最終話

たった今、最後の湊音くんとの時間が終わった。


私はベッドに戻り、酸素マスクを付けこの一週間のことを思い出していた。

初めて、奏音くんと会ったときのこと、奏音くんの涙を見られたと思ってら次の日には私が泣いちゃったり、この前のデートは、一生分の思い出と言っていいぐらいのものになった。


でも……何より、湊音くんと一緒にいた時間全部が楽しかった。


(もう、終わっちゃったのか……。寂しいけど、楽しかったな……。)


あと、湊音くんに会えるのは私が死んでから迎えに来てくれるその時だけ……。


ちゃんと最後には「ありがとう」ときちんと「さようなら」を言いたい。



そして、いつものように看護師さんが病室のカーテンを開けに来て「おはよう」と言ってきてくれる。これも今日で最後なんだなと思うとやっぱり寂しい……。


ずっと身の回りのお世話をしてくれた看護師さん、あまり話をした機会はなかったけど、私のことをよく考えてくれていた。


(看護師さん、今までありがとう……。)



ある程度の時間まではいつも通りの状態が続いていた。正直、いつ死ぬことになるのか想像がつかないぐらいに、でもその時は急に訪れた……。


それは6時を過ぎた頃、だんだんと身体にいつもと違う違和感が出てきた。そして、それから一時間後、本格的に今までとは全く違う苦しみに蝕まれた。


私に付けられている心拍計などの医療機器は、サイレンを鳴らし始め、先生の呼び出しがされて、私に緊急措置を施そうとみんなが動き出した。


それから三十分ほど経った頃、お母さんとお父さんが病室に飛び込んできた。そんな中でも私には様々な措置を施された。


そんなことを二、三時間程繰り返し最終的にはもう、施しようが無くなったらしく病室は静まり返り、部屋の中には両親といつもの看護師さんだっけになった。


お母さんはずっと私の手を握って泣いていた。お父さんもその隣で静かに涙を流していた。


そして、私にとって最後のときが訪れた……。心拍計はサイレンを鳴り止むことを知らず、息苦しさがよりいっそう増してきて、意識もどんどん危うくなってきた。


でも、そんな中でもお母さんの「華凛、華凛……」と私を呼んでいる声だけはしっかりと届いてきた。


私は、本当に最後なんだと思いながら、今出せる最大の力でお母さんの手を握り返した。それがお母さんに届いたのか、お母さんは再び涙を流した。


そして、時間はとうとう湊音くんに告げられていた0時42分になろうとしていた。私にとって最後の時が訪れる……。


最後の瞬間、私の心拍計が脈拍がゼロになったときのサイレンが鳴り響いていた音を聞いた。


(お母さん、お父さん、短い人生だったけど、今まで育ててくれてありがとう。二人のことずっと大好きだよ。)


そう心にメッセージを書き綴って私の人生は幕を閉じた……。




「あ、華凛、目が覚めたんだね。」

目が覚めると私は、白く光っている何も無い空間に湊音くんとそこにいた。


「ここがあの世なの……?」


そう聞くと、湊音くんは首を横に振る。その後に私は驚くことを聞かされる。


「ここは、僕らがいる死神の世界。そしてここは、僕ら死神が生まれる場所。」


どういうことなのか最初は全くわからなかった。


そこでコツコツと一人の貫禄のある人がやってきた。

「ここは、死神として生まれ変わったものが死神として現れる場所なのです。あ、申し遅れました。私はマイスター、この死神界の総括者を担っているものです。」


「あ、はい、日向華凛と申します……。」


つい反射的に挨拶を交わした。その後に私はこのマイスターの言葉で気づいた、この場所が死神が生まれてくる場所ということは……


そう思った時湊音くんに目を合わせた。すると湊音くんは私に伝えてくれた。


「そうだよ……、華凛は死神として生まれ変わったんだ……。本当はこうするべきなのかすごく迷った、こんなことをして本当に良いのだろうかって……。」


私は湊音くんの申し訳なさそうな顔をしっかりと見た。でも、私の答えはこうだ。


「死神として……。あぁ!!ありがとう!! 湊音くん!!」

正直に言って嬉しかった。これからも湊音くんと一緒にいられる、これが何より嬉しかった。


湊音くんは少しキョトンとした顔をしていた。だから行動で伝えた。


私は湊音くんに抱きつき「私は今、最高に嬉しいよ!! もう最後だと思っていた湊音くんにこれからも会える、こんなに嬉しいことは無いよ!!」そう伝えた。


その言葉を聞いた湊音くんは「ありがとう」と言いながら涙を流していた。


それから少し経って、マイスターさんが話を始めた。

「えぇ、まずはこのような状況になってしまったことをお詫びさせていただきます。本来、亡くなったばかりの魂を死神として転生させるのはあまり褒められた行為ではありません。」


そう言うと、私に向かって頭を下げてきた。


私は、慌てて「頭を上げてください!」と訴えたがマイスターさんはしばらく頭を下げて続けていた。


それが落ち着いたところで本題に入った。

「では、死神として転生したからにはこれから死神としての仕事を覚えていただく必要があります。そのことを頭の中に入れて置いてください。」


「はい……。」私はきちんと返事をする。


そして、その話の途中に湊音くんが「ちょっとだけお話があります」と申し出た。


「マイスター、私は、この華凛さんとパートナー契約を結ぶつもりでいます。」


(え……?パートナー契約ってなに??)

そう思っている私の表情を見てかマイスターさんが説明をしてくれる。


「パートナー契約とは、死神としての仕事、時間、そして心を共有し合う契約のことです。あっちの世界の言葉で表すとするならば……結婚と言うべきでしょうかね。」


私はそれを聞いた瞬間、顔が真っ赤に染まってしまった。

(わ、私と……湊音くんが、け、結婚……!!)


こんなに嬉しいことはないけど、すごく戸惑ってた。すると湊音くんが私の手を握ってきて


「華凛!! 僕は君のことが好きだ!。これからの時間を君と一緒に過ごしたい。だめかな……。」


私の答えは、もうとっくに決まっていた。


「はい!! お願いいたします!」


そこで私たちはパートナー契約を結び、恋人の関係から、家族へと変わった。




それから時は経ち、私は死神としての衣装を渡された。他の死神人とは違う真っ白な制服を身にまとってここを歩いている。


真っ白な制服の理由はマスターの資格を持つものとパートナー契約を結んだ場合、そのパートナーが潔白な白い装束を纏うというものだった。


その制服を初めて見たときの湊音くんの反応は目を合わせずに顔を赤らめながら「うん、可愛い……」と言ってくれた。


そういう時は決まって私の方から抱きつく。少しだけ、そういうことをしてみようかなっていう気持ちにはなったけど、まだやめておいた。


仕事も共同ですることになった。



そして今日はとうとう、私の初仕事。私の専門は一応、子供ということになった。


だから不安を与えないように、笑顔でその子たちの前に現れる。湊音くんがしてくれたように……


「初めて、私は死神と言います!!。」







私と死神さんとの一週間 [完]

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私と死神さんの一週間 Magical @magical

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