4-EX

 有名な短歌に詠まれる程度にはこの世界は「おもしろきこともなき」と思われているらしい。

 いやはや、参っちゃうよね、先人がそんな事言っちゃうとさ、こう面白いことだらけの世界を生きてる私はなんだって話さ。


「弥夜、セッションの難易度設定バグってましたけど?」

 私の大切で可愛らしい友人、安堂琉依。

「うっそだぁ、良心の塊みたいな私が、初心者がいるセッションで全滅前提みたいな難易度を組むわけないじゃん」

「あのボス、助っ人の力を借りてなんとか倒せるレベルだったわよ」

 欠点があるとするなら、私に慣れすぎて、リアクションが薄い事くらい。

「まさか、真っ正面から倒したの?」

 まぁ、それでも予想外をいつもくれる、本当に楽しい友達だよ。


 静かになった校内を独りで歩くとシューズの音がやたらに響いて楽しい。

 学校という不思議な場所の連続性について考察すると、それは概ね善意と道理によって構成された軌跡だと気付く。

 この軌跡の面白いところは、この奇跡についてその中にある大半は無自覚ってことかもしれない。

 足音のやたらに響く廊下を、私がこうして歩ける奇跡と私の残す軌跡をいずれ誰かが歩く奇跡。

 適当にそれっぽいことを考えて歩くのが楽しい。

 そうこうしてると、生徒会室の明かりが見えてくる。

 人気のなくなった校内で、大真面目な顔して資料に向き合っているだろう友人を想う。

 成績優秀、品行方正、真面目を絵に描いたような理想の生徒。

 新しいことをしたい生徒の敵、権威主義の権化、頭でっかち。

 概ねそんな感じの評価を得ている大切で不器用な友人を想う。

 きっとこの扉の向こうで今も生徒たちの為に心を砕いているのだろう。

 扉を開けたら仕事を手伝わされるから、今日はスルーするけど、心の底から愛してるぜ。

「弥夜、手伝って行きなさい」

 足音だけでわかるなんて、私の愛が伝わっちゃったみたいだ。

 扉の向こうには想像した通りの景色。

「美紀の愛が重くて困るよ」

「バカ言ってないで」

 全く美しい友情に完敗だね。

「そう言えば、美紀に伝えておく事があったよ」

「今度はどんな面倒事なの?」

「心外だなぁ、私は生徒全員が楽しい学校生活を送るために腐心してるって言うのに」

「はいはい」

「美紀が大好きなリアルワールドゲーム部の話しなんだけどさ、いや美紀の大好きなだっけ?」

「どっちでもいいから」

「新入部員名簿の件で進展があったよ。東雲が持ってきたやつは彼が偽造したものだと突き止めた」

「そう」

 本当に素直な美紀。

 視線が棚の方に寄ってるぞ。

「驚かない所を見ると、知ってたね?」

「別に、そこまで大きな問題じゃないから驚かなかっただけよ」

「そして、彼らは美紀が怪しいと考えているらしい」

「怪しいって、私が名簿をなくしたのは事実だけど」

「うん。だから、私は彼らにこう言ってあげたよ。美紀が名簿をなくすより、なくしたと嘘を吐く可能性の方が大きいってね」

 期待を裏切らない美紀は大きなため息を吐いてくれる。

 その姿が好きなんだ。

「いつもの事だけど、あなたはどっちの味方なの?」

「もちろん、面白そうな方の味方だよ」

 心が動く瞬間にこそ、その人物の本性が現れる。

 まぁ、そんな事言うのは相当性格の悪い奴だけだろうけど、実際、平素から外れた姿ってのは見てて面白いものだからね。

「明日が最終日だしさ、彼ら本気で美紀に迫ってくると思うよ」

「あのねぇ」

 三つくらいかな?

 言いたいことがあるような美紀の顔。

 一つは、仮入部期間最終日ってめちゃくちゃ忙しい日に面倒事を持ってくるなって事。

 一つは、私がリアルワールドゲーム部に肩入れしすぎって事。

 一つは、なくなった名簿の行方について。

 最後のに関しては、言いたくても言えないし、言うつもりもないし、私が察している事を承知の上で明言はしないから、かき回すなって言いたいんだろうけど。

「明日は楽しい一日になりそうって顔だね」

 人気のない校内に大きなため息が響く。

 いやはや、参っちゃうよね、こう面白いことだらけの世界じゃ明日が待ち遠しくて仕方がない。

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