時の流れはいつも一定なのだから

 遅いのは、いつも僕の方だ。体力は少ない。意欲は欠けている。それでいて特に器用な訳でもないのだから、滞るに決まっている。その間、僕は死んでいるのと変わらないのだ。読者にとって作者は、生み出す事でしか存在を確認できない、曖昧な存在なのだから。

 僕はまた十日間も消えてしまっていた。いや、本当に消えてしまっていたのかもしれなかった。誰も僕を見なかった。誰も僕を現わそうとしなかった。なら、どうして消えずにいてくれるものだろうか?

 だとしたら、今書いているのは誰だ。全く馬鹿馬鹿しい。そんな事を考えているから時間が過ぎていくのだ。自分ばかり遅くなっていくのだ。それでも、良かった事が一つある。これが他者ではなかったという事だ。それだけだ。後は全て自分の滞りだ。行き詰まりだ。誰の責任でもない、自分の行動の結果に過ぎない。つまりは何の変化もなかったという事だ。


 それでも、きっと悪い事ばかりではなかった。あれからアルバイトも続いている。何の変化もなかったという事は、裏を返せば無事に時を過ごしてこられたという事だ。そうと考えてしまえば、僕は幸運の人間なのだ。そうと考えなければ、僕には何も残らなかった。十分な努力をしていない。他者の研鑽を見て、僕もあのようになりたいなどとほざいているだけだ。言う前に行わなければ、誰の背中も見えてこない。行っても、その背中に追いつくまでには何年もかかるだろう。それが憧れというものなら、僕は一生憧れを抱えて生きていくのだろう。そう思う。

 僕はここにいる。いつもそう思っている。だからいつもそう伝えようとしている筈だ。一度行動を起こせば、必ず存在についての話題が浮上するだろう。僕はそこに他者の存在を見る事ができない。ただ、いるのだろうと思う。思っている。微かだが、まだ望みを残している。僕はまだ、そこに僕を認めてくれる者の存在を信じている。そうでなければ、僕には何も残らないのだ。だから信じているのだ。誰も僕を存在させようとなど思わない。僕の方も、ただそこに何者かがいるのだろうと思うだけなのだから、それで済んでしまって、何の変化もないのは当然だ。僕は、だから信じていなければならなくなっているのだ。駄目だ駄目だ駄目だ! これでは何も変わらない!




 そうやって、駆られていたのです。だからこうして書いているのです。僕はこうして、運命に足元を見られているのです。時の流れはいつも一定なのだから、僕が焦って走って転んでいるだけなのです。そういう時ばかりです。そんなのは、僕だけであってほしいものです。僕だけであってくれないでしょうか。僕だけであってくれないでしょうか。僕だけであってくれないでしょうか。僕だけで……僕だけであったなら、僕が一人悩めば済む話なのです。どうもそうはいかないらしいので、世の中は世知辛いと思います。それもこれも全て、僕のせいになればいいのに。

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