ギルド 2

 何もしない僕にギルド職員の女性は唖然としていた。

「えっ。あの、本当に大丈夫なのですか?」


 僕は彼女の言葉を聞き流しながら、横を向いた。まだ、男の後ろ姿が見える。本当に、最後までああ言う男は馬鹿であり続けたら、いいと思った。


 女性がまだ驚いている内に、カウンター上に置かれた偽物を収納魔法で直した。次に一瞬で、自分の魔銃を直してから、偽物を男の手に置いた。彼が魔銃が消えたと思わないよう、細心の注意を払う。

 全てを終えてから、僕は女性と向き合った。


「よし、もう終わったよ」


「はいっ?」

 と、女性は言った。


 何も変化がないので、分からない人からしたら当然の反応である。女性のためにも、今度は僕は魔銃をカウンター上に取り出して、置いた。


「ほら、ちゃんと取り返した。あの様子では気付いていないようだけど。……ここで買取りってしてくれる?」


 女性は止まっていたが、聞かれた事に応答した。

「私としては、登録をまずお勧めします」


 僕は仕組みが分からないので、任せる事にした。

「なら、よろしく」


 そして、書類に署名などをしていくと、ギルドのカードを渡された。ちゃんと自分の名前が、リルとだけ書かれていた。自分の存在を証明する一枚のカード、その存在は大きく感じ取れた。

「最初は全員、Eランクです」

 女性の言う通り、僕のカードにもEの文字が綴られていた。


「買取りは隣のカウンターなので、そちらに行って下さい。ちなみに私はラミ。ギルドの受付嬢をしています。また何かあったら、声を掛けて下さい」

 と、ウィンクをして来た。

 僕は少しそのハイテンションに驚いた。が、受付嬢として、愛想良く振る舞っているのだと思った。少し、やり過ぎている気もしたけど。



 そのまま隣に行くと、事情を理解していると思われる大きな男がいた。熊のように強くて、力強いイメージがある。

「おんたが、リルか。俺は、ジックだ。気軽にジックでも、ジーでも何でも呼んでくれたらいい」

 と、いきなりガハガハ笑い出した。その笑い声も熊のようで、部屋中に響いていた。


 ──熊だな。ジック=熊。

 と、言う方程式が僕の頭の中で出来上がっていた。どうしても、そう思える。熊のジーなどと呼ばれたら、本当に似合っている。


「何でも見てあげるから、まずは見せてくれ。リルは手に持っていないようだから、収納魔法が使えるのか?」

「はい。それしか使えないようですけど」

「いやいや、収納魔法も珍しいものだ」

 と、ジックは褒めてくれた。


 僕は嬉しく思いながら、収納魔法からあの狼を取り出した。

 突然、山となって現れた狼に、ジックは目を丸くさせた。

「これはっ…ホーンウルフではないか! それも一匹ではなく、山となるほどまで」

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異世界の明日を生きる 影冬樹 @kagefuyuki

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