主人公の高潔さが光る作品

web小説ではざまぁが流行っているけれど25万字かけて被虐に耐え続ける主人公は他に見たことがない。とにかく周囲の人間が醜悪であり読んでいて辛い時もあるけど、それが主人公ロルフの高潔な精神性を一層鮮やかに印象づける。
だからといってこの作品にざまぁ要素がないわけではなく、その対象は理不尽な隣人たちではなく世界そのもの。ざまぁという言葉は相応しくなく世界への反逆と言うべきかもしれない。

そして婚約破棄要素のヒロイン、エミリーがとても人間的に描かれている。彼女はロルフを守りたい一心で行動するが、あくまでペットのような庇護対象にすぎず対等な立場で共に歩く伴侶だとは思っていない。傲慢な欲望と思いやりと女心のはざまで苦しみ続ける魅力的なキャラクターだと思う。
エミリーが真にロルフのことを考えているのであればティセリウス団長から第一騎士団に誘われた時に賛成すべきだったんだろう。そこで己の欲望を優先させた時点で運命は決まってしまったのかもしれない。

この先ロルフが反転攻勢をかけるのか、あるいはまた苦難の道が始まるのかはわからないが作者様には身体に気をつけてご自分のペースで作品を描いて頂ければと思う。とてもこれからが楽しみな作品です。