私の小宇宙

しま さんこ

私の小宇宙

嘘つきが嘘をつく音と、夕焼けの瀟洒な腰つきは似ている。幾万と重なる、薄い赤。私という重力点は、睫毛の先で揺れる陽気をいじらしく見つめ、ただ諒恕するしかなかった。私は、あの時、たしかに、ヴィヴァルディの調べを空想した。

愛を感じた。暖かかったからではない。

他者と永久に隔てられた言の葉から、行方も知らぬまま無聊を託つ灯火から、燭光が、漏れる、漏れる。歪な心を聳やかす。震える。恐懼に塗れる。そして、没。

しかのみならず、普遍から切り離された〇〇だけは、連理の枝を咥えている。

ここにいる。

手のひらで羽を休めるつばめがいる。

地中深くに根を張ったクヌギがある。

第一宇宙速度に達した瓦落多がある。


詮ずれば愛。


ただ、歩く。


ここにいる。

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私の小宇宙 しま さんこ @coraldragon

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