EX-1

 日曜日、貴重な休日の昼下がり、俺はあろうことか外出していた。

 いや、させられた、と言った方が正しい。

 一日引きこもって、平日のゲーム時間が少なくなった分を取り戻そうと計画していた土曜の夜、リアルワールドゲーム部(長すぎるからRWG部と略された)のグループチャットがメッセージを表示した。

「明日、十四時、喫茶店集合」

 送り主は当然、乃愛。

 

 そういうわけで、現在十三時半、俺は慣れない喫茶店の前で棒立ちしていた。

 ちなみに、木戸は部活で不参加。

 参加者は俺、乃愛、雪子、そしていつの間にか入っていただ。

 それにしても三十分前は早すぎた。

 適当にドラテのカード一覧を見ながら時間を潰す事にしよう。

 そう思っていた矢先、スマホが震えた。

『ねみい、入ってきたらどうだ?』

 いや、まさかな。

 そう思いながら店内に入ると、乃愛が席から手を振っていた。

 早すぎだろ。

「早いじゃないか、ねみい。今日は早く来いとは言ってないぞ」

 そう言う乃愛の横には雪子までいる。

 二人とも当然だが私服。

 乃愛の方はラフなパンツスタイル、シャツはあろうことかゲームのグッズだ。

 まぁらしいちゃらしい。

 一方、雪子は白のロングワンピース、華美ではないが清潔感のある格好は元々の容姿と合わさって非現実感を増している。

「お前らこそ」

「我々は先に遊んでいたのでな」

 仲のいいことだ。

「後は木乃羽だけか」

「このは小学校までと変わらなかったら、だいたい遅れてくるぞ」 

「それでは、木乃羽には悪いが、先に用件を言っておこう」

 そう言いながら、乃愛は荷物から紙を取り出した。

 ・POW(精神力)Power

 ・CON(体力)Constitution

 ・APP(外見)Appearance

 ・INT(知能)Intellifence

 ・DEX(敏捷性)Dexterity

 ・CLO(親密度)Closeness

 紙には、見知った文字が並んでいる。

「まだステータス諦めてなかったのか」

「諦めるもなにも、必須だろう。金曜日は忙しくて議論する暇がなかったからな」

 俺たちの分も用意しているようで、一人一枚ステータス用紙が渡される。

「雪子は議論に参加するのは初めてだから、改めて最初から説明しておこう」

 議論と言うか、朝の恒例行事だ。

「リアルワールドゲーム部として活動するにあたり、この世界をよりゲームに近づける為に、活動に必要な値をステータスとして数値化しようと考えたのだ。この前やったTRPGのようなものだと思ってくれればいい。本日はこれを決定するのが目的だ」

 乃愛の説明で理解したのか雪子は頷く。

「では、ねみいがステータスについて文句を言う前に一つずつ説明しよう」

「文句ってな」

 まぁ、色々と言いたい文字があることは事実だが、それを聞く前に乃愛は説明をはじめる。

 細かな説明をまとめると次の通り。

 ・ステータスは自己評価制、とは言え事実と大きく異なるステータスの申告に関しては話し合いが設けられる。

 ・数値は十を最高値、一を最低値とし、小数点第一位まで表示。

 ・クエスト達成時、自分の活動を評価し成長判定を行う。

「ここまでは大丈夫か?」 

「うん」

「まぁわかった」

「では、各ステータスの詳細について説明する」

 ・POW

 精神力、その名の通り精神的な強度とか。

 乃愛はカンストでいい。

 ・CON

 体力、これもそのまま、肉体的な強度。

 木戸以外は低いな。

 ・APP

 外見、木曜日に説明された通りで、リアルワールドゲーム部として活動するのに有利か不利かで判断される。

 そうは言っても、雪子は高いと思うんだけどな。

 ・INT

 知能、これもそのまま、単純な学業の成績だけじゃなく、状況に応じた判断能力も含まれるってやつらしい。

 俺はこれくらいしか自信がない。

 ・DEX

 敏捷性、といっても動きの速さという話ではなく、フットワークの軽さの話らしい。

 このは結構高そうだ。

「そして、CLO、親密度だが」

 乃愛が俺を見る。

「文句は話を聞いてからにするよ」

「それは助かる」

 これまでなら、問題解決能力とか、魅力が入っていた部分。

 つまり、俺が文句を言っていた部分になる。

 逆に言うと、それ以外の部分はそれほど文句なく進んでいたわけだ。

「先の部活動として認可を得た時、生徒会長に、全ての生徒の親しい個人となると宣言した事は覚えているか?」

「ああ」

「現実問題として可能かは置いておくとして、我々が目指す場所はそこなのではないかと、あの後改めて考えたのだ。君がゴロの問題を解決したように、親しい個人ならばクエストを受ける事も、それを解決する事もより現実的になる」

「俺のはそんな大層な話じゃなくて、ただ友達の相談に乗っただけだけどな」

「それが重要なのだ。友達ならば相談に乗れるが、赤の他人ならばそれすら敵わない」

 まぁ言いたいことはわかる。

「なにも、全ての生徒と友達になろう等とは考えていないが、リアルワールドゲーム部として名が知れる事は、そのハードルを下げることになるだろう」

「とは言っても、親密度って十把一絡げにできるもんでもないだろ」

「勿論だ、親密度とは総合的に判断されるものではなく、各個人間に存在するものだと考える。なので、ここはクエスト毎に関連する人物の数値を入れる事になる。裏面を見てくれ」

 乃愛に言われるままに紙を裏返すと、そこにはいくつかの名前が書かれていた。

 ・舞草美紀

 ・椎名弥夜

 ・東雲駿人

 ってか、東雲先輩の下の名前駿人だったのか。

「今回のクエストで関わった主な人物だ。ちなみに、部内の人間に関しては面倒だから除外する」

 まぁ部内に関しては妥当だな。

「親密度が高い人物が多ければ多いほど様々なクエストを受ける事ができるし、様々な解決方法が模索できるだろう」

「って言っても親密度を数値化ってな」

「できなくはないだろう、少なくとも魅力よりは絶対的なものだと思うが、具体的な値も当てはめやすい、一は知り合い程度、六以上なら友人と言った感じだな」

 まぁ、魅力を数値化されるよりはマシなのかもしれない。

「わかった暫定的に、これでいいんじゃないか」

「ふふふ、やっと首を縦に振ったなねみい。では早速ステータスを決めようではないか」


「ごめん、ちょっと道に迷っちゃった」

 予定時間より少し遅れてこのが参加し、乃愛が説明をして、各自ステータスを埋め始める。

 外側から見れば、喫茶店で勉強する学生に見えなくもないのだろう。

 ・POW 3

 ・CON 3

 ・APP 3

 ・INT 5

 ・DEX 3

 まぁ、俺のはこんな所だろう。

 やってて思ったが、自分の能力を自分で評価するのはなんかそわそわする。

「ふむ、POWに関してはもう少し高いだろう、今回のクエストで成長した分もあるだろうし」

 前から覗いた乃愛がそんな事を言う。

「成長する事あったか?」

「過去の後悔を克服しただろう」

「そうだよ、みーね、またドラテできるようになったし」

 横に座ったこのにも言われ、渋々、POWを3.5に書き換えた。

 他にも色々と注文が入って、最終的に

 ・POW 3.5

 ・CON 3

 ・APP 4

 ・INT 6.8

 ・DEX 3

 という値に落ち着いた。

 どう見ても過大評価のようなステータスだと思う。

 まぁ、雪子が自分のAPPを1にしていたのに比べれば、まだマシな修正だっただろう。

 問題は親密度。

 こちらは適当に埋めることにしよう。

 ・舞草美紀 2

 ・椎名弥夜 2

 ・東雲駿人 2

 いや、ふざけているわけじゃなく、だいたいこんな感じだろう。

 何回か話しただけの人間との関係性なんて、知り合い程度じゃないか?

「残念だよ、君とはもっと親密になれたと思っていたのに」

 最悪な声が後ろから聞こえた気がした。

 空耳だろうと思って、無視する。

「私との親密度は4くらいあっていいんじゃないか? あんなに楽しくお話したじゃないか」

 あの会話を楽しいと思っていたのは彼女だけだろう。

「美紀は君の事気に入っていたから3.5くらいあってもいいと思うよ」

 いよいようるさくなって振り返ると、そこには案の定、椎名副会長がいた。

 どういうわけか制服姿だ。

「やあ、遅くなったね」

「来てくれたか、椎名副会長」

「プライベートじゃ副会長は外してよ」

「なんで居るんですか?」

「そりゃ、乃愛ちゃんに呼ばれたからだよ。生徒会としてリアルワールドゲーム部の活動を見るって建前で、雪子ちゃんとお茶する為にね」

 あの冗談まだ生きてたのか。

「いや、可愛い子の私服は眼福だねぇ」

 言いながら、椎名先輩は俺の前に座る。

「先輩はなんで制服なんですか?」

「私服考えるの面倒だからね、制服は楽でいいよ。もしかして、私の私服を見たかったかな?」

「いや、別に」

「悪いね、私服を見るためには親密度6以上が必要になるんだ」

「それじゃ、一生見ることはないですね」

「君も言うようになったね」

 どこで会っても厄介な人だ。

「ねみいは椎名先輩と仲がいいな」

「その最悪な誤解だけはやめてくれ」

 俺の貴重な休日の昼下がりは賑やかに過ぎていく。

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