Mission-21 燕と使命


 滑らかな機体の表面に掌を当てると、生命体の存在そのものを拒むような、冷ややかな質感が右手を伝っていった。

 先代と同じように面白みの欠片も無い塗装を施された外板は、塗料の匂いが漂って来るかと思うほど新品同然で傷一つない。目の前の角ばった形状のエアインテークの奥では、原型機の艦上戦闘機化に伴い開発された高出力エンジンが2発並んでいる筈だ。ただ、異物吸入防止用の格子を下ろしている様は、新しい主の荒っぽい慣らし運転に閉口している様にも見えた。

 数歩離れ、今一度機体全体を眺めてみる。

 白色のレドームからキャノピーの前縁にかけては、暗色の塗装が鼻梁の様に施されているが、それ以外は極めてシンプルなグレー系統の2色迷彩に包まれていた。個人的に、このような東側の機体はブルー系の明るい3色迷彩を施されていると言ったイメージがあるため、微かに違和感の様なものを覚えてしまう。ピンと伸びた尾翼には最早見慣れたアイコンに成りつつある赤い鴉のエンブレムが、照明の光を鈍く反射していた。

 高翼配置とされたクリップドデルタに分類される主翼に垂直双尾翼、2発の強力なアフターバーナー付きのターボファンエンジン。特徴を並べてみると、西側のF-15が真っ先に頭に思い浮かんでくるが、機体の性格は何方かと言えばF-16に近しいと言える。

 鋭く伸びた機首から続く機体全体のラインは、大気による洗練を物語るかのように流麗なシルエットを持ち、その様は何処か生物的ですらあった。一部ではЛасточкаラースタチュカ――燕と呼ばれるのも素直に頷けると言うモノだ。

 ただ、その身に秘めた戦闘能力は隼どころか荒鷲ですら侮ることは許されないだろう。

 4重のデジタル・フライ・バイ・ワイヤ、広角HUD、多機能大型ディスプレイによる完全なグラスコクピット化。最新の赤外線捜索追尾システムは対面状態でも35㎞先の目標を捕捉し、レーダーシステムも120㎞先の10目標を同時に探知、4目標を追尾可能。原型機を艦載機化する際に必要とされた推力を得る為に開発されたRD-33MKは、Mig-21-93が備えるR-25-300より5パーセントほど軽く小さいが、アフターバーナー時の出力は1.3倍近く、同エンジンの緊急CSRモード時と比較しても8割近い推力を得ることが出来る。

 機関砲も口径23㎜のGsh-23から30㎜砲弾を使用するのGsh-30-1へ大口径化、近代化したミサイルにも対応し、何よりペイロードは重量ベースで4倍を優に超える。開発元がより第5世代に近づいた第4++世代戦闘機だと豪語するだけの事はあった。

 とはいえ、個人的な趣味を言わせてもらえるのならば――


「やっぱり、なんか華奢だな」

「そんなとこで何やってるんだ? ノルン」


「何でもない」真新しいMig-29M2の前席から怪訝な顔でこちらを見ているレーヴァンに、手を振ってごまかして見せる。一つため息を吐いて再び歩み寄ると、機首部分左舷側に横付けされているラダーへと足をかけ、コクピット付近までよじ登った。

 中を覗き込めば、Mig-21のコンソールとは似ても似つかない光景が目に飛び込んで来る。無数の目玉の様に並んでいた計器類の代わりに鎮座するのは、細かい文字の羅列に埋め尽くされている大型のディスプレイが4つ。流れていく文章の幾らかを読み取ると、どうやらゴーレムを利用した自己診断中らしい事が解った。

 狭苦しいコクピットに収まったレーヴァンは、機体に繋がれたキーボードを叩きながらディスプレイ上の表示に再び視線を落としている。キーボードが下敷きにしているのは、一目見ただけでウンザリしてくる分厚い説明書の束だった。


「まだセピアに行ってないと聞いて様子を見に来たら、案の定だ。割と新しい物好きなところでもあるのか?」

「新しい玩具が手に入ったら、自分の気が済むまで弄繰り回さないと気が済まなくてな。買ったプラモを積むのは趣味じゃない」


「それは同感だが――」言葉を続けようとするが、それよりも早く自分の真正面。つまりは、機体の右舷側からいつの間にか身を乗り出していた少女が口を開く――わざわざ別のラダーを引きずって来たらしい。


「ちなみにさっきのを意訳すると”もっと私に構え、甘やかせ、甘えさせろ、今すぐ、ナウ!”ってなるのは知ってるかな鴉殿? ノルン検定3級の問題だがね」

「それは知らなかった、後で参考書を見せてもらって良いか?」

「ハッ倒すぞ貴様ら」


 いきなり湧いて出たかと思えばトンチキ極まりない台詞をのたまうミネルヴァと、何を血迷ったのか悪乗りを選んだレーヴァンに頭が痛くなってきた。この性悪との正しい付き合い方を教え込んできたはずだが、最近では妙な方向に順応し始めているような気がしてならない。

 大体なんだ、ノルン検定って。私の頭の中を探る能力なんぞ格付けされてたまるか。


「冗談だよ、冗談。冗談だから振りかぶったその端末を降ろしてくれないかい? 投げたら投げたで高くと思うよ?」

「チッ――で、何の用だ貴様。推力偏向ノズルでも売りに来たのか?」

「是非とも売り込みたいところだけど、あいにく在庫が無くてね。まあ、ちょっとしたアフターサービス? だよ。【商会】もこの取引には注目しているし、様子を見に来たのさ」


 そう言ってぐいと小柄な体をコクピットへ乗り出し、ディスプレイを覗き込んだ。赤金の長髪がさらりと流れ、キーボードとその上に乗せられたレーヴァンの手を撫でる。


「特に、この機体に搭載されたゴーレムは、単に高性能なマシンってわけじゃあない。今でも全自動で回送飛行をこなせるほどの性能を持つが、鴉殿の飛び方を学習することでより洗練されていく。ゆくゆくは、完全自律行動で様々な任務に対応可能になる可能性を秘めているのさ」

「にしては、随分と古臭いクラシックな風体じゃないか?」


 上目使いで得意げに大風呂敷を広げて見せるミネルヴァに、ノルンは何処か値踏みするような問いを投げ、レーヴァンの直ぐ後ろの機材へ胡乱うろんな視線を移した。

 Mig-29M2は複座戦闘攻撃機に分類される機体であり、それ故に本来であれば前後に長いキャノピーの内側には前席と後席、2人分の座席が配置されている。とはいえ、人を乗せることで分け前が減ることを嫌うヴァルチャーの世界では、後席を雇うよりも捜索・火器管制補助を行う自動人形ゴーレムを乗せるのが一般的だった。

 現に、Mig-29M2の対面で整備を受けているズメイ隊は、複座機であるF-4Eの後席にゴーレムを乗せて運用している。

 ただゴーレムとは言うものの、戦いに赴く大昔の騎士達が従者の如く引き連れていた、単純な命令を遂行する騎士甲冑とは全く異なる代物だった。

 例えば、今まさに整備の為に台車に乗せられて運ばれていくズメイ4のゴーレムは、大ざっぱに言ってしまえば箱の上に丸いが突き出した機材と表現出来る。

 この時代の戦闘機搭乗員ファイター・ウィザード達に広く愛用されるオーソドックスなスタイルのゴーレムであり、射出座席を取り外した跡地にそのままスッポリと収まるサイズと形状で、自動人形と言うよりは後付けの観測機材と表現する方が妥当だろう。

 人形らしい部分と言えば、機材の最上部に取り付けられた外界の様子を捉える光学観測ユニット程度だ。それは丁度ヘルメットを被った人の頭程度の大きさを持つ球状で、大小のレンズが無数に配置されているせいか旧式のプラネタリウムにも見える。とはいえ、基本的には機体に備えられた各種捜索装置群がゴーレムにとっての目と耳であり、コクピットからの限定的な視界はそれらを補助する以上の役割を持っていなかった。

 ただし、これらは現在一般的なゴーレムについての説明であり、グラム1となる予定のMig-29M2に据えられたゴーレムはいささか事情が異なる。

 大きく跳ね上げられたキャノピーの元に有るのは、斬首されたプラネタリウムではなく、後席を覆い隠す暗色の外殻。前席の直後から、エビの甲羅や蒲鉾カマボコの様な流線型が続いており、表面には小型のカメラが十数個収まって鈍い光を放っていた。

 外殻は下りたキャノピーの内側とぴったり密着するサイズになっている。事情をよく知らぬものが見れば、キャノピーを降ろしたこの機体は、ファストバック式の単座機の様に見えてしまうことだろう。

 外殻の内部には通常通りの後席とコンソールが収められ、もちろん搭乗する事も出来る。その際、殻の内側は表面のカメラがとらえた情報に各種捜索機器や、友軍機の情報を総合して表示する多機能半球ディスプレイとして機能した。

 ズメイ隊のF-4Eの様に、後席そのものを取り換えるゴーレムはスタンドアロン・タイプ。この機体の様に、後席へ搭乗者を乗せる機能を残したゴーレムはコフィン・タイプと呼ばれていた。


「見かけは古いが、性能は折り紙付きさ」


 魔女の評価に「心外だね」と言わんばかりに、身を起こしたミネルヴァが口を尖らせる。


「確かに、コフィン・タイプのゴーレムは廃れつつある、それは事実だ。デカい外殻コフィンは前席の後方視界を悪化させるし、コフィン内部に投影される映像は正確で拡張性に富むが、常にコンマ数秒遅れる。なにより、後付けの手間が酷く面倒で、慎重にやらないと重量バランスを悪化させるし、機内容積も余計に喰う。スタンドアロンに取って代わられるのも無理はない」


 赤金の少女が言う様に、コフィン・タイプのゴーレムは既に斜陽の時を迎えている。

 そもそもコフィン・タイプは比較的余裕のある大国の正規軍が開発し、導入を計ったゴーレムの形式だった。

 後席に取り付けられたコフィンの中にフライトオフィサが収まることで、ゴーレムが処理した各種の情報を利用し、情報的な優位を確立する。最終的には単座複座を問わず全ての作戦機にコフィン・タイプのゴーレムを導入し、機体群をネットワーク化することで、作戦行動における柔軟性を飛躍的に高める計画となっていた。

 しかし、コフィン・タイプは外界の情報を外殻内表面に投影する際に、処理と表示に僅かなラグが発生する根本的な弱点を解消する事が出来なかった。

 一瞬で攻守が入れ替わり、刹那の内に生死が分かれる空戦において、コフィン・タイプのゴーレムの中で戦うと言うのは常に相手に先手を取られることを意味する。

 更に後席へのフライトオフィサの搭乗を前提として作られたコフィン・タイプは、機内容積の幾らかを機材の搭載に割く必要があり、タダでさえ限られた容積を余計に圧迫する元凶となってしまう。

 一方、スタンドアロン・タイプは、簡易的で値段も安く必要十分な性能を備えていたために、登場当初からヴァルチャー達の間で急速に広がっていった。特別な改造を施さなくても後席を付け替えるだけで運用できると言うのは、面倒事を嫌い、何事もシンプルに(そして可能な限り安く)済ませようとするヴァルチャー達の性質に合致していたのだった。

 ただ、そういった性質はヴァルチャーだけでなく正規軍の中にも確かに存在しており、スタンドアロン・タイプの性能が向上するにつれて表出していくことになる。最も高価な部品――人間ウィザードを代替できるという誘惑に抗える軍隊は稀な存在だ。

 その結果、登場当初は人とマシンの融合ともてはやされていたコフィン・タイプは見限られつつあり、今となっては超大国の正規軍ですらスタンドアロン・タイプのゴーレムに一本化し始めているのだった。


「だが、ゴーレムの性能を決めるのは器じゃない、メインプロセッサたるゴーレムコアだ」


 しかしミネルヴァは、常連客に掘り出し物の存在を耳打ちするかのような笑みを浮かべ、機首の直ぐ傍から見れば案外広々と感じる機体の背部へ形の良い顎をしゃくった。


「航続距離を少々妥協して組み込んだゴーレムコアは、さっきも言ったようにちょいと特殊だ。他所で叩き売られてるゴーレムとは格が違う。その内、自我すら芽生えてくるだろうさ」

「ゴーレムに自我だと?」

「おや、君は否定派かな?ノルン」


「バカにするな」不機嫌そうに鼻を鳴らしたノルンの群青には、明らかな警戒が浮かび上がっていた。


「ゴーレムに自我らしい反応が確認されたと主張する例は幾らか知っているし、その中の幾つかは真実だろう。だが、そう言った反応を示したゴーレムが碌に動作し続けた試しも無いだろうが。どの事例を見ても、一月もすれば精神分裂症か、統合失調症か、双極性障害かに似た症状が出て使い物にならなくなってる。戦闘中に毎秒自己再定義を始めて、フライトコンピューターまで誤作動させた挙句に墜落したって話もあるほどだ――妙に安く売りつけたのはそれが理由か?」


 レンズの奥の瞳が、その色を湛える空間と同じような温度にまで下がっていく。露になっていた警戒に、敵意と殺意が混じり始めていた。

 しかし、冷やかそうと近寄って来たズメイ5が余波で回れ右をしてしまうほどのノルンの剣呑な雰囲気を前にしても、ミネルヴァはエアコンの冷風でも浴びているかのように涼やかな表情を崩さない。「投資だと言ったはずだよ、ノルン」品の良いループタイの先端をいじりながら、ニコリと笑って見せた。


「確かにそのような症状が出て、戦闘中にゴーレムが”狂う”可能性は未だに残っている。だが、そうなったときの為の安全装置は何種類も用意してあるから問題無い。鴉殿が下手を打たない限りはね」

「結局は僕か――まあ、確かに発狂したゴーレムを止める手段はやたら豊富だが」


 異なる感情が込められた2種類の視線を受けたレーヴァンはパラパラとマニュアルをめくり、目当ての項目へ今一度ザっと目を通す。

 紙面の上には単純な再起動の方法から緊急停止、強制停止、電力・魔力供給路カット、物騒なモノとしては物理的な破壊手順まで並んでいる。当然の様にこれらはゴーレムからは完全に独立した機構となっており、前席からしか操作できなくなっていた。

 仮にゴーレムがこれらの手順に対抗しようとした場合、手でも生やして前席のスイッチ類を直接触るぐらいしか方法がない。

 しかし、同じようにマニュアルを覗き込んでいたノルンの顔には、安堵の色は欠片も無かった。いつの間にか至近距離にまで迫っていた群青が、警告するかのように細く引き絞られる。


「おいレーヴァン、まさかとは思うが安全装置さえあれば大丈夫だとか思ってるんじゃないだろうな?」

「無いよりはマシだろう。それに高性能なゴーレムが有れば仕事はしやすくなるし、そもそもコイツが自我を持つ保証はどこにもない。最悪の場合でも、ベイルアウトしてしまえば済むことだ――もちろん、その場合の保証は有るな?ミネルヴァ」


「ゴーレムの不調が原因であれば」獲物の座敷に上がりこんだ女衒ぜげんの様な表情を浮かべたまま、ミネルヴァが頷いた。


「機体に搭載されたゴーレムに関しては【商会】がグラム隊に協力、いや依頼を出しているに等しいからね。今だからぶっちゃけるけど、機体の割引分の内、幾らかはテスト・ウィザードとしての俸給分が含まれているのさ」


「たはは」とワザとらしく笑うミネルヴァに、レーヴァンは呆れた様に軽く息を吐いた。


「どうせそんなことだろうと思ったよ。じゃあ割引分を稼いだら、それ以後は報酬が出るのか?」

「もちろん。ああでも、割引分を稼ぐ前に落ちたら、差額と損失分はしっかり徴収するけどね。だから可能な限り落ちてくれるなよ、この機体とゴーレムにはそれなり以上に期待がかかっているのだから」

「努力はする。くれぐれも、仕事の邪魔だけはさせないようにしてくれ」

「勿論努力しよう。そのために、態々ラボまで運んできたんだし」


 ミネルヴァが親指で示した背後、レーヴァンのMig-29M2の隣に鎮座していたのは黒色の大型コンテナだった。

 外見は船舶輸送に用いられている40フィートコンテナであり、それが二つ横に並んで連結されている。側面に空いた穴からは太いコードが伸びており、一本は床に空いた穴へ、もう一本はMig-29M2の腹へと繋がっていた。

 Mig-29M2の搬入と同時に、隣の駐機スペースを潰して設置された設備であり、ミネルヴァは「ゴーレムの調整設備。まあ、揺り籠の様なものさ」と説明している。

 側面に白い文字で【B.B.】と描かれたコンテナの出入り口は完全に溶接されていて、中を伺う事は出来ない。だが少なくとも、中身を見た人間が無事に朝日を見ることが出来る類の設備ではないだろうと、【商会彼女】の所業をいくらか把握しているノルンは結論付けていた。

 自身の精神安定上、彼女としてはこの怪しいと言う概念を捏ね上げて作った設備を即刻空中投棄してしまいたいのが本音だった。しかし、外ならぬ隊長兼機長バカガラスがその存在を許容してしまった為、苦々しい視線と懐疑に満ちた愚痴を投げる他無くなっている。

 同時にこのレーヴァンと言う青年は、空を飛ぶ事以外については少々鷹揚おうように――有体に言ってしまえば大雑把に――過ぎる面があることを確信し始めていた。


「その揺り籠がどれだけ信用できるのか、解ったモノじゃない」

「おいおい、信用は商売の大前提だよ。そもそも、私が君の鴉殿に罠をかけたところで、1ターレにもなりやしないじゃないか」

「貴様に信用を置いた事は今までなかったはずだが?」

「酷い!私とは遊びだったと言うのかい!?」

「言い方ぁっ!?」


 コクピットを挟んで女性陣が何時ものじゃれ合いを始めたあたりで、レーヴァンは意識を再び機体に集中させる。こちらに飛び火しないうちに適当な所で離脱する重要性は、【エントランス】に来た最初の日に学んだことの一つだった。

 ノルンとミネルヴァの言い争いをBGMに、ディスプレイ上を流れる無数の文字列を注視しながら自分なりにこの機体への評価を固めていく。

 機体は大柄になったモノの、総合的な機動性は比較にならず兵装システム周りも不満を述べるところがない。単純なペイロードも増加した結果、地上への攻撃任務も無理なく行えるだろう。30㎜機関砲になったのも悪くない、搭載弾数は少なくなり牽制目的で気軽に使えなくなるが、個人的にこちらの方が好みだ。

 これならば、黒雀が相手でも互角以上に戦えるはずだろう。

 ミネルヴァの言っていたゴーレムの自我については、特にそれらしい動きは無く、終始高性能なマシンとして振る舞っている。

 唯一例外として挙げられそうなものは、初飛行に向かうタキシング中に、突然ディスプレイに浮かび上がった不確かファジー極まりない問いかけ。


 ――本機の使命を入力せよ


 一応ノルンに質問の内容と共に確認を取ってみるが、帰ってきたのは「適当に入力しておけ」と言う予想通りの解答だった。音声入力を起動したところ一時的に外界との通信が遮断されたため、ノルンを含めた他の全ての存在に聞かせるべき内容ではないとゴーレムが判断したのは確からしいが、それ以上の事は解らない。

 この質問にどのような意味があるのか、その答えが出るとしても当分先の事だろう。もっとも答えが出ようが出まいが、空を飛ぶ以上、自分の身は自分で守る事に変わりはない。

 そう考えると、あの時自身が音声で入力した回答の内容は聊か不適当だったのではないのかと、今更な疑問が頭をもたげてくるのだった。


 耳障りなサイレンと共に召集が掛かったのは、そのすぐ後の事だった。

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