(六)
春香が理解したかぎり、彼方の作戦はこうだった。
彼方が護符である髪飾りをはずして、霊が憑きやすい状態になったうえで首吊りの木に抱きつき、霊――サオリ――をおびき出す。サオリが彼方に憑いたら、はなれて隠れていた春香があらわれて、彼方へ護符と人形をわたす。
彼方はそれを使って自分の身体からサオリを追いだすとともに、自分ではなくて人形のほうにサオリを憑かせる。
こうしてサオリが憑いた人形を、後日に霊能力者である彼方の祖母へ持っていき、供養してもらう。
「大丈夫、まえにも同じようなことしたことあるから」
彼方はそう言った。
2人はいったん家に帰って、それぞれ持ち物を用意してきてから、公園でおちあうことになった。
自分の部屋でひとりになった春香は、クローゼットのなかから江藤マナと倉地サオリの人形を探しだした。何年かぶりにサオリの人形を手にとり、ベッドの上に置いてみた。奇しくも幽霊と同じ名前の人形だ。
べつにこれを持っていかなくてもいいな、と春香は思った。
面と向かって彼方の誘いを断れなかったけれども、それはべつによかった。このまま公園に行かなければ、同じことだ。いや、彼女にウソをついたことになるのだから、断るよりももっと悪い。彼方は腹をたててもう2度と話をしてくれなくなるかもしれない。
でも、それでいいのだ。
彼女の話は信じられなかった。おもしろ半分に滅茶苦茶なデタラメを話しているのか、空想癖をこじらせてちょっと変になってしまっているのか、どちらかというと後者のような気がした。どちらにしても、以前父が春香に教えてくれた友だちにならないほうがいいタイプだった。
それに、訊きそびれてしまったけど、供養とはなにをする気なのか。
人形を土に埋めたり、川に流したり、火にくべたりするんじゃないだろうか。そうなれば、もちろんこの人形は返ってこないだろう。彼方のためにそこまでしなきゃいけない理由はなかった。
よく考えてみるほど、このまま約束をやぶって彼方を怒らせてしまうのが正解のように思えてくる。
でももっとよく考えてみると、人形を失って困るようなことなんてなにもなかった。ずっとこの人形で遊んでなかったし、もともと人形で遊ぶことなんて好きじゃなかった。焼かれようが埋められようがどうでもいい。なくなったところで親が気づくはずもない。気づいたところで知らないふりをすればいいだけだ。なにもしなくてもモノはしょっちゅうなくなる。それこそ霊のしわざみたいに。春香はそう思って、ひとりで滑稽に感じた。彼方も変な子には違いない。でも、大人はよく言う。欠点はだれにでもあり、多少のそれは大目に見るべきなのだ、と。
結局、春香は公園に行った。
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