午前五時、八階建てマンションのベランダにて

キュイキュイ、キュイキュイキュイ

鳥が鳴いていた。

ベッドの上の時計は五時一二分。隣で寝ている彼の顔は近くで見ても綺麗だ。

昨夜、少しだけ悲しそうな顔をしたことを思い出して、柔らかな前髪をかきあげた。閉じられた瞼に口付ける。彼を起こさないようにベッドから出た。

とりあえずフローリングに散らかった寝間着を着て、彼の衣類をたたんで、ベランダに出る。


彼の八階の部屋から見る景色は見慣れたけれど、いつも見ていてもやはり毎日違う朝であって。昨日との違いを発見することが俺は好きだった。

青紫色の風が髪の毛と頬の間をすり抜けた。


ゴソゴソと、音がした。

ベランダの窓は開けたまま、部屋に戻る。

「んー……おはよ」

体を起こし目をこする彼、の胸元には昨晩つけてあげた鮮やかな斑点。妙にくっきりと残っていて少しだけドキッとする。

「起こした?」

ぎしり、彼の近くに座るとベッドが声をだした。

「…ん」

寝ぼけ眼のまま少し不機嫌そうに頷く。

そんなのもかわいいなあ、なんて。

「ごめんな」

ぽんぽん、と頭を優しく撫でた。

「……あつい」

きゅ、と胸に手を回されて抱きしめられた。

あついならくっつかなきゃいいのに。

こんなところも本当に、いちいちかわいいな、こいつは。

「朝ご飯、つくって」

「…もう少ししたらね」

「えー」

「だってまだ早すぎる」

「……目玉焼きね、それかオムレツ」

「はいはい、わかったよ」

「わーい」

ちゅ。

ほっぺにキスを食らった。ああもう、ああもう。くやしいが、こいつは本当に俺の事がよくわかっている。

今日の朝ご飯は、少し豪華にしようと思った。

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あの日の八〇三号室は 雪平 蒼 @tayu_tau

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