5-6 新しいデッキ1
「早速、続きをするわよ」
生徒会長が言う。
「ちょっと待って下さい」
それに割り込むのは俺の仕事だ。
「この、勝負を挑みたい」
「こちらの勝負が終わった後にしてもらいます」
当然のように優先権を行使する生徒会長。
まぁ、先行はどう考えてもあっちだ。
ただ、スペルスピードではこっちも負けない。
「ドラテで勝負しよう」
自分の言葉に、鼓動が早鳴るのを感じた。
「えっ、いいの!?」
このがぐいっと顔を近づける。
「ああ、ただし今のカードプールはわからないから、俺がやってた時の環境で、だけどな」
「当然だよ!」
なにがそんなに、と思えるほどの笑顔をこのは見せる。
「ちょっと、木乃羽」
「ごめん、おねーちゃん、こっちの方が強かった」
輝くこのの笑顔に、生徒会長は諦めたように首を振った。
流石は姉妹、こうなったこのは訊かないとわかっているのだろう。
「わかったわ。でも、終わったらこっちの勝負よ」
「残念だがその必要なないだろう。ねみいが勝って終わりだ」
乃愛がすかさず煽るが、生徒会長は軽く返事するだけで、忙しそうに仕事に戻る。
「あっ、でもみーね、デッキ持ってる?」
問いかけるこのに俺はスマホの待ち受けを見せた。
約三年ぶりに配されたショートカットには、あの当時なかった「4周年」の文字が付いている。
起動すると、あの頃見慣れていたスタート画面、タップすると、今度は見慣れないキャラクター達が踊る一枚絵が表示された後、微妙にUIが変わったホーム画面に辿り着く。
予めアップデートと引き継ぎは終わらせておいたので、画面左上に表示されるのは俺の懐かしいハンネ「冬春ねみい」だった。
データ共有様々だ。
「うわー、みーねが本当にドラテ入れてる!」
「よくぞ帰ってきた、冬春ねみい!」
このと何故か乃愛までがテンションを上げる。
「別に帰ってきたわけじゃないけどな」
そう、これはあくまでクエスト達成の為の一時的なものだ。
「データは戻ってる。俺が使うのは大会で使ったデッキだ」
当時の環境を征した最強のデッキ。
「このは今から当時のループで自由に組んでくれ。当然、ガンメタしてくれても構わない」
そんな強気な事を言うが、正直自信はそれほどない。
三年のブランクは小さくない。特に、コントロールなんてかなり慣らす必要があるデッキタイプだ。
「自信満々だけど、私強いよ?」
「だろうな」
少なくとも、三年間対人から逃げていた俺よりは強いだろう。
「だけど、負けるわけにはいかないからな」
「あの頃のみーねみたいだね」
このがスマホを取り出し、慣れた手つきでドラテを起動した。
「それじゃあさ、みーねが負けたらゲーム部に入ってくれる?」
下を向いたままの台詞は、表情が見えなくてもわかるくらい楽しげだ。
「いいぜ」
「そうこなくっちゃ」
デッキを組むにしては早すぎる時間でこのは顔を上げた。
そして、画面を俺の方へ向けてくる。
「じゃーん、実は予め用意してたんでした」
俺に向けられた画面、三列×四行で並ぶデッキ群の左上に「新しいデッキ1」というありふれた名前のデッキがあった。
順番を操作しなければ新しく作ったデッキは左上から詰められて並んでいく。
「まぁ用意したの三年前なんだけどね」
それはつまり、そういうことなのだろう。
「物持ちがいいな」
「生まれて初めて作ったデッキだから、なんとなく消しにくかったんだよね」
これを埋め合わせなどとは思わない。
だけど、こんな機会が巡ってきた事を素直にありがたいと思った。
「それじゃ、行くぞ」
世界をゲームのようにするという目的ではじまったリアルワールドゲーム部で、なにをどう間違ったのか、カードゲームで物事を決めるという少年アニメのような展開になっている事を今更ながら面白く感じる。
とは言え、カードゲームなら俺は主人公だ。
「ルーム作るから入ってね」
このがソファーに腰掛け、下を向く。
俺はその対面に座った。
まぁ、絵面は地味だけどな。
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