危うく、危うくなるところだった

 僕はどうしようもない人間なのだ。そう言ってしまうと、その分どうしようもない人間ではなくなってしまうので、何も言わない方がよりどうしようもなくていいかもしれない。


 そもそも、矛盾なのだ。どうしようもない人間と言って、それを嘘だと言われたら、何を言えばいいんだ。実際どうしようもないのに、どうしようもない訳ないじゃないかと、そんな風に突き放されたらどうすればいいんだ。


 逆に、そうだ。お前はどうしようもない人間なんだと言われたら、どうすればいいんだ。話がそれ以上続いていかない。どこにも続いていかない。僕はここで一人さみしくなるだけだ。それとも、そうなっていた方がよかっただろうか。一人で情けなく叫んでいるよりも、そうやってただ一人でいた方がよかっただろうか。


 そうやって回答を先延ばしにするから、僕はどうしようもない人間なのだ。でも、そうやって自分から宣言すると、何故か立派な人間だと思われてしまって、高く持ち上げられてしまって、僕は危うく受けとめてもらえずに落下死してしまうところだ。それがお望みだったのだろうか。そうであってほしい。そうでなければ、うっかり殺されかけてしまったのである。それが一番かなしい。背負うつもりもない罪を背負う羽目になるのなら、僕はその時やはりどうしようもない人間なのだから。


 あれ、どっちだ? どうしようもない人間だったんじゃないのか? 段々と分からなくなってきた。いや、分かっている。僕はどうしようもない人間なのだ。危ない危ない。危うく、危うくなるところだった。そうならなかった。だから僕はどうしようもない人間のままだ。いや、だったらはじめから何も言わない方がよかったのかもしれない。その方が余程どうしようもなかったのではないか。文頭ではその様に考えていたはずだ。その通りにすればよかった。そうして、前回から三日も経ってしまえばよかったのに。

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