最終話 誰だっていつも頑張っている

久しぶりの睡眠だったが、夢も見る事なくスッキリ目が覚めた。






 「おはよう。久しぶりの睡眠はどうだったかな? まる一日寝ていたよ。良い夢を見れていたなら幸いだ」






 オレは病室に寝かされていた。オレ一人の殺風景な個室だ。ベット以外は天井のLEDくらいしかなく、飾り気なんて微塵もない。窓すらなかった。






 「…………この部屋久しぶりに来ましたよ」






 そんな無味乾燥な病室だが、ここをオレは知っている。以前、ここに入院した事があるからだ。




 ここは摩利支天の病院。ここでオレは情報流体生命金属の移植手術を受けたのだ。




 十年以上経過したのに何も変わっていない。あの時の記憶と全く同じ病室だった。






 「懐かしいかい?」






 「そうですね。でも、それだけです」






 「昔、君がここに運ばれてきた時、この部屋を用意したのは私なんだ。そう言われると少し寂しいな」






 「…………情報流体生命金属もですか?」






 無くなったはずの左腕は元に戻っていた。至って普通の腕に見えるが、これが情報流体生命金属なのはすぐにわかる。僅かな違和感があるが、それはこの腕が新品だからだろう。動かせばすぐに馴染むはずだ。






 「それに関しては私は相談されただけだ。あの時、君を救ってくれた人間が朝菱なのは変わらないよ」






 オレのベットの隣で椅子に座っている人物は、微笑を浮かべながらそう言った。






 「君の事は色々と聞いている。随分と朝菱を慕っているんだね。是非、これからもアイツを支えてやってほしい」






 ――――――その人物はどう見ても、どう声を聞いても小学生としか思えなかった。




 頭に可愛らしいリボンをつけて、何処ぞの有名私立小学校の制服みたいな服を着ており、“おめかししている”という表現がぴったりだ。ここが摩利支天の病院でなければ、親とはぐれて、知らない患者の病室に来たんじゃないかと勘違いしただろう。




 オレに笑顔を向けて足をパタパタと動かすのは別にいいんだが、その度にスカートが揺れ動いている。なので、オレはなんとなく視線を逸らした。






 「さっきまで朝菱がいたんだけどね。仕事の用事で行ってしまったよ。目覚める君を見れないなんて、ツイてないヤツだ」






 見た目通りの声で「朝菱」と言っているのは相当な違和感だが、ここは摩利支天だ。情報流体生命金属を制作できるような異世界であり、そんな場所ならこんな人物がいても不思議ではない。




 この少女がどんな人物なのかわからないが、さっきの会話内容からしても、オレなんかとは全然立場が違うというのはわかる。




 おそらくこの摩利支天の上層部にいる人物だ。






 「ああ、自己紹介してなかった。私は伊吹。是非、伊吹ちゃんと呼んでほしいな」






 伊吹はそう言ってオレにウィンクする。






 「伊吹ちゃん…………ですか」






 「そう。相手と親しく会話する心得その一。まずは気安い呼び名にしないとね」






 「まあ、何でもいいですけど…………ええと、伊吹ちゃん」






 「うんうん。呼んでもらえて光栄だ。これで要君と気安く会話ができる」






 伊吹の視線がオレの目を静かに捉えるように動いた。






 「識那珂椿が“運命のノヴァラージュ”である事とかね」






 「……………………」






 それはオレがずっと隠し続けていた事だった。椿本人も知らない、オレがだけが知っている事だった。




 運命のノヴァラージュ。




 識那珂椿は予知のノヴァラージュではない。それよりも遙かに上を行く“運命”というノヴァラージュの力を持っている。






 「…………さすがにバレましたか」






 「まあ、ミサイルの直撃や識那珂柊華が助かっている件がどうしてもね。ここまでくると嫌でも調べられてしまうモノだよ。ああ、心配しないで。この事を知っているのは君、私、朝菱、霧灘、荒灰の五人だけだ。公にはしていない。あと、さすがに数人の摩利支天上層部は知っているが、判断は私に一任されているから大丈夫だよ」






 伊吹は「安心しろ」と言うように手の平をこちらに向けて言った。






 「何のノヴァラージュなのか? を判明させるのは中々難しいね。摩利支天は頑張っているんだが、どうしても正確に判明させるのは難しい。情けない限りだ」






 「おかげさまで、ずっとオレだけの秘密にできましたよ。本人は予知のノヴァラージュである事を疑ってませんし。いつも椿と一緒にいて、その力を客観的に見ていたオレしかわかってなかった」






 「ハハハ。そうだね」






 「………………運命のノヴァラージュの力がどんなモノなのかを…………伊吹ちゃんはもう知っているんですよね?」






 「うん」






 伊吹はゆっくりとだが、しっかりとオレの質問に頷いた。






 「運命のノヴァラージュは、その通り運命を変えてしまう力を持っている。識那珂柊華は心臓を撃たれて死んだ、という運命を肩の怪我に変えてしまったり、ミサイルの直撃で骨も何も残らなくなる運命を、何の被害もない状況に変えてしまったりね。風雪ペスキスタワーの事件以降、識那珂柊華が予知のノヴァラージュでなくなってしまったのも、このせいだろう。運命が本気で作用すると、予知なんて力はバラバラにされてしまうらしい。まあ、不思議はないけどね。そもそもパワーバランスというか規模が違うんだ。予知なんてのは運命を僅かに垣間見ているに過ぎないんだし」






 「じゃあ、柊華姉ちゃんは…………」






 「ああ、もう予知のノヴァラージュでも何でも無い普通の女子高生だ。まあ、保険は必要だと思ってるけどね」






 「保険?」






 伊吹は「すぐにわかるよ」と笑いながら言った。






 「しかし、運命を変えるノヴァラージュはとんでもない力を持っているね。さすがに、その力の使用には条件があるけど」






 伊吹は続ける。






 「運命という力はどんな状態も状況も好転させる。でも指先一つで簡単に、ってワケにはいかない。運命のノヴァラージュがその力を使うには、その者の“頑張り”が必須だ。努力なくして運命は振り向かない。難儀な事だ」






 一度バレてしまえば、色々と明るみになるのは自明の理だ。そのバレた先が秘密組織なんて所なら尚更だろう。




 摩利支天は少なくともオレが知っている程度には運命のノヴァラージュの力を理解していた。






 「だが一番の問題は、その運命は味方だけでなく敵にも微笑む所だ。こちらの頑張りが敵より劣っていた場合、運命は敵に微笑んでしまう。運命に正義や悪なんてモノはないって事だね。諦めず、しつこく、絶対に負けるもんかって、そんなヤツに微笑む。運命は酷く美しく平等だ」






 伊吹の言う通りだ。運命のノヴァラージュは誰にでもその力を与えてしまう。今回でいうなら、風雪ペスキスタワーで起こった事件に関与している者、または関与しようとする者が対象だ。あの場にいる全員に、どんな大逆転も可能にする運命の力が働いていたのだ。




 オレにも、椿にも、柊華姉ちゃんにも、霧灘にも、荒灰のおっさんにも。




 そして臥厳にも。






 「だから君は絶対に臥厳を殺さなきゃいけなかった。アイツは君の仇と同時に、意地の悪い頑張り屋でもあったから。ただ、その頑張りは黒く染まっていたけど」






 「…………アイツはテロ屋で悪党で………………それを楽しむために頑張ってました。どんな有利状況も不利状況も関係なく、楽しみを優先させて…………そういう行動に命をかけてましたから」






 臥厳に自覚があったのかは知らない。だが、たしかにアイツは運命を微笑ませる行動をとっていた。




 対象をすぐに殺さず舌なめずりの三流を気取ったり、意味なく相手を挑発させたり、わざわざ奥の手を使う状況にしたり、洗濯機なんて面倒くさすぎる攻撃方法を採用したりと、そういう努力をしていた。




 全て歪んでいるモノばかりだが、それが臥厳の頑張りだ。頑張りである以上、運命は臥厳に微笑んでしまう。




 運命は頑張った方に味方する。




 だからオレは臥厳より頑張らねばならなかった。




 どんな時でも諦めない。例え絶望で泣いてしまったとしても、絶対に立ち上がる。




 柊華姉ちゃんが殺されても、ミサイルで消し飛ばされようとも。




 臥厳に勝つために――――――――――オレの“意思”は絶対に負けられなかった。






 「っと、お名残惜しいがそろそろか。君とはもっと話したいが、それはまた次の機会だ」






 伊吹は椅子からぴょこりと飛び降りると、オレの元へやってきた。






 「君へお礼を言いたい」






 伊吹は真顔でオレへ手を差し出した。握手を求めていた。






 「風雪ペスキスタワーのテロに奮闘してくれてありがとう。君のような者がいるから日常の均衡が保たれている。摩利支天の幹部として、私は君を誇りに思う」






 外見相応の力でオレに握手すると、伊吹は部屋のドアへ向かう。






 「ああ、最後に聞いておきたいんだけど」






 伊吹はオレに振り向いた。






 「どうして識那珂柊華は死の運命を変えられたんだろうね。あの時、識那珂柊華は諦めていたと思うんだ。生きるより死を選ぼうとしていたはず。死を受け入れたと言った方がいいかもしれない。つまり、頑張っていなかったはずだ。なのに、どうして識那珂柊華は助かったんだろう」






 「…………そんなの簡単ですよ」






 どうして、あの時柊華姉ちゃんは死の運命を変えられたのか。あの時、どうしてオレは動転せず、なぜ柊華姉ちゃんは大丈夫だと思えたのか。




 その答えは簡単だった。




 「柊華姉ちゃんは今までずっと、みんなのために頑張ってきた。感謝されて、その思いに応えようとずっとずっと頑張ってきたんだ。それなら死の運命くらい変わって当たり前です。運命はあの頑張りを知ってるんだから」






 「…………そうか。そうだね。その通りだ」






 伊吹はそのまま部屋を出て行った。トテトテと聞こえそうな足取りだった。意識していないと摩利支天の幹部で朝菱先生の上司である事を忘れそうになる。






 「………………さて、これからどうするべきかな」






 オレが摩利支天に椿の事を言えなかったのは、単純に信用できなかったからだ。




 運命のノヴァラージュは頑張りに応える力。オレはこの力は素晴らしいモノだと思っているが、同時に危険である事も承知している。なにしろ、頑張りさえすれば世界征服もできてしまう力なのだから。




 頑張るというのは、簡単と難しいと曖昧が酷く同居している行為だ。だが、そこに絶対の成功が約束されているなら何も問題はない。ゴールが輝いているなら、目的地まで続く暗闇が払われるからだ。これなら途中でどんな障害が発生しようと、諦めず頑張りきれるだろう。




 そのため、これが個人でなく組織になれば、その頑張りは容易になる。組織なら個人では不可能なサポートが可能になるし、目的達成が約束されているなら助力を惜しまないからだ。障害や壁に立ち向かう難度は明らかに下がるだろう。




 だから、オレは組織である摩利支天を不安に思ってしまった。




 組織である以上、そこには様々な者の思惑が発生する。それが椿を危機に陥らせるかもしれない。


 だから、椿が運命のノヴァラージュである事をオレが摩利支天、朝菱先生、椿本人にすら黙っておくのは当然だった。風雪ペスキスタワーのテロがなければ、墓まで持って行っただろう。




 だが、もう椿は運命のノヴァラージュであるとバレてしまった。






 「…………まあ…………なんとかなるか」






 それは椿を護衛する上で諸刃の剣なのかもしれないが、少なくともこの事を知っている五人は信用できると思っている。それに、オレはこれら全てを運命のノヴァラージュの力がもたらしたモノと片付けるクソ冷静さを持っていない。




 みんな頼りになった。助けられた。オレ一人ではこのテロを解決できなかった。




 オレがこれからも“護衛”をするなら、仲間の助けは必須だ。




 この先、また今回のような事件が起こらないとは限らないのだから。






 「要ちゃん!」






 そんな事を考えていると、病室のドアが勢いよく開いた。




 椿だ。そのまま思い切りベットにダイブしてきて、そのままオレに抱きつく。






 「要ちゃん要ちゃん要ちゃん要ちゃん~~!」






 椿はどんな感動映画を見ればそうなるんだ、くらいの涙を流す。オレの無事をとても喜んでおり、取り付く島もないような顔で泣きわめいていた。






 「よかったよぉ~よかったよよかったよ要ちゃ~ん!」






 「おおげさだな椿。そんな泣く事ないだろ」






 「だって~! だってだってだってだって本当に本当に本当に本当に心配したんだから~」






 「…………ごめんな心配させて」






 「いいんだよ~がなめぢゃんがぶじだら~」






 そんな泣き顔を見ていると暖かい感情が沸いてくる。居場所、生きる意味、帰り着く所、一人じゃない証。そういった愛を感じて、オレは椿が大事な人物である事を再実感した。






 「ありがとな椿」






 オレは椿を安心させるようにその頭を撫でる。それでも椿は泣き止まなかったが、いくらか安心したようで、段々と静かになっていった。






 「元気そうでなによりね須部原君」






 「お前、女の子泣かせてんじゃねーよ。ったく」






 霧灘と荒灰のおっさんもやってきた。二人ともオレの無事を喜んでおり、その顔には笑みが浮かんでいた。






 「二人も来てくれたのか。心配かけてごめんな」






 「謝るのはこっちよ。本当なら私が須部原君を助けなければならなかったのに、あなた達を頼ってしまった」






 霧灘は礼儀正しく頭を下げる。きっちりぴっしりとした、霧灘らしいお手本のような叩頭だった。


 「あなた達」というのは含みだろう。椿に助けられた事は本人に言えないからだ。霧灘はオレに礼を言いつつ、椿にも感謝を伝えていた。






 「気にしなくていいよ。お互い様だしな。オレだってお前の援護がなければ、やられてた」






 「ありがとう。そう言ってもらえるとこちらも嬉しいわ。これからは私達も須部原君に協力する。もう転校手続きは済ませたから。友達としても同僚としてもよろしくお願いね。キャラも作ってきたから心配ないわ」






 「…………キャラ?」






 なんとなく想像できるが、一応聞いてみると霧灘の雰囲気と表情が激変した。






 「もー、こういう事だよ須部原君! 普段の私じゃクラスに馴染むの難しいもん☆ だから、こうやってキャラ作る努力しなきゃいけないの❤ ぷんぷん! 察してよね須部原君!」






 「…………誰?」






 「私よ」






 スン、と一瞬で霧灘の表情と雰囲気が元に戻る。






 「急に真顔になるなよ…………怖いだろ」






 「溶け込む事、なりきる事は私の特技よ」






 そういえばコイツ、ペスキスタワー内じゃ恋人に扮して柊華姉ちゃんの護衛してたんだった。こういうのは得意分野って事か。






 「霧灘さん、元のままでもいいと思うけどなぁ」






 「椿さん。私は摩利支天の任務として天宮高校に転校するわ。身分や性格等々を偽るのは当然の事よ」






 「でも本当の霧灘さんも可愛いし。もったいない気するし」






 「これは訓練の一環でもあるの。別に普段の自分を嫌悪しているワケじゃないわ。こうしていた方がいい場合もある、という事で――――――――」






 椿と霧灘は何やら会話を始める。会話にいくらか砕けた感じがあるので、もう二人はそれなりに気を許している仲のようだ。少なくとも初見時と思える緊張はない。オレが眠ってる間に親交を深めていたようだった。






 「俺も天宮高校に行く事になった。用務員って肩書きでな」






 椿と霧灘が話している横、荒灰のおっさんもオレの側にやってくる。






 「正直、俺は“処罰”されてもおかしくないんだがな。お前の上司の意向で命散らさず済んだよ。変わりに専属奴隷みたいになっちまったがよ。ま、死ななかっただけ良しとしなきゃな」






 上司というのは朝菱先生か伊吹のどちらかだろう。摩利支天側に協力したとはいえ、荒灰のおっさんはテロリストだ。本来なら殺される境遇だが、そこに救いの手を伸ばしたようだ。




 まあ、罪を償う意味は当然として、荒灰のおっさんが持つ技能を利用したいというのも本音のはずだ。荒灰のおっさんの起用には、摩利支天の人材不足影響が少なからず有りそうだった。






 「しかし、まさかテロリストの俺が用務員とは。人生何があるかわからんもんだ」






 「摩利支天としては手駒が多ければ多い程いいんだろ。学校には朝菱先生もいるし、見張りやすいってのもあるかもな」






 「お前らも学校にいるしな。まあ、裏切る気はねぇよ。お前には二回も命助けてもらったんだ」






 荒灰のおっさんはグシグシと乱暴にオレの頭を撫でる。






 「助けられた命、これからはお前らの為に生きて行くつもりだ。今更だが、大人の責任ってヤツも背負ってみるさ」






 「ああ、頼むよおっさん」






 「おっさんじゃねぇ。お兄さんだ」






 荒灰のおっさんはオレの頭にチョップすると、視線をドアへ向けた。






 「…………おい、気にしなくて大丈夫だって。悪い事したってんなら、お前よりオレの方がやりまくってるぞ? 入ってこいよ」






 荒灰のおっさんが外に声をかけて数秒後。




 そこで最期の一人が入ってくる。






 「要くん…………ごめんなさい」






 肩に撒かれた包帯が痛々しいが、それ以上に表情の方が痛々しかった。おずおずとした足取りで、明らかにオレに目を向けるのを躊躇っている。




 柊華姉ちゃんはオレにどんな顔を向ければ良いのかわからない様子だった。






 「いいんだよ。柊華姉ちゃんがどうしようもなく追い詰められてたって、気づかなかったオレだって悪い………………いや、そういうのじゃないな」






 もうそれらは全て過去だ。振り返る必要はない。振り返れば後悔しかないし、反省なら既にしている。




 だから、オレが姉ちゃんに言うべき言葉はコレだ。






 「来てくれてありがとう柊華姉ちゃん。嬉しいよ」






 オレは素直な気持ちを柊華姉ちゃんに言った。






 「要くん…………」






 柊華姉ちゃんがボロボロと涙を流す。きっと、その涙には様々な感情が混ざっているに違いなかった。






 「お姉ちゃん。泣いたら要ちゃんが気にしちゃうよ」






 「…………椿ちゃんもごめんね…………本当にごめんなさい…………」






 「もうそれは気にしてないって言ったのに。いいんだよ。私はお姉ちゃんが大好きだもん。だから謝らないで」






 「うん…………うん…………」






 椿は泣いている柊華姉ちゃんを抱きしめる。頭を撫でる姿は慈しみに溢れており、それはこれからも識那珂柊華は識那珂椿の姉であって欲しいという願いと関係だった。






 「あ、須部原君に言い忘れていたわ」






 霧灘が小声でオレの耳元で囁いた。






 「私と荒灰は識那珂姉妹の保険よ。椿さんは当然として、柊華さんも元ノヴァラージュでその存在は希少だから。これからも狙われないとは限らないの」






 霧灘と荒灰のおっさんが来た時に察してはいたが、伊吹の言っていた事はコレだったようだ。






 「これからは私達も須部原君に協力するわ。もう占い部には入部したから」






 「え? お前、占い部に入るの?」






 「ええ。私は須部原君の負担軽減のために来たのだもの。生徒だから校内も気兼ねなくうろつけるわ」






 「外からライフルのスコープとか覗いたりするのが、お前の仕事だと思ってた」






 「それは荒灰の役目。二十四時間フルタイム勤務よ」






 「摩利支天ってブラックなんだな…………」






 こんな形で部員が増えるとは思わなかった。柊華姉ちゃんも占い部だし、椿とオレだけだった占い部は懐かしい思い出になってしまったようだ。






 「あと、須部原君の退院は三十分後よ。退院後、占い部の親睦会を開くようにと、朝菱少佐…………じゃなく、朝菱先生から頼まれてる」






 「は? 三十分?」






 あまりにも突然な数字が出現した。






 「なので、さっさと退院準備して。私達は外で待つから」






 そう言って、霧灘は他三人を連れてドアから出ようとする。誰も慌てた様子がないのを見るに、オレの退院の事は知っていたようだ。




 誰もいなくなった病室で、オレはせっせと着替えを済ませる。元々何の荷物も無い部屋だったので、出て行く準備はすぐに終わった。




 オレが病室を出た時、四人がドア向こうで待ってくれていた。






 「行こ、要ちゃん」






 椿が「早く」とばかりにオレの前にやってくる。




 その純真無垢な椿の顔を見て、オレは改めて己の誓いを引き締める。






 「ああ」






 オレはこれからも椿を護衛する。柊華姉ちゃんも護衛する。




 あらゆる運命に負けない意思を持って。




 守りたい者全てを護衛するのがオレの生き方だ。

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荒ぶる青天は機械模様の心と知れ 三浦サイラス @sairasu999

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