第25話 えぴろ~ぐ
***
かくて紅葉の家に纏わるドタバタ劇は幕を閉じた。
だが、これでめでたしめでたしかと言うとそうは問屋が卸さない。
さくらつばきのこ、そして俺の四人が揃って正座させられている中、かなめさんが仁王立ちしている。
「さて。一体どういう事か説明して貰おうかや」
キセル片手に、にやぁっと笑うかなめさん。顔は笑ってるが目が全く笑っていない。つーか額に青筋浮いてる。
「なあ
「俺に分かる訳ないだろ」
隣に座るさくらと俺が小声で耳打ちをしていると、カンッ! とキセルを打ち付ける音が一発鳴り響き、思わず背筋が縮こまる。
「そこ、無駄口叩くでない! まずこのたわけた計画を考えたのは誰じゃ?」
「え。えーと、そのですね」
烈火の如く怒られそうな雰囲気でつい自分ですというのをためらっていると
「こいつや」
「一から十まで、全部この人間です」
「おー! のこはみゆきのいうとおりにやっただけだぞー」
「予想はしてたけど最悪だなお前ら!」
「だまりんす。まぁ、想像はついておったがの。発想がわらしの常識とかけ離れすぎじゃ。で、何故こんな事をしでかした?」
「話せばかなり長いんですけど」
だが何故か突然かなめさんがにっこり微笑む。
「心配するでない。今日は一日、わっちには何の予定も入っとらんからの」
やはり目がわらっていない、コワイヨ。
仕方ないので俺はここに至るまでの事情をかいつまんで説明した。
「……事情はわかった、しかし一つ合点がいかぬ。さくら、つばき、のこ。何故協力した?」
「ひさしぶりにあばれられそうで、たのしそうだとおもった!」
「ほ、ほぅ。そうかそうか。なるほどの……」
能天気なのこの言葉にかなめさんのキセルを持つ手がプルプル震えている。
おいこら地雷原でスキップすんな! いつ爆発してもおかしくないの見てたら分かるだろ、この脳筋め!
「全部私のせいです、というかそこの人間のせいです。ただ協力するといったのは私です。ええ、さくらは一切合切関係なく私が全ての責を負います。さくらはなんにも悪くないんです」
「なるほど、つまり大体さくらのせいかや」
「何故っ!?」
つばきが信じられないとばかりに叫んだ。
俺は正直それでごまかせると思ったお前に何故って聞きてえよ。
「どういう風の吹き回しじゃさくら。こんな話ぬしが一番止めに入りそうなものじゃが」
「え。今ここで言わんと駄目なん!?」
「当たり前じゃろうが。今回の一件はおのれらが考えてる以上に大事になっとるんじゃぞ」
しばらく胸の前で掌を合わせ指を擦りながら言いよどむさくらだが、諦めて下を向いて話し始める。
「――あんなぁかなめ様。うちは今まで、うちらの事を何とかしたい言う人間は山ほど見てきたん。でもうちらの力を生かそうって考える人間には会うた事がなかったんよ。うちらにしか出来ん方法がある、もう誰にも落ちこぼれなんて言わせんて」
時折俺の方をチラチラ見ながら喋ってる途中でどんどんさくらの顔が赤く染まる。そしてなんでかしらないけど俺を睨むつばきの全身から黒い煙のような何かも上がる。何故だ。
「せやから、その。うちはそれが。う、うれ、うれし、うぅ……」
う?
「――う、ちは! うちの! 意思で協力したんえ。はぁ、はぁ……。せやから……御幸だけが悪いんやない。うちにも責任があるんよ」
さくらの言葉に、かなめさんの漲る威圧感が少し緩む。
「ふぅ……話は分かった。なにはともあれ、お主ら四人が紅葉の問題を形はどうあれ解決したのは事実じゃ。そこは誇ってよいしわっちも評価しておる。三人にはわらしを探してる家への推薦状を書いてやろう。御幸には特別ぼーなすを出してやっても良い」
おおっ!? 予想外の話に三人が色めき立つ。
「た・だ・し。それはおのれらに失点がない時の話じゃ!」
頭から湯気が出そうな勢いで怒鳴られる。ごめんうそ、やっぱりまだ怒ってた。
「まずさくら、あれだけ無造作に投げ散らかした家財、誰が片付けたと思っておる!?」
「あ~……紅葉もおるし、きっとその辺はええようにしてくれるんやないかと」
「紅葉に後始末を丸投げしてどうするんじゃ! 紅葉に後始末できる力なぞ当分出せる訳ないじゃろ、全部わっちがやる羽目になったんじゃ、たわけ!」
ばこっ、と頭を殴られ頭を抑えるさくら。
「次につばき、二人を追い出す為に周囲に疫病を振り撒いたせいで関係ない人間まで体調不良にしよってからに!」
「……でも広範囲に撒かないとあの老夫婦が本当に昇天してしまうので……」
「目的の前に手段を選べと言っとるんじゃ!」
「でも、さくらとの素敵な共同作業でした。そこに関しては悔いはありません」
「悔い改めんかばかもん!」
清々しさすら感じるつばきの頭上に、かなめさんの拳骨が炸裂する。
「そしてのこ!」
「のこはちゃんといいかんじにこわしたぞー?」
のこのドヤ顔ぶりにかなめさんが頭を抱えてる。正直ノリノリだったからな、のこは。
「紅葉の家以外に、残りの力が周囲の家や柱や塀や道路まで及んでたの、何も分かっておらんな! 後始末がどれだけ大変だったと思っとるんじゃ!」
「おー。かなめ、よしよーし」
「撫でるでない!」
のこにも拳骨を加える。
って、この流れだとどう考えても……。
「すいません、ちょっとトイレに……」
退散しようかと立ち上がりかけた俺の肩が、がっしりと掴まれる。
「当然次は御幸の番に決まっとるじゃろ! ところでぬしは、ほう・れん・そう、って知ってるかや?」
「え、えーと、ヒユ科アカザ亜科ホウレンソウ属の野菜のことでしょうか?」
「そんな無駄知識はきいとらんわ、たわけ!」
すっとぼけると、問答無用で頭に拳骨が落ちた。
「報告連絡相談じゃ、この大たわけが! 確かに問題を解決する方法を考えろとは言ったが、こんなとんでもない計画を相談もなしに進めろとは言うとらぬ! そもそも紅葉は半年一年でどうにかなるような状況じゃなかったんじゃぞ!」
「えっ」
その言葉に俺は驚愕する、だって。と思いつばきのほうを見やると。
「だからいったじゃない、もう殆ど時間がないって。もって十年かそこらなのよ? 百は生きそうなあの老夫婦に比べたら儚い命よね」
わぁい御長寿さん! って違ぇよ騙された!!
「じゃからほうれんそうと言っとるんじゃたわけ! お主がぶっ倒れとる間にわっちがした苦労は両手の指でも足らんのじゃぞ。しかも力の使いすぎで、わっちの背が一ミリも縮んでしもうたじゃないかや!」
半泣きになるかなめさん。
「でも殆ど変わりませんし可愛いと思います、よ?」
「このたわけ! たわけ! たわけ!」
ぽこぽこぽこ、と駄々っ子パンチで叩かれまくる。
「あ、あんなかなめ様。さっき言っとった推薦状の話はどうなるん?」
ご褒美の話が気になったのか俺の状況を見かねたのかは分からないが、さくらがおずおずと尋ねると、キッと向き直って今まで以上の大声で叫ぶ。
「こんなもん余裕でマイナス評価に決まっとるじゃろ! 推薦状なんぞ書けるか! 三人とも反省として当分紅葉の所に奉公に行っとれ! 御幸は減給じゃ!」
「おー!? おーぼーだー、おーぼーだぞかなめ! あそびにいけなくなるじゃないかー!」
「奉公て……。紅葉と顔合わせるのも億劫やし絶対揉めるんよ」
「大丈夫心配しないで。さくらの分も私が頑張るわ」
叫ぶのこ、ぐんにょりするさくら、どさくさに紛れてさくらに抱きつくつばき。
良くもまあこんなバラバラな反応できるな……ってか俺への処分はどういうことだ!?
「仕事自体はやりとげたのに減給って、酷くないです!? 世の中には労働基準法ってもんがあるんですよ!」
「わらしの世界にそんなもんあるか! このおおたわけが! のこ、誰が足を崩して良いと言った!? ええか、そもそも座敷わらしと言うのは……」
かなめさんのお説教は延々と続き、終わる気配も見えない。
でも。このとんでもない三人と一緒に、一つ仕事を終える事ができたのは、つばきの台詞じゃないけど欠片も後悔はないさ。
だから今は、この長ったらしい説教が一分一秒でも早く終わる事を、心から祈っておこう――
ノーモアぷれい!~ロリで神様な自称座敷わらしに憑かれました>< はね~~ @toubetsu
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