どうせ勝手に消えるんだから
自分の事です。如何ともしがたく消えかけている自分の事です。
努力をする事もできず、諦める事もできず、ひたすらに世の中を漂い、そのまま大海に飲み込まれて藻屑と化すであろう自分の事です。
特段不幸に見舞われず、幸福を掴み取る事もできず、死なない程度の栄養を得て、微かに死んでいくであろう自分の事です。
他者に気を配る事もできず、他者の親切に感謝するのを忘れ、気にかけてもらえる事のないままに忘れ去られていくであろう自分の事です。
そうです。自分の事です。遠くの国の恵まれない子供の一人ではないのです。親を失い天涯孤独の身となった浮浪者ではないのです。ただここに生きて、死んでいくであろう自分の事です。
しかし、そうやって悲観的になっていたところで、特に生活が向上する訳でもないので……僕は前向きに生きています。前向きに後ろ向きなのです。後ろを見るというのは、後ろを前にするだけの様な気もしているのですが、まあいいでしょう。僕は先述した様な、悲観的な言論は好んでいません。
ただ思いついていたから、書いていただけの事です。僕は本当は、救われる事、報われる事を望んでいるのです。そうなる可能性のある全ての対象が、そうなる事を心から望んでさえいるのです。ただ、そうならないだけの事です。
僕はここにいて、何者かになろうとしています。皆そうしている様に、僕もそうしています。例え消えかかっていたとしても、忘れ去られているとしても、僕の足は動いてくれるでしょう。僕の手は動いてくれるでしょう。僕の頭は働いてくれるでしょう。そうして、そんな事とは全く関係なく、どうせ勝手に消えてしまうのです。
そうして消えたとしたら、その時やっと、存在していたという事が確固たる事実になるのだろうと思います。僕は消える為ではなく、存在する為に生きているのです。皆そうです。僕だけが、そんなちっぽけな事を深刻に考えているのです。そうであってほしいものです。ただ、そうならないだけの事です。
僕は、そんなにおかしな事を言っているでしょうか? 幸せになりたいという気持ちは、誰にでもあるものではないのですか? 幸せでいてほしいと他者に願う事は、そんなに珍しい感情の働きなのですか? 僕はただそうやって、何でもない事を日々願っているだけなのです。そして、その何でもないという事が、他の何よりも特別な価値を有していて、それだけ実現し難いだけなのです。おかしいのなら、それは僕のせいなのです。決して願い事の方ではないのです。僕がおかしいのです。
そうでなくてはならないのです。願い事はいつも真摯でなくてはならないのです。その為には、僕はどうなっても構わない筈なのです。どうせ勝手に消えるのですから、そこで正気を保っていたとしても、狂っていたとしても、何も変わらないでしょう。僕は狂っていたい訳ではありませんが、正気の為に願い事を捨てたくもありません。
僕は、幸せでいてほしいだけなのです。全ての存在がそうであってほしいのです。ただ、そうならないだけの事です。
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