第8話 甘い誘惑

翌朝、アランがゲームセンターに着くと、夏休みにということもあってゲームセンターには学生がちょいちょい見られた。自動販売機で飲み物を買い、カウンターで雑誌を読んでいるヨハンネを見つけた。Yシャツのボタンを半分ほど外していて、胸元が大きく開いている。アランはなるべくそちらを視界にいれないようにして声をかけた。


「あら、アラン。おはよう。じゃあ早速練習始めよっか」


そう言ってヨハンネは端っこにあるWOLの台にアランを案内した。


「こっちなら、そんなに人こないからずっと使えるよ。あっちにまだ4台あるし。さすがにあまりにも混んできたらどくけどね。」


「それよりヨハンネさんってここの店員なんですよね。大丈夫ですか。サボって」


「大丈夫、大丈夫。ほらここの店長とは私ら付き合い長いでしょ。もう店長には話してあるから」


2人はゲーム機に座り、準備を始めた。


「懐かしね。昔は大会前とかは1日に8時間とか戦ってたよね。覚えてる」


「覚えてますよ。朝から晩までライさん達とやってました」


お互いに機体を選び、準備完了を押した。

3.2.1のカウントダウンが始まる。


「手加減しないでくださいね」


「もちろん」




2人が50戦くらい終えた時、時刻は15時になっていた。ヨハンネがお昼休憩にしようと言い、ゲームセンターの隣にあるフードコートに行って、ハンバーガーとポテトを買い、空いている席に座った。


「うーん。なんか言ってほしそうな顔してるね」


ヨハンネは意地悪い微笑を浮かべた。


「正直に言ってほしい」


「まず50戦やって、私に7回しか勝ててない。怖さを全く感じなかった。でも後半からは動きがよくなってきた。とりあえずは数こなせばいいんじゃないかな。でも1戦1戦全力でね。じゃないと意味ないからさ」


「やっぱり感覚を取り戻すしかないのか」


「そうね。ポテト食べないの?もらっちゃうよーん」


ヨハンネなりに空気を明るくしようとした。どう見ても43敗して落ち込んでいるのがわかるからだ。アランがここまでをWOLで負けを重ねたのはこれが初めてだった。


「アラン君。言っておくけどさ、私、WOLランキング9位だからね。まあトップ50はほとんど差なんてないけどさ」


「え。そうだったんですか?」


アランはこの強さに納得がいった。そもそも4年ぶりに触ってすぐに勝てるような簡単なゲームじゃない。だからWOLは人気なのだ。強さには理由がある。


「そうえばアラン。今夜私の家泊まる?」


上半身を前に出し、耳元でささやくヨハンネに女性の香りを感じた。


「何、言ってるんですか」


「あら、6歳年上はだめなのかい。その辺の女の子よりも綺麗な自信はあるけどなー。あ、セシーカじゃなきゃだめなのかな」


「セシーカは関係ないよ」


ニヤニヤしているヨハンネにアランはきっぱりと言った。


「そーかー。そろそろ戻ろう」


ヨハンネは立ち上がり声をかけた。

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