第9話
最終決戦、この勝負ですべてが決まる、そう考えると今まで以上に空気が張り詰める。
そんな中彼女が口を開いた。
「私はこのじゃんけん、ぐーを出す」
彼女の口から出た言葉は出す手の宣言だった。
「ブラフ?」
「いーや、ほんとに出すよ、信じるかどうかはそっちで決めて」
そう言う彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべ、どこか怪しくも可愛らしい。
んー、どうするべきだ…。実際にぐ―を出すとは考えにくい、けれど、けれども、その裏をかいてのぐーか?
悩み続けるがこんな思考を続けても堂々巡りでしかない。
「そこまで信頼ない?傷つくなぁ…」
わざとらしくよよよと泣く演技をする彼女。
「ばっか、信頼してるから、何ならこの世で一番信頼してると言ってもいい。ただ自分が素直に手を言うだなんて信用してないだけ」
「そ、そっか。一番信頼してるか」
顔を少し赤らめて恥ずかしそうに彼女が言う。
そんな顔されるとこっちが恥ずかしい。いや、実際言ったことは結構恥ずかしいのでは?
「い、いやまあ、自分だからね、それだけ」
言い訳のように口から出た言葉は、恥ずかしさのせいか妙に早口になってしまった。
微妙に気まずい雰囲気になったが、それは仕切りなおすかのような彼女の咳払いで終わった。
「おっほん、そこまで悩むなら私の手を今ここで紙に書いておくよ、これで私は表情読んで手を変えるなんてできないから多少はやりやすいでしょ?」
彼女はどこからかノートを持ってきて、一枚ページを切り取り背を向けてペンで書き始めた。
流石に書いてる動作から手を読まれることは警戒しているらしい。
書けた、と言ってこちらのほうを向き、白紙の面を表にして置いた。
後は、私が彼女を信じるか否か。悩み続けること数分、彼女の方はといえば最初はこっちの様子を伺っていたが今はスマホをいじっている。
というか、こっちだけなんでこんな悩まなきゃいけないんだ。彼女の様子を見てそう思った。
「決めた」
「お、やっと決まった?長いよ、悩みすぎ。」
「決めたというか、お前が決めろ」
彼女はお前は何を言ってるんだと言わんばかりの表情でこちらを呆れたように見てくる。
私はそんな彼女を無視し、彼女が持ってきたノートを3ページ切り取り、それぞれに大きくぐー、ちょき、ぱーと書いた。書いた紙を白紙を裏面にして置き、シャッフルした。
「ほら、選べ」
「そういうことする?じゃんけんにした意味とは…。コイントスで良かったじゃん」
「うるせー、こっちだけ悩むのは癪なんだよ、ばーかばーか!」
彼女の視線は冷たいものになっていた。
おい、憐れなものを見るような目でこっちを見るんじゃないよ。新しい性癖が開花したらどうするんだ。
「よし、わかった。選ぶよ?」
「おう」
彼女が置かれている紙を一枚選んだ。
「これ」
「わかった」
彼女が私の方に差し出した紙を受け取り、彼女は自分の書いた紙を手に取った。
「せーので、出そう」
彼女がそう提案し、その提案を受け入れた。
いよいよこの長い勝負が終わるのかと思うと少し感慨深いものがある。
それと同時に、緊張感が漂う。
「「せーの」」
同時にそれぞれ持っている紙を裏返して出す。
彼女が持っている紙に書かれているのは、ぐー。本当にぐーだったのか、そう思ったのも一瞬で自分の持っている紙へと視線が移る。
私の手はちょき。負けた…。
彼女も自分が勝ったことを理解したのか、表情をほころばせ嬉しそうにはしゃいでいる。
そんな彼女の表情を見ると、負けて良かったとまではいかないが思っていたより悔しさは出てこなかった。
「私の勝ち!」
煽るような表情で勝ち誇ってくる。
撤回、悔しい。悔しいというよりこの顔はたいてやりたい。全然負けて良くない。やはり勝利こそすべて。
そんなことを考えてる私を尻目に彼女はプリンを手に取り、食べ始める。
「美味しい~!普段より美味しい!これが勝利の味か…」
ほざくな、その味はプリンの味だ。勝利に味なんてない。
それにしても、本当に美味しそうに食べるなぁ。そう思いながら彼女の方を見ていると。
「なに?そんなに食べたかったの?」
別にプリンを見ていたわけではないが、誤解させてしまった。
「いや、べつにそういうわけじゃないけど」
「いいって、見栄を張るな、食べたいんでしょ?」
こいつ、勝った喜びかなんかでテンションおかしくなってない?これが通常?
「ほら」
そう言って彼女はプリンが乗ったスプーンを私の方へと差し出した。所謂、あーんである。
これは、テンションおかしくなってますね。そうじゃないとこんなことするわけがない。ないよね?
「食べないの?」
こいつ今してる行動に気づいてんのか、いや、あーんぐらいで動揺している私がおかしいのか?
「あ、うん、じゃあ、ありがたくもらうわ」
そういって、彼女の手に持たれているスプーンに口をつけて、プリンを食べる。
妙に甘く感じるのは気のせいだろうか。
「美味しい?」
「思ってたより甘かったけど、美味しい」
「そう?こんなもんじゃない?」
おう、そうだな。普通に食べてたら想定の甘さだったんだろうな。
彼女の様子を見ると、気づいていないままだと思っていたら顔は赤らんでいた。
気づいたな、そして何事もなかったことのように過ごすことを選んだな、こいつ。
私もそうしよう、顔が熱くなるのを感じながらお互い気づかないふりをすることを選んだ。
こうして私たちの第一次プリン大戦は幕を閉じた。
朝起きたら自分だと名乗る美少女がいた @sukaaha
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