3-4 お使いクエスト(派生)

 完全に、とは言わないまでも一応調子を取り戻した放課後、俺たちは残り少ない制限時間内にできるだけ多くの成果を出そうと意気込み、行動を開始しようとしていた。

「先ずは昨日接触し、存在が認識されている部活でクエストを探すのはどうだろうか」

 時間がないことと関係しているのかは知らないが、乃愛にしては酷く真っ当な提案を受けて俺たちは下足室へと向かう。


 ピンポンパンポン

 気の抜けた音が聞こえた。

 続いて、多少のノイズを含んだ声が響く。

「一年二組夏秋未寧、一年二組亜野乃愛、一年四組武藤雪子、以上三名は至急生徒会室まで来て下さい、繰り返します……」

 俺たちは顔を見合わせた。

 雪子は困惑した顔をしていて、俺もきっと似たような表情をしている。そして、乃愛だけが希望に満ちた笑顔をしていた。


「リアルワールドゲーム部に依頼があるのなら、そう言えばいいのですよ」

 道中、それを信じて疑わなかった乃愛は、生徒会室のドアを開けるのと同時にそう言い放った。

「正式に部活と認可した覚えはありませんのでその呼称は使えません」

 生徒会室の奥に鎮座した生徒会長は表情を微動だにせずその言葉を受け流す。

「ちなみに、依頼があってお呼びしたのでもありません」

「では、なんの用事かな? ご存じの通り我々にはあまり時間がないのでね。もしくは、時間を浪費させる事が目的で呼び出したのですか?」

 まるで敵キャラに皮肉を言うようなテンションの乃愛。

 一度、生徒会が敵ではないとしっかり説明する必要がありそうだ。

「そういうやり取りは弥夜として下さい。事実確認をしたい事があったので呼んだだけです」

 どこまでも冷静に生徒会長は話す。

 一昨日の時よりも更に堅い印象を受けた。

 乃愛が鬱陶しすぎて敢えて突き放そうとしているようにも感じる。

 まぁ生徒会長みたいな人は乃愛のようなタイプは苦手だろうから仕方ない。

「では、その用件を早く言ってくれ」

「確認ですが、昨日あなた方は弥夜に言われて、剣道部、柔道部、サッカー部、ゲーム部の新入部員名簿を回収しましたね?」

「そうだ。記念すべき我々の初クエストだった」

「四つの部、全てで新入部員名簿を回収しましたか?」

「クエストは完遂した筈だが?」

「それを全て、確かに提出しましたか?」

「無論。これはなんの確認だ?」

 矢継ぎ早に質問をされて乃愛は怪訝そうな顔をする。

 乃愛の答えを聞きながら、俺も昨日の出来事を思い返していた。

 色々と予想外の事はあったが、確かに俺たちはちゃんと依頼を達成した筈だ。

 生徒会長は乃愛の答えを噛み締めるように一度目を閉じ、頷いてから、口を開く。

「サッカー部の新入部員名簿を紛失してはいませんか?」

「それは、どういう意味でしょうか?」

 思わず乃愛よりも先に聞いてしまう。

「我々が虚偽の報告をしたと言いたいのか?」

 乃愛が続く。

「あくまで事実確認をしているだけです。三人全員を疑っているわけではありません。誰が新入部員名簿を各部から受け取りましたか?」

「私だ、全ての部活で私が受け取った」

 胸を張る乃愛。それは俺の記憶とも合致していた。

 特にサッカー部では部長と話をしたこともあってよく覚えている。

「亜野さん。道中で名簿を紛失するような行動は取っていませんか?」

 淡々とした生徒会長の声に責めるような雰囲気はない。

 本当にただ事実確認をしているだけなのだろう。

 だからこそ余計に空気が重い感じがした。

「取っていない」

「名簿を回収した順番と移動したルートを教えて貰えるでしょうか?」

「まるで取り調べだな」

 乃愛がため息を吐く。

 経験したことはないが、確かに実際の取り調べはこんな感じなのかも知れない。

 それはそうと、ため息こそ吐いているが、乃愛はどこか嬉しそうなんだが。

 大方、一度は言ってみたいが言う機会のない台詞を言えたとか、クリアした筈のクエストが派生しそうでワクワクしているとかのどちらかだろう。

「まぁまぁ、そんなにいじめてやるなよ美紀」

 その台詞が最高にはまる瞬間を狙っていたようなタイミングでドアが開き、椎名副会長が現れた。

 彼女の事なので本当にその可能性も否定できない。

「東雲に確認してきたけど、確かに名簿を渡したってさ。私の方もちゃんと確認してから受け取ってる。リアルワールドゲーム部は無罪だと思うよ」

 乃愛に歩み寄った椎名副会長はその肩に手を置いた。

「だけど、他に可能性は」

「美紀が無くしたって可能性はまぁ薄いだろうけどさ」

 椎名副会長の登場によって空気が一気に軽くなる。

「あの、今更ですけどサッカー部の新入部員名簿が無くなったんですか?」

「そうなんだよ、名簿自体はまた書いて貰えばいいけど、一応個人情報だからさ、見付けないと面倒な事になるってわけ」

 そんな話を聞いて、乃愛が黙っている筈もない。

「でしたらその依頼、我々がお受けしましょう」

「その言葉を待ってたぜ」

 ここぞとばかりに椎名副会長が乃愛の背中を叩いた。

 言ってみたい台詞の中では割と汎用性が高い部類だ。

 

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