すると弘樹が


「まあ綾香はずっとお前の帰りを待ってたからなあ…で、どうするんだよ?」


「綾香とちゃんと話してくるよ…。それと、弘樹に1つ頼みがあるんだ」


「なんだ?」


「ノート、写させてくれ」


「はあ…」


呆れた顔の弘樹がこっちを見てきた。


・・・・・・・・・

授業が終わり綾香のいる隣の教室へ行く。


「すみません。あや…橋本さんはいますか?」


と、隣のクラスの女子に尋ねると「もう、帰っちゃったよ」と言われた。

「ありがとう」と返事をして俺も学校から出る。


「直接綾香の家にいくか…」


それから橋本家に行き、インターホンを押すと綾香の母が出てきた。

俺の顔を見ると、


「あら、健太君いらっしゃい。綾香なら部屋にいるわよ。」


2階にあがり綾香の部屋に行く。ノックをして恐る恐る扉を開けると


「何、勝手に入ってきてるのよ…」


綾香はとても不機嫌そうな顔でこちらを向いた。


「ごめん!今朝は言えなかったけど俺、ちゃんと覚えてるから!あの時言った言葉も、その意味も」


「…ほんとに?じゃあ態度で示してよ…」


「た、態度ってどうすれば…」


「言わせないでよ。恥ずかしいじゃない…」


綾香の顔が真っ赤に染まっている。

でもたぶん俺の顔はもっと真っ赤になんだろうな…


どんどん近づく俺と綾香の距離。そして


「あ、あやか…」


「けんちゃん…」


2人の唇が重なった。


「えへへ。おかえり、けんちゃん」


「ただいま。綾香。大好きだよ」


・・・・・・・・・

後日


「そういえばなんであの時言ってくれなかったの?」


「あ、あの時は恥ずかしくて…それに…?」


「それに?」


「この街に帰ってきたのだって綾香に会いたかったからだし…」


「…顔真っ赤だよ、けんちゃん」


「さ、はやく学校行かないと遅刻するぞー!」


俺は恥ずかしさを誤魔化すように家を出た。




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小さい時に離れ離れになった彼女と俺が再開して ゆぴな @yupina7529

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