4-9 実績系隠しアイテム

 先輩たちと放送室前で別れ、俺たちは廊下を歩く。

 キンコンカンコーンとおなじみの音がして、スピーカーから下校を促す放送が流れた。

『下校時刻となりました。生徒の皆さんは速やかに下校して下さい』

 少し慣れない話し方的に桐谷愛だろうか、今まで誰が放送しているかを気に留めたことなんてなかったけど、明日からは違いそうだ。

 そんな校内放送の流れる廊下に足音が響く。

 軽快な足音に続いて、声が聞こえた。

「わりぃ、遅くなった」

 爽やかに片手を挙げる木戸。

 シャツは胸元がはだけ、いい感じに髪も乱れていて、明らかに運動してきた後なのが見て取れる。

 その晴れやかな木戸を見て察した。

「結局、サッカーするのか?」

 俺の問いかけに木戸は驚いた顔をする。

 本当にわかりやすいやつだ。

「すまん、冬春」

 勢いよく木戸が頭を下げる。

「雪子ちゃんもアノアちゃんも、ごめん」

「まったく、柔不断過ぎだろ」

「本当だよな」

 頭を下げたまま木戸は頷く。

 器用なやつだ。

「まぁ、木戸が好きな事をするのは止めねぇよ。一緒に部活できないのは少し残念だけどな」

「部活は一緒にできるぞ」

 顔を上げた木戸はあっけらかんと言う。

「サッカー部って兼部禁止じゃなかったか?」

「東雲先輩から許可出たから、リアルワールドゲーム部も続けるよ。流石に毎日参加はできないけどさ」

「いいじゃないかゴロ、サッカー部での人脈がこちらの活動に活きることもあるだろう」

 乃愛がいかにも彼女らしいセリフを言う。

「おう、クエストばんばん持って来るから期待しててくれ」

 木戸が加わり、四人で下足室へと向かって歩く。

「ところで、そっちはなにか進展あったのか?」

 乃愛が自慢気に腰に手を当てる。

「無論、我々は真実にかなり近付いているぞ」

 乃愛が進捗状況を説明する。

 

 その間手持ち無沙汰なので、俺は雪子と話すことにした。

 いや、流石に部としてここまで活動して、まともに話したことがないのはマズいとか、そういうあれだ。

 けっして、あの厄介な副会長が言うような攻略云々ではなく。

 何に対して言い訳してるんだ俺は。

「TRPGの時楽しそうだったな」

 不意に、俺から声をかけられた事で、雪子は驚きつつ頷く。

「うん」

「あんなにハキハキ喋る雪子は初めて見たよ」

「変だった?」

「いや、俺もTRPGするのはじめてだったから、助けられたよ」

 頷いた雪子は、少し視線を泳がせる。

「私じゃなかったら、話してもいいかって思って」

 言葉の意図が読み取れず、沈黙が流れた。

「あっ、えっと、クラウドなら、髪が金色でも変じゃない、でしょ」

 雪子は沈黙に驚いた様子で、言い訳するように、いつもより少し早口で話す。

 それが、彼女の容姿の話だと気付くが、なんと言っていいのか、少し悩む。

「雪子は雪子なんだから、別に話してもいいだろ、金髪だって変じゃないし」

 木戸や乃愛ならもっと上手い返しができるのだろうと、歯がゆく感じた。

 その二人は進捗の説明で盛り上がっている。

「うん」

 納得したのか、雪子は頷く。

「そう言えば、クラウドって直ぐに決めてたけど、由来とかあるのか?」

 キャラ名の話なんて、自分が振られたら最悪だろうと、言ってから気付く。

 コミュ力が足りなすぎる。

「好きな人だから」

 配慮の足らない話題の罰か、仮に雪子に想いを寄せている男子が聞いたら卒倒しそうな返事が返ってきた。

「へぇ」

 なんとなく、年上のモデルみたいな体型のイケメン外国人のイメージが浮かんだ。

「ねみい君も知ってる?」

 どうやら有名人らしいが、残念ながら芸能人なんかはかなり疎い。

 俺の知ってるクラウドなんて、ゲームキャラくらいだ。

「いや、ゲームのキャラくらいしか浮かばない」

 せめて笑って流して貰おうと、言ってみたが、雪子は不思議そうな顔をした。

「ゲームだよ」

 そういうのは好きなキャラって言ってくれ、という言葉を飲み込む。

「クラウドって、あの金髪の?」

「うん」

 意外と言うか、雪子はゲームをあまりしない人間だったんじゃないだろうか?

 いや、有名タイトルだし、やってても不思議ではないのか。

「ああいうゲームするんだな」

「お話みたいなのは、難しくないから」

 お話、まぁRPGはお話と言えばお話か、確かにストーリーが薄くてがっつりアクションをするタイプに比べると敷居は低いか。

「ペンも持ってるよ」

 心なしか嬉しそうに、雪子は鞄を開けて筆箱を取り出す。

「知ってる人、あんまりいないから」

 筆箱から銀色のペンを取り出して、俺に手渡す。

「結構有名だろ?」

 銀色の本体に金色の筆記体でCloudと書かれている。

 有名タイトルだからかキャラグッズもお洒落だ。

「FFのグッズってこんな感じなんだな」

 俺の言葉に雪子は首を傾げた。

「ウェザーズだよ?」

 お互いが頭の上にクエスチョンを浮かべたまま、少しだけ時間が止まる。

「知らない?」

 人違いならぬ、キャラ違いだったらしい。

「ああ、ごめん、勘違いしてた」

 よく考えればわかりそうなものだ。

「ウェザーズってどんなゲームなんだ?」

「天気の人たちが出てくるお話」

「だからクラウドか」

 得心がいってしまった。

「でも、意外だな。雪子がキャラクターグッズまで持ってるなんて」

「お兄ちゃんが買ってきてくれた」

「兄妹いるんだな」

 よくよく考えるまでもなく、俺らは互いに知らないことだらけだ。

 改めて手元のボールペンを見て、それを雪子へと返す。

 TRPGの時、なにが引っかかったのか、改めて見てもわからなかった。

 もしかしたら、単に珍しくて目についただけの話なのかもしれない。

「生徒会長も」

 そう思った矢先、雪子が口走る。

「ウェザーズ知ってるのかな?」

「なんで生徒会長?」

「机に飾ってたから」

 そこまで言われて、ようやく俺の中でなにかが繋がった。

 生徒会室、生徒会長の机に飾ってあったペンと雪子が持っていたペンは意匠が似ていたのだ。

 だとすると、生徒会長もグッズを持つほどにそのゲームが好きと言うことになる。

 彼女の性格からすると意外だと思った。

 むしろ、感心すべきは雪子の観察力なのかもしれない。

「よく気付いたな」

 彼女が生徒会室に入ったのは二、三回程度、それもじっくり探索する時間などないような状況でだ。

「好きなのだと気付くよ」

 なるほど、そういうものなのかもしれない。

「机に飾ってたって事は、生徒会長もそのゲームが相当好きなのかもな」

 雪子は首肯する。

「気付いて欲しかったのかも」

 マイナーゲーという話しだったか、グッズが出るくらいだから、インディーレベルではないだろうが、ノベルゲーは詳しくないので、正直なところどの程度の知名度かはわからない。

 しかし、どんなゲームだろうと、同志と出会えた時の嬉しさは変わらないだろう。

「今度、生徒会長に会った時にでも話題にしてみたら喜ぶかもな」

 俺の提案に雪子ははにかみながら頷いた。

 実際は熱量だったりプレイスタイルで噛み合わない事も多いが、それも話さなければ始まらない。

 まぁこの発見がクエスト解決に役立つことは無さそうだが、いよいよとなったら同士の好でなんとかできないだろうかなどと、阿漕な事を考えて、下足室へとたどり着いた。

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