4-1 自己申告8程度

「これでどうだ」

 朝一、登校してくるなり俺の机に紙を叩き付け、乃愛は言う。

 その紙はやはりステータスで、昨日のものよりも更にしっかりと書かれ、なんなら既に数字すら割り振ってあった。

 ・POW(精神力)Power

 ・CON(体力)Constitution

 ・APP(外見)Appearance

 ・DOR(認知度)Degree of Recgntion

 ・PSA(問題解決能力)Problem solving ability

  INT(知能)Intellifence

  DEX(敏捷性)Dexterity

  CHA(魅力)Charm

 いくつか俺が普段するゲームでは馴染みの薄いステータスが目につく。

「クトゥルフだろこれ」

「そこに気付くとは流石だ、TRPGも嗜むとはな」

「したことはない、動画で時々見る程度だし。それにしても、どうなんだこれ」

 改善されて来ている気はするが、それでも色々と言いたいことのあるステータスだ。

「悪くないと思うんだが、クトゥルフTRPGと言えば割合現実的な世界観でプレイする事が多いだろう、それならばリアルワールドゲーム部でも流用可能だと判断したんだが」

「言いたいことはわかるんだが、変動しようのないステータスを入れる意味はあるのか?」

「もしかしてAPPの事か?」

「まぁそれだな」

 ゲームならいざ知らず、現実で外見を数値化する残酷さは計り知れない。

「変動するだろう」

 しかし、乃愛はあっけらかんと答えた。

「もしかして、美醜だけのステータスだと思っていないか?」

「もしかしなくても外見ってそういうもんだろ」

 例えば雪子なら初期でカンストしてるだろうし、乃愛や木戸だって低くはない。

 対して、俺は自分で言うのもなんだが、そこに関しては全く自信はない。

「それは誤った認識だな。確かに見た目の美醜も加味されるステータスではある。しかし、それ以上にその言動や服装、それによって形成される雰囲気が重要なステータスとするつもりだ」

「言動ねぇ」

「その点で言えば、君のAPPは平均以上だと思うぞ。実際どうかは置いておくとして、初見では温和そうで頼み事をしやすい雰囲気をしている。逆に雪子は見た目こそ非常にいいが、そのせいで話しかけ辛い雰囲気を纏っている。つまり、リアルワールドゲーム部としてはねみいの方がAPPは上になる」

「そんな褒められ方をしたのは、はじめてだよ」

「もう少し自信がある言動ができるようになれば、更に上がるだろうな。そういう意味でAPPは変動するステータスと言える」

「採用するかは別にして、一応理解した。次はPSAなんだが」

「そこは自信があるぞ、問題解決能力というのがそもそも曖昧だったからな、より細分化してその平均値のステータスとすることにした」

「それはなんとなくわかるし、INTもわかる。DEXも一応わからなくはないが、CHAはどういうことだ」

「君やけに魅力に噛みつくな。魅力で解決できる問題もあるだろう」

「昨日も言ったんだが、ステータスとして判断材料が曖昧すぎる」

「とは言え日常でも使うだろう『あの人は魅力的』だとかなんとか」

「言ったことねぇよ」

「むう、しかし魅力は必要なステータスだと思うんだが。少し待ってくれ、なんとかして君を納得させる説明を考える」

今日のステータス議論はここで打ち止めのようだ。

「相変わらず、朝からやってるな」

 そこに今日はゆっくりと登校してきた木戸が合流する。

「活動は順調か?」

「やるべき事がある状態を順調と言うのなら、順調そのものだな」

 少し遠回りな乃愛の言葉に木戸は眉を寄せる。

「話すと長いんだが、まぁ楽しくやってるよ」

「そりゃいいな」

 さわやかにそう言った後、木戸はなんとなく、なにか言いたそうな顔をした。

「どうした?」

「よかったら、俺も混ぜてくれないか」

 いつも軽い木戸には珍しく、意を決したような口調と真剣な表情で言う。

「無論、いいに決まっている」

 間髪入れず、乃愛が即答した。

 流れ的に俺の台詞じゃないのか?

 まぁ、いいけど。

「サッカー部はいいのか?」

「どうせ他人の目が気になるなら好きなことやった方が得だろ」

 どうやら、木戸なりに吹っ切れたらしい。

 あの会話が全ての要因ではないにしろ、少しは関係しているのだろう。

 サッカーをする木戸に期待してた人間の恨みを買うのは怖いので、ここは素知らぬ顔をするに限る。

 我ながら卑怯な対応を決めた所で、一つ気になる事があった。

「でも、新入部員名簿にお前の名前書いてあったぞ」

「あー、一昨日回収したやつだろ、もう消したから安心しろ。昨日部長にその話をしようと思って一日探したんだけど捕まらなくてさ、今日ちゃんと話しようと思う」

「いや、そっちじゃなくて」

 言いかけた俺の肩に乃愛が手を置いた。

「その話、詳しく聞かせてくれないか?」 

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