第7話 ラプンツェル⑦

「お前が魔女だったのか!」


「私のジョーはどこなの?」


「くくくくくく、ジョーなんか知らないよ。多分、下の階で食べられちゃったかな?」


「なんてこと・・・・」


「魔女よ、ここで死ね!!とおーりゃ・・・ぬ、抜けない、聖剣が・・」


 聖剣にラプンツェルの髪の毛がいつの間にか伸びて雁字搦めになっていました。


「!!どうしましょう?王子様が!!」


「うおうぅぅぅぅぅーー」


 今度は、王子の首にラプンツェルの髪の毛が巻き付いて締め上げていたのでした。


 エリーゼは、その髪の毛をなんとかほどこうとするも、ムリでした。


 引っ張ったら、余計に王子の首が締まり、余計な事をしてしまいました。


「うぐぐぅぅぅぅぅ」


 王子の顔色が真っ青になりました。


 エリーゼは、ラプンツェルに向かってダッシュして行きました。

 なんとか、ラプンツェルの髪の毛を引き千切ろうと手を伸ばした時、普段から運動音痴なためか、あるいは、足が疲労していたのか、エリーゼは蹴躓いてしまいました。


 そして、ラプンツェルに体当たりする感じで、ラプンツェルと一緒に床に倒れました。


 その一瞬のことです。

 聖剣を雁字搦めにしていた髪の毛がするっと解けると同時に、剣が鞘から少し、ほんの少しだけ、飛び出ました。


 すると、その一瞬、少し覗いた聖剣の刃金から聖なる光が発せられました。


 その光は、ラプンツェルの目に届きました。

 その光が、目を通してラプンツェルの身体全体を光り輝かせます。

 するとどうでしょう?

 ラプンツェルが苦しみだしたではありませんか。


 王子は、この隙に聖剣を抜くと、首に巻きついていたラプンツェルの髪の毛を切って、ラプンツェルに斬りかかりました。


 その時、ラプンツェルは叫んだのでした。

「わたしは、オフィーリア!勇者様、オフィーリアです!」


 王子は聖剣を振り下ろすのをギリギリ堪えました。


 聖剣からの光がさらに増しました。

 すると、どうでしょう?


 目の前のラプンツェルは、オフィーリア姫に変わっていました。

 どうやら、オフィーリア姫はラプンツェルに憑りつかれていたようでした。


「ああ、勇者様、ずっと待っていました。オフィーリアを助けると言って下さったのを信じてずっと待っていました。勇者様ーーー!!」

 そう言って、オフィーリア姫は、王子に抱きつきました。


「待って!!騙されてはダメよ、王子様!!これは、魔物よ!だって、何十年、いえ、何百年もここに住んでいたんですよ。元は姫でも、もう人ではありません!」


「いや、違う!僕には、わかるんだ。僕は、その勇者の血を受け継いでいる僕には、オフィーリア姫との記憶が確かに存在するんだ。オフィーリア姫、長い間、すまなかったね。やっと、やっと、君を助けに来れたよ」


 そう言うと、二人は熱い抱擁をするのでした。


「えっ?ウソでしょ?王子様、この魔物に魅了されてるのよ!どうか、正気に戻って、王子様!!」

 エリーゼは、涙を溜めて訴えます。


「エリーゼ、違うんだよ。彼女は、ホントにオフィーリア姫なんだよ。いつも僕が夢に見ていたお姫様なんだよ。僕は幸せだ。姫、今度こそ、離さないよ!」


「うれしい!!」


 再び、二人は熱い抱擁をしました。


「えっ?なに?何なの?わたし、何のためにここまで来たのよ?私は、王子様に愛されているとばかり思っていたわ。これも、誤解だったってわけ?わたし・・・わたし・・単なるバカだったって・・・そんな・・・・」


 そんなことをエリーゼが呟いている間に、王子は姫をお姫様抱っこして、窓から飛び降り、勇者の加護により、無事着地して、お城へと帰って行きました。


 王子は、もう、エリーゼに一瞥すらしてくれませんでした。


「・・・あは・・あははは・・・あははははは・・・わたし・・・わたしって何?何なの?・・・あは・・あはははは・・・・」


 その時、部屋の隅の暗がりが黒く渦を巻くと、膨れ上がって、エリーゼの身体の中に吸い込まれていきました。


「アガガガガガ・・・ウゲゲゲゲゲ・・・ゴホホホ・・グハァ―ァァァー・・」


 エリーゼは悶え苦しみました。


 しかし、やがてそれが治まると、スッキリとした気分になりました。


「うふふふふふ、わたし、ここで暮らすわ。王子よりもっと素敵な殿方を見つけるんだから。そしたら、今度こそ、絶対に・・・うふふふふ」


 そう言って笑うのは、もうエリーゼとは似ても似つかない容貌でした。

 とても、とても美人で、儚げで、優しそうで、清楚な顔形と、とてもとても男心をくすぐる愛らしくも美しい声をしていました。


「うふふふふ、私の名は、ラプンツェル。誰か、ラプンツェルって呼んでくれないかしら」


 そう言って、窓から顔を覗かせるのでした。


 こうして、その森には、未だにラプンツェル見たさに、男たちが奥深くまで入って行くという事でした。


「ラプンツェル、ラプンツェル、出ておいで!」



 おしまい








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