空想の行先が異世界だっただけなんだ

 つまり、そういうことだ。どういうことだ? だから、異世界が物語の舞台として選ばれることだ。たまたま、空想が異世界に向いただけで、必然性も何もありはしないのだと、そういうことだ。そうじゃないか?


 なぜ異世界なのか? と問うてみても、答えは返ってこないだろう。そんなつまらない質問に、誰か解答を寄越よこしてくれるというのか? だってどうでもいいことじゃないか! 僕がここにいることと同じだ! そんなことに、特別価値のある意味が付与ふよされるものかよ。少なくとも、自分ではそんな意味など一つも用意できないだろう。他者に納得してもらえるような意味など、何一つとして。


 そうやって、世界観についても同じように悩んでいる人がそこにはいたのだ。異世界でなければ、そうでないことの必然性が必要なんだと。他者に納得してもらえるだけの、価値のある意味が必要なんだと。そして、そんなものを急にこしらえることなんてできない訳だから、そうやって皆が見ている異世界という空間に頼っている訳じゃないか。そうではないのか? そうでなかったら、そこが求めていた世界観だったんだろう。それでいいじゃないか。何も悪いことなんかないんだ。むしろいいことだ。そうやって、自分の空想を形にできるものなら、何でもいいんだ。


 それが物語ってことじゃないか!? そうだろう!! だったら、それで何も不都合なんてないじゃないか。僕だって、僕のを持っている訳だろう。空想やら何やらで、そうやって他者に見えない形で、自分の世界というものを持っている訳だ。他者の異世界を否定するなら、自分のだってそうしなければならないだろう。僕には、そんなことはできない。だから、僕はそこにある異世界を受容じゅようして生きていきたいのだ。それだけだ、たったそれだけのことだ。そんなことに、必然性もなにもあるものかよ。あってたまるものか。

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