5-7 見てる分には静かな時間
懐かしい演出と共にバトルが始まる。
マリガンは序盤を凌ぐにはいい感じ、一枚だけ交換する。
このが先行。
一ターン目はドローとチャージだけで終了。返しの俺も同じ動きで終了する。
どうやらアグロではないか、アグロだとしても一ターン目から動かれなかったのは有り難い。
しかし、全体として微妙な違和感があった。
「なんか反応速くないか?」
UIも変わっている部分があるが、それ以上にレスポンスがぬるぬるとしてる。
「三年前から比べたら速くなったかな? ずっとやってると、あんまりわかんないよ」
これも込みで読まないといけないらしい。
二ターン目、ドロー、チャージからこのはユニットを召喚する。
名無しの先兵
コスト二:AT二百 DE二百
効果:プレイ時、カードを一枚引く。
手札を減らさずに展開できる強カードだ。
当時、どのタイプのデッキにも採用されていた。
あまりにどのデッキにも入るから、ナーフか制限にしろという声すらあった程だ。
まぁ結局、そのどちらもされなかったんだが。
そんな事を考えながら、案外覚えているものだと自分で関心した。
返しのターン、俺も全く同じ動きをする。
これで殴られても返しで処理できる。
「乃愛ちゃん、これわかる?」
雪子が少し退屈そうな声を出す。
「少しならわかるぞ」
やってる側は色々と考える事が多いが、まぁルールもわからない人間が見てもあまり面白くはないだろう。
「そこに二千五百って数字があるだろう、あれがライフで、ゼロになると負けだ。逆に相手のライフをゼロにすれば勝ちというわけだな」
かなり基本的なことから乃愛は説明している。
解説は任せる事にしよう。
三ターン目、このはドロー、チャージからユニットを召喚。
屈強な門番
コスト三:AT百 DF四百
効果:「身代わり」身代わりを持つユニットは他ユニットまたはプレイヤーへの攻撃を代わりに受ける事ができる。
そして、名無しの先兵で攻撃。
俺の残りライフは二千三百点になった。
屈強な門番で先兵への攻撃は止められる状態。
何度も見た事がある盤面だ。
三コスト帯にそこまでいいユニットがいなかったこともあって、門番も多くのデッキに採用されていた。
先行でこういった動きができると強い。
こっちが門番の処理に追われている間に、相手は展開して、圧をかけてくるだろう。
まだライフに余裕があるとは言え、顔面意識が高いデッキならこのままライフ差有利を利用してひき殺されかねない。
除去は早めに。
ドロー、チャージ、二コストスペル不意打ちを発動。
不意打ち
効果:前のターン攻撃済みの相手ユニット一体に二百のダメージを与える。
これでこのの先兵を破壊し、こちらの先兵で門番に攻撃する。
一:一交換には違いないが、展開して殴るよりワンテンポ速く交換できるのがこのスペルのいいところだ。
ビートダウンがあの当時は多く、腐ることが少ないのもポイントが高い。
これで盤面は比較的フラットにできた。
しかし、四ターン目以降もこのの攻撃の手は緩まない。
ドロー、チャージからユニット召喚。
名無しの先兵
と
腐肉食い
コスト二:AT百 DF百
効果:自分の他のユニットが破壊される度、このユニットのATとDFを+百する。
この腐肉食いはアグロ、ミッドレンジ双方で程々に採用率の高いカードだった。
放置すればどんどんとスタッツが上がり、手が付けられなくなるから、除去を迫られる。
嫌なカードだが、自分の盤面がそれなりに整っていないと出しにくいカードでもある。
つまり、こういった盤面だと強い。
このは盤面を無視して門番で俺に攻撃。
これで残りライフは二千二百点。
このの盤面には無傷の先兵と腐肉食い、AT百、DF二百になった門番の三体が並ぶ形となる。
ここまでのプレイングを見た感じ、どうやらこののデッキはミッドレンジらしい。
しかも、かなりアーキタイプに近いちゃんとしたデッキだ。
初めて作ったデッキがこれなら、将来有望だろう。
いや、その将来が今、目の前にいるわけだが。
ふと、このの方に視線をやると、それに気付いたのか、このも顔を上げ、にやりと笑った。
「みーねのターンだよ」
余裕といった表情、確かに先行の理想ムーブだ。
正直、初めて作ったデッキと聞いた時、変な構築をしてるとか、盛大に事故ってくれるとか、そういう淡い期待をしたが、そのどちらも裏切られる形となっている。
あまりいい状況とは言えないが、四ターン目から後攻は覚醒が使える。
ドラテでは効果「速攻」や「強襲」を持たなければユニットは出したターンからは動けないが、後攻三回、先行二回使える「覚醒」を使用すれば、出したユニットのスタッツをAT、DF共に百上げて、相手ユニットに限り攻撃できるようになる。
ドロー、チャージをしてから、俺は四コストを支払い、ロックドラゴンを召喚した。
ロックドラゴン
コスト四:AT三百 DF六百
効果:「身代わり」
ターン終了時、このユニットのDFを+二百する。
ドラゴンズテイルと言う名前の通り、このカードゲームはドラゴンの名を冠するユニットがかなり強くデザインされている。
その代わり、各ドラゴンはデッキに一枚、デッキ全体でドラゴンは三種類までしか入れられない制限がある。
俺はロックドラゴンを覚醒させ、AT四百 DF七百にして門番に攻撃し破壊DFは六百に。
その後、先兵で腐肉食いを破壊する。
ターン終了時、ロックドラゴンの効果が発動して、戦闘で減ったDFが八百まで上がる。
このロックドラゴンは俺の相棒と言ってもいいユニットだった。
出すだけでDF八百の身代わりは、実質ライフを八百増やすことになる。
コントロールには必須の超有能カードだ。
「うわー、ロック懐かしい。この環境だとめっちゃ堅いね」
「取れるか?」
「簡単」
五ターン目、ドロー、チャージをして、このは五コストスペル焼却を発動。
焼却
効果:相手フィールド上のユニット一体を破壊する。
なんともあっさり、俺の相棒が処理されてしまった。
普通のミッドレンジなら焼却は積んで二枚程度。
引けてない事を祈るようなプレイングをしてしまった事を後悔する。
そのまま、このは先兵で俺を殴ってターン終了。
残りライフは二千。
見た目上一:一交換だが、覚醒まで切ったドラゴンを一枚で返されるのはかなりマズい。
昔の俺なら、焼却を警戒して他ユニットで一度盤面を取ってから様子を見た筈だ。
なんて安易なプレイングをしてしまったのだろう。
俺のライフは既に五分の一が削られ、このは無傷。
少し盤面を取るテンポを早めなければひどいことになる。
次は六ターン目、最善で回っているなら、あのユニットが出てくる可能性があった。
ドローは二枚目の「不意打ち」
これで先兵を破壊し、俺も門番を置く。
六ターン目、このはドロー、チャージをして、六コストでユニットを召喚。
召喚までの間が今までのプレイングと比較すると、僅かに遅い気がした。
シャドードラゴン
コスト六:AT三百 DF三百
効果:このユニットは相手のスペル、効果の対象に選択できず、攻撃されない。
このユニットの攻撃に「身代わり」の効果を使うことはできない。
「ふふふ、取れる?」
満を持して召喚されたこのの一体目のドラゴンは、想定していたユニットとは違ったが、それでも悪名高いユニットには違いなかった。
非常に高い除去耐性と身代わりを無効化する能力。放置すれば毎ターン三百点のダメージが確定する。
ライフ差がある状態で出されるのは非常にきついユニットだ。
ドラゴンが三種類しか入れられない関係上、採用率は中程度だったが、このユニットで勝負が決まる事もあり、ケアの為にアグロでさえ唯一対抗できる手段であるAOEを一枚は採用していた程、存在感のあるカードだった。
幸いなのは、その唯一の対抗手段であるスペル「ラグナロク」を引けている事だ。
六コストスペルのラグナロクは敵味方問わず、フィールド上の全てのユニットを破壊する。
確か、俺のデッキにはこのラグナロクが二枚入っていた筈だ。
一枚くらいは雑に投げても問題はないかもしれない。
「正直困ってる」
しかし、その選択は間違いだろうと、さっきのショックで目を覚ました俺のDCGプレイヤーとしての感覚が告げていた。
こののプレイングに少しだけ迷いがあった。
シャドーをプレイするには最適な状況だった筈だ。
ライフ差があり、高い除去耐性と確定でダメージを取れるシャドー、コストも丁度使い切れる。迷う要素はほぼない。
あるとするなら、シャドー以外にプレイする価値のあるカードが手札にあった場合。
なにかとなにかを天秤にかけ、シャドーを選んだ。
なんとなく、は存在しない。
ドロー、チャージをして、俺は清き心のフィナを二体召喚する。
清き心のフィナ
コスト二:ATゼロ DF二百
効果:「身代わり」
このユニットが破壊された時、プレイヤーのライフを二百回復する。
採用率はあまり高くなかったが、このフィナはかなり気に入っているカードだった。
ライフ回復と一時的な壁にもなる。
ライフ差がついた今、この回復が有り難い。
身代わりが三体並んだ盤面はかなりディフェンシブに見える。
いや、そう見えて貰わないと困る。
シャドードラゴンの対応に困って、取り急ぎ盤面を固めたように。
「みーね、身代わりじゃシャドーは止まらないよ?」
「知ってるよ」
俺は門番でこのを殴ってターンを終了する。
ようやく一発入れられたが、そのライフ差は全く縮まらない。
七ターン目、このはドロー、チャージをして、六コストでユニットを召喚。
その登場エフェクトから、予想していたユニットが来た事が直ぐにわかった。
このの引きはかなりいいらしい。
インフェルノドラゴン
コスト六:AT四百 DF五百
効果:「強襲」強襲を持つユニットは場に出たターンから相手ユニットに攻撃ができる。
「貫通」このユニットが相手ユニットを攻撃した時、相手ユニットのDFをこのユニットのATが超えていたなら、その数値分、相手プレイヤーにダメージを与える。
自分の場のユニットが相手プレイヤーにダメージを与えた時、その数値分このユニットのATを+する。
当時をしてぶっ壊れと言われた最強カード。
攻撃に全振りしたような三つの効果と標準に近いスタッツ。
これぞドラゴンと言われるような性能。
インフェルノを止める為にロックが必要だったのだと、再び後悔の念が強くなる。
このはシャドーを覚醒して俺にアタック。
四百のダメージ。
そして、インフェルノの効果が発動。
インフェルノのATは八百まで上がる。
その攻撃力で俺のフィナを破壊。
貫通の効果で六百のダメージ。
インフェルノの攻撃は千四百になる。
最大ライフ二千五百のこのゲームで、二回攻撃するだけでほぼゲームエンドする程の性能。
そりゃ壊れって言われる。
つまり、前のターン、このは先にインフェルノを出すか、シャドーを出すかで悩んでいたのだろう。
先インフェルノなら、さっきのターン、門番を破壊してもATとDFは五分なので貫通は通らない。
俺の手に焼却があれば、簡単に除去されて終わりだ。
それよりは、先にシャドーを出して確実にダメージを稼ぐ方を選んだ。
正しいプレイングと言えるだろう。
このターンだけで千のダメージだ。
フィナの効果で二百回復できたので、トータルでは八百のダメージ。
俺の残りライフは千二百。
仮に前のターンにラグナロクを打っていたら、このターン並べられた後でインフェルノが飛んで来ていた。
俺のプレイングもまだまだ捨てたモノじゃない。
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