ただいま

 ――アクロシティを十王から奪還するための最終決戦から、早くも数年の月日が経過していた。



 終戦後、ノールグラシエ王国では、これまでの無理が祟ったのか国王であるアレフガルド陛下が体調を崩しがちになり……皇太子であるユリウス殿下がまだ幼いこともあって、国王の甥であるソールクエス王子が長らく宙に浮いていたユーバー公爵家の家督を相続し、早くもその辣腕を振るっていた。


 最初こそ、「ポッと出の庶子の王子が」との声があったものの、先王アウレオリウスを彷彿とさせるその手腕、さらには御子姫イリスに付き従った兄、英雄王子として名を馳せていたのもあって、今ではもうそんな批判はほとんど耳にしなくなっていた。


 ……そんな彼だったが、つい先日、旅の仲間であった魔族の女性と、正式に結婚する事を表明した。


 南、フランヴェルジェ帝国皇帝フェリクスと、その妃イーシュクオルという、魔族と天族の異種族間結婚の前例もあり……これを機に、両種族の融和を進めるべきだという機運が高まっているという思わぬ副産物を残していたのだった。



 西の通商連合は、その名をロシュメイア共和国と改めて、アクロシティから独立した。初代首相は一時退陣していたフレデリック元首相が就任し、今は新たな道を模索してあちこちを奔走する忙しい日々を送っているという。


 南のフランヴェルジェ帝国、そして東の諸島連合は、最初こそ世界の激変により不安定になった時期があったものの、数年が経過した今では皆すっかり元通りの、平穏な生活が戻って来ていた。

 異変があったとすれば、フランヴェルジェ帝国にて最初一年は国の立て直しに尽力していたスカーレット皇子が突然失踪し、やはりあの放蕩王子は……と、この一年得てきた信頼を結局また失ったことくらいか。




 そして敗戦国となるアクロシティは、それまで全権を牛耳っていた十王の失脚によりトップを失って大混乱となったが……今は各国から選ばれた新たな評議員による新体制で運営されており、それもだいぶ軌道に乗ってきた。



 満場一致で最高評議員に選ばれたのは、本来のアクロシティの主人である御子姫、イリス・アトラタ・ウィム・アイレイン。


 しかし不在な彼女に代わり最高評議員代行として……俺、レイジが執務に当たる事になったのだった。




 そうして、慣れない為政者の立場に立つ羽目になったものの……イリスに『戻って来た時にはこちらの問題は全て解決しておいてやる』と約束した手前、投げ出すという選択肢は無く、皆に支えられてさまざまな事を行なった。


 アクロシティの、全面的な修繕。ようやく大手を振って入って来れるようになった真竜たちの技術提供もあって、老朽化により生産効率を著しく落としていたエネルギー周りの問題が大幅に改善した。現在では、徐々にではあるがケージを維持する上で必要なエネルギーの保管量も、安全圏付近まで回復傾向にあった。


 そしてディストピア化していた『楽園』の解放。こちらは最初の一年間はこれまでの満ち足りた生活を捨てる者など居らず、ただ戸惑いの声が流れていた。

 だが数年が経過し、外からの来客も入ってくるようになったことで、徐々にではあるが人の出入りも増加してきていた。


 他にも、次々とデスクに積み重なっていく大量の仕事に追われて――そうして、瞬く間に三年の月日が流れた。



 ――イリスは、まだ帰って来ていない。






 ◇


「やっぱり、ここに居たのか、レイジ」


 不意に掛けられた声に、夢現だった意識が覚醒する。側には電源の入ったままの端末が転がっており、どうやら、各所から受け取った報告をチェックしている間にいつのまにか眠ってしまっていたらしい。


「ソールか……随分と早い到着だな、大丈夫かよ『大公』様?」

「はぁ……やめてくれよ、それは必要だったから座らせられた空席で。あと数年したら返却するってば」

「はは、悪い悪い」


 よっこいせと起き上がり、全身を伸ばす。床に座ったまま眠ったせいで、ひどくあちこちが強張っていた。



 ――ここは、アクロシティ最上部、イリスたちが『奈落』に向かうために使った装置のある部屋。


 俺は簡素な寝台をこの部屋に持ち込んで、公務以外の私的な時間のうち大半を、いつかイリスが帰ってくるはずのこの部屋で過ごしていた。





「……まあ、今回早めに予定を繰り上げてこっちに来たのは、重要な案件の会議があったからなんだけどね」

「ああ、お前の提言した、四国合同による国家を問わないで活動する『禁域』浄化部隊か」

「うん、それ。言い出しっぺだからね、ノールグラシエ王国からは私が、ユーバー公爵家が取り纏める事になったよ」


 そう言って、会議で決まった事についてあれこれ教えてくれるソール。報告書は上がっているだろうが、教えてもらえるならそのほうが手っ取り早くていい。


「ちなみに、総指揮はヴァルター団長だって。傭兵団のみんなもだいたい団長についていくみたいだね」

「おっさんが……よく受けてくれたな?」

「ま、敵討ちが終わって暇していたそうだからね。快諾してくれたよ……たぶん、参加すれば皆、アクロシティ所属の公職扱いになるからだと思う」

「ああ、そうか。なるほどなぁ……」


 以前から常々、ヴァルターのおっさんが『部下に安定した職を与えてやりたい』と言っていたのを思い出す。それと……もう一つ、たまたま耳に入ってきた風の噂も。


「……そういやおっさん、ついに痺れを切らしたフィリアスさんに逆プロポーズされたんだって?」

「はは、人の恋路には触れてやらないのが華さ」


 さらっと誤魔化すソールだったが、その態度が真実であると雄弁に語っていた。なるほど、確かに禁域浄化部隊の総大将ならば、世間体としては何の気兼ねもあるまい。


 まあ、三年も我慢したフィリアスさんの、粘り勝ちだろう。ヴァルター団長は三年間彼女の青春を空回りさせた分、ちゃんと責任を取るべきだと俺も思う。




 ……そう、三年。




「……あれから、もう三年か」

「うん……リィリス執政官が言うには中はだいぶ時空が歪んでいるらしくてこちらよりずっと時間の流れが遅いらしいから、向こうで流れた時間は数ヶ月くらいだろうって話だけど」


 更にはあの中では物質世界ではないため、精神が摩耗し魔力が尽きない限りは寿命も関係なく、肉体を維持する食事も必要無いのだとか。

 あの世界に居た時間の長い、イリスの母親でもある先代御子姫……リィリスさんが言うには、イリスの魔力ならば問題ないだろうとのことだったので、ひとまず生命の方面の心配がないのは救いだった。



 ……と、そんなことを考えていると。


「あら、私の話?」


 まさにその当人がフラッと姿を姿を見せた。


「あ、リィリスさん、お疲れ様です」

「む、さん付けなんて余所余所しい名前は嫌よって、言ったわよね、レイジ君?」



 下から見上げてくるように可愛らしく睨んでくるリィリスさんに、俺はぐっと声に詰まる。


 ……俺はどうにも、この人が苦手だ。


 というか、強要された呼び名で呼ぶのがどうしても憚られる。外見が完全に少女のそれなので、どうしてもイリスの母親というより姉くらいにしか見えないのだ。


 だがしかし、このままでは拗ねてしまうのは間違いない。そうなると彼女のことに関して口うるさいリュケイオンが居るため、諦めて深く溜息を吐くと、渋々口を開く。


「その……お義母さん」


 渋々とそう呼ぶと、なんだか嬉しそうに、にまーっと笑顔になるリィリスさん。うちの母親もイリスに義母って呼ばれて嬉しそうにしていたが、いまいち俺にはよく分からない感性だ。


「それでお義母さん。何か用事があったんじゃないですか?」

「あ、そうでした、ごめんなさいね?」


 チロっと舌を出して謝罪するリィリスさんは、しかしすぐに本題に入る。


「これから、明日のクリスマス? に向けての通信試験を行うって、テラのアウレオ君から連絡がありました」

「あぁ……もう、そんな時期なんだな」


 そんなリィリスさんからの伝言に、思わず呟く。

 三年前のクリスマスからすっかり定例となり、通信越しにパーティをしながらお互いの近況報告を行う日となっていた。


「そうか……分かった、すぐ行きます」

「それじゃ、私は先に行っていようかな。それじゃ、また後で」

「ああ、また後でな」


 そう言って、先に出て行ってしまうソール。

 その背中を見送っていると。



「……ごめんなさい。私も、あの子を手伝うべきだったのに」

「またその話ですか……全然気にしてないっすよ、クロウクルアフも、十王も居なくなってアクセス手段が無くなったんですから」


 申し訳無さそうにしているリィリスさんに、俺は首を振る。


「それに……もうすぐ帰ってくる、そんな予感がするんですよ」

「……予感?」

「はい。俺の勘、めっちゃ当たるんですよ。だからきっと、イリスはもうすぐひょっこり帰って来ます」


 それは何の根拠もない、他愛ない言葉。それでも構わない。


「そっか……そうよね、信じてあげないと、ね?」

「ああ、そうだぜ、お義母さん」



 彼女もどうやら元気が出たらしいので、これで良し。そうして俺もソールの後を追うべく、部屋から立ち去ろうとした――その時だった。




 ――ドクン。




 握り締めていた結絆石の首飾りが、微かに脈動した気がした。思わず立ち止まると、そこには。


「……レイジ君?」


 訝しげに振り返るリィリスさんだが……俺は、装置の方から目を離せなかった。俺の視線を追ってそちらを見たリィリスさんの目も、驚愕にゆっくりと見開かれる。



 ――三年間、何の反応も示さなかった装置の中に、小さな、ほんの微かな二つの光が灯っていたからだ。



「あ……え、嘘、これはもしかして、本当に!?」

「お、俺も今めっちゃ驚いてますけど……でも、そうなら早く帰ってこい」


 グッと拳に力を込め、叫ぶ。


「早く帰ってこいイリス! みんなが、そして誰よりも俺が、お前が戻ってくるのを待っているんだからな!!」」


 そう衝動のままに叫んだその瞬間――部屋は、目も開けていられないような爆発的な光に満たされた。





 あまりにも眩い閃光に、咄嗟に目を伏せて、十秒、二十秒と経過した。やがて……ずっと望んでいた声が、耳に飛び込んでくる。



「はー、ここが、お姉ちゃんの帰るべき場所?」

「ええ……あなたにとってもよ。ね、『リィア』?」


 眩い光がおさまったと思ったら……そこにはこの三年間、片時も忘れたことの無かった少女の姿が、もう一人少しだけ幼いよく似た少女と手を取り合って、装置内部へと姿を現していた。



「あ……」

「え……あ」



 目があった。

 三年ぶりにようやく帰ってきたあいつは俺の記憶と何一つ変わっておらず、こちらを見るなりみるみると赤面し、あたふたと髪を撫でつけたりしている。



 ――ばかやろう、そんな姿を見せられて、我慢できるわけないだろうが。



 そんなこちらの心境などお構いなしに、なんだか慌ただしくしている二人の少女たちが居る装置へと、俺は引き寄せられるように近寄って行く。



「えぇと、その……急すぎて、何と言えばいいか分からないんだけど……きゃ!?」

「もー、お姉ちゃん、さっさとぎゅーってしてもらいなさい、ずっと楽しみにしていたんでしょ!」

「あ、あの、待ってリィア! 流石に心の準備が……っ!?」


 共に現れたもう一人の少女に背中を押されて、装置内からこちらへと押し出される少女。

 やがて……少しだけ手を伸ばせば届く距離まで、あいつはすぐ側まで来ていた。



 まるで夢でも見ているかのように現実感が無いが……あいつが、イリスが、本当に帰って来ていた。



「あの……約束通り、『奈落』の大元は、全て綺麗さっぱり浄化してきました。もう、新たな『世界の傷』が開く事は無いはずです」

「そうか……お疲れ様、よく頑張ったよ、お前は」


 そう、報告を終えたイリスの頭にポンと手を置く。

 久々なその手触りに、確かにここに居ることを実感して、深く安堵の息を吐き出した。


「……馬鹿やろう、三年も待たせやがって」

「はい、ごめんなさい……ただいま帰りました」

「ああ……おかえり」


 まるでねだるように、ごく普通に目を伏せて見上げて来る愛しい少女の腰を抱き寄せて、その口に唇を被せる。



 三年ぶりの口付け。記憶と変わらぬ感触にもはや抑えなど効かず、思わず無我夢中で深く求めてしまう。

 最初は照れからか僅かな抵抗を見せたイリスも、すぐに諦めたように全て委ねてくれて……そんな様子がたまらなく愛しくて、俺は入り口付近を越え、更に深くへと繋がりを求める。




「まったくもう、手間のかかるお姉ちゃんなんだから」

「うふふ、そう言わないの。女の子には色々と準備が要るのよ……あなたも、お帰りなさい」

「あの、私も……お母さん、って呼んでも良い?」

「ええ、もちろん。これからよろしくね、もう一人の私の娘」



 側で繰り広げられているそんなリィリスさん達の会話を尻目に、俺は三年ぶりのイリスとの触れ合いを思う存分堪能し……やがて、イリスが腰砕けかけてきた頃にようやく口を離すと、すっかり蕩けた表情でポーっとなっている彼女を抱き上げる。


「……っ!? あのっ、レイジさん……っ!?」


 ようやく姫抱っこの形になっている事に気づいて脚をぱたぱたさせ抵抗するイリスに笑い掛けると、彼女は更に真っ赤になって抵抗をやめた。


「丁度、『向こう』とも連絡できるからな。早く皆に、お前の無事の帰還をしらせてやらないとな?」

「わ、分かりましたが、自分で歩きます……っ!?」

「いや、俺が離したくないから絶対にダメだ」


 そんなわがままな欲を満たしながら、腕に掛かる重さにまたようやく会えたことを実感しながら、俺は皆にイリスの帰還を報告するべく早足で歩き出す。



 ――ここから、もう一度。



 今度こそ絶対に離さないと、そう心に誓いながら。







 ◇


 ――世恢の翼のイリス。


 この後、『ケージ』内の禁域を浄化して回る一方で、生涯に実に十人もの次世代の『御子姫』と呼ばれる娘たちを産み育て、絶滅したはずの『光翼族』を再び世に送り出した、アクロシティ最後の最高執政官。


 複数国家の共同体である『ケージ』の最高決定権を持つ女王として広く周知される事となる彼女の、その功績は数知れない。


 外の世界……のちに『テラ』と正式に呼ばれるようになる外の世界の側では『アトランティス』と呼ばれていた幻の大陸を中心とした、閉鎖世界『ケージ』の存在の公表、それまでの多岐に渡る各国との調整。


 魔法という『ケージ』内の世界特有の技術を含めた、両世界の技術融和。


 天族や魔族といった『ケージ』内特有の種族の、『テラ』側への浸透。


 彼女の治世は就任から百二十年後、隔離世界『ケージ』が内に存在する全ての『禁域』を浄化し終えてその役目を終え、解体される最後の瞬間まで続く事になる。


 そうして、二つの世界の融和が果たされて――さらにその十年後。


 ケージ内に隠匿していたアカシックレコード『テイア』はテラという狭い星の上で運用するには過ぎたものであると、全ての首脳陣で見解が一致。


 この時世界は宇宙大航海時代へと突入しており、新たに建造された外宇宙移民船団の旗艦のコアシステムとして星の大海へと送り出されたのを、テラから見送ったのを最後の公務とし……彼女は完全に表舞台から姿を消して、生涯をずっと共に歩んできた恋人と、そして少数の親類とともに、いずこかで静かな隠居生活を送ったという。


 そんな彼女は表舞台から去る際に……



「色々な事があったけれど、さまざまな人たちに助けられて来た、とても幸せな人生でした」



 ……そう、人々に感謝の言葉を残して――彼女は完全に、テラの歴史からその姿を消したのだった。





 ――だが、語るべきは、そのように遥か未来の話では無いのだろう。



 これは、彼女が虚数空間『奈落』から帰還してから、さらに五年後。


 今後彼女が重ねていく輝かしい功績とは何の関係もない……だがしかし、確かに彼女が幸せを謳歌していたことを示す、ほんの一端の記録である。



 ◇







「……本当に、帰って来たんだな」


 記憶とちっとも変っていない眼前の風景を見つめながら、少しだけ前を歩くレイジさんが、感無量といった風に声を上げる。


「ええ……本当に、色々な人に尽力してもらってしまいましたね」

「抑止力をスルーできないと、『こっち』に連れてきてお前のときみたいなことになったら大変だもんなぁ……」

「そうですね……」


 そう言いながら、ずっと腕に抱いていた小さな包みを見つめて……私の表情は、自然と弛むのを感じました。それはもう、ゆるゆるです。


 私の腕の中には――お包みに包まれて、今は安心した様子ですやすやと眠る、まだまだ新しい命。

 まだ生まれてから数か月しか経っていない、愛しい我が娘がそこに居ました。



 ――レイジさんとの結婚自体は五年前、『奈落』から帰還した直後にはしていたんだけどなぁ。



 皆にあれよという間にお膳立てされ祝福されて盛大に挙式することとなり……しかし、そこから懐妊するまでが本当に大変でした。


 なんせ、元々『光翼族』という種族自体が……一応はもう二十代も半ば、『イリス』となった後で数え直して尚も立派に成人したはずの私が……いまだにこの身体を得た時と変わらぬ肉体年齢なほどの不老長寿の代償に、出生率が低いのです。


 周囲の知り合いから次々と出産報告が届き、個人用の端末へ届くメッセージには友人たちの我が子自慢が滝のように流れていくベビーブームに乗り遅れて悔しく思う羽目となりながら……五年間二人で頑張って、ようやくお腹の中に授かった我が子。


 しかし、大変だったのは更にその後もでした。


 先ほど言った通り、ほとんど中学生程度の肉体年齢から成長していない私の小柄な体――そう、当然のようにひどい難産だったのです。


 ですが、そうして七転八倒の末に授かった愛娘、可愛くないなどということがあるだろうか。いいえ、絶対にあり得ません。


 時には子育てを手伝ってくれていた……なお本人も子育て経験はないため、初めての体験に四苦八苦していた……リィリスお母さんにすら嫉妬していた私。

 一緒に暮らし、公務を手伝ってくれているリィアには『子育て中の母熊ね』なんて呆れられたりしたけれど大丈夫、あの子もいつか母親になったら、私の気持ちを分かってくれると思いますから。



 閑話休題それはさておき



 そんなこの子をこちらに連れて来るために、アウレオお父様やアマリリス様と宙さん、他、本当にさまざまな人が手を尽くし、『ケージ』の抑止力を回避しつつ往来するための手段を構築してくれたのですから、感謝の言葉しかありません。


 それもこれも――本当に、本当にささやかな、一つの約束を果たすために。


「さ、早く行こうぜ。母さんたちも待ってる」

「ええ……やっと、約束を果たせますね」


 そう言って、本当に久しぶりの玲史さんの実家の敷居をまたぐ私たち。


 そう……「孫ができたら見せに行く」、その約束を果たすために、私たちは今、生まれ育った『テラ』のS市へと帰ってきていたのでした。


「はは、これ以上待たせたら、母さん達がキリンになっちまうぜ」

「あら、ええ確かにそうですね」


 今も変わらず手入れが行き届いている支倉家の庭園の様子から、心配だった玲介お爺さんが元気なのを察しホッとしながら、懐かしいその庭を進む。


「そういえば、ソール……綾芽は、こっちに来るのか?」

「はい、まずは梨深ちゃんの実家にご挨拶してからだから、明日になるみたいですが」

「そうか……しかしまあ、あいつも『向こう』と『こっち』で性別が変わるとか、難儀な体質になっちまったなぁ」

「あはは……初めて綾芽の姿を見て、レオン君ってば驚いてましたねー」

「うむ、まあ、気持ちはよく分かる」


 そんな実感の篭ったレイジさんの言葉に、二人で思わず苦笑した……ちょうどその時、がらりと開く支倉家の玄関のドア。


 誰か来たのを察して家の中から顔をのぞかせたのは、レイジさんのご両親……今は私のお義母さんとお義父さんでもある二人が、並んで歩く私たちの方を見て、驚きに目を丸くします。


 そんな二人に――私とレイジさんは、万感の想いとともに、元気よく告げるのでした。






「「――ただいま!」」

























【後書き】

 結婚式の話は書きたいなあ(ボソ


 ここまで読んでくださった方、本当に、本当にありがとうございました。


 時系列としては続編に当たる『Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜』の方も、引き続きよろしくお願いします。


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Worldgate Online ~世恢の翼~ @resn

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