人工衛星
人類の長き戦争は収束した。
武器は花に変わり、軍用車両は廃棄され壁の建造物の一部と化した。
ただ、人々はひとつの問題を抱えていた。
そう、人工衛星である。
戦争が苛烈する度に各国は軍事用の人工衛星を打ち上げ、情報戦で如何に優位に立ち回るかを考えていた。その結果、もはや地球の周囲には数え切れない程無数の衛星が漂っている。
宇宙から見た地球は、今や青い星などと呼べるものではなく、巨大な鉄の塊になっている。
このままでは、奇跡の星とまで呼ばれた地球はただの粗大ゴミだ。
どうすればこの無用の長物たちを片付けられるのか。
彼らは考えに考え、ひとつの閃を得た。
人工衛星同士を戦わせれば良い。
その答えは長きに渡り、戦いを繰り広げてきた人類ならではの解決策だった。
サテライトバトル。
誰が言ったか知らないが、何時からかこの戦いは人々にそう呼ばれる様になった。
宇宙に漂う人工衛星から選りすぐりを見つけ、特性のヘッドガジェットをつけ脳波で操作する。
肉体の関与がほぼ無に等しいため、誰でも、どんな年齢でも参加出来るというカジュアルな戦争は瞬く間に広がった。
その結果、サテライトバトル人口は爆増し、各国も大会を開き始める。相手の人工衛星を倒せば、富と名声が手に入る。
時代が進めど、この様式美は変わらないのだ。
そして今日も1人、日本のサテライトバトラーがその頭にガジェットを装備し戦いに身を投じていた。
「行くぜ!俺のサテライト、【チエリブロッサム】!!マンカイビィィィィィム!!」
「そ、そんな!俺のアバタク二型が……!?ぐぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
少年の名は
小学5年生のサテライターだ。彼の実力はサテライトバトル世界大会に出場してから、多くのサテライターたちに知れ渡っていた。
「へへーん!大人を凌駕するスピードサテライター、『満開桜吹雪のカツキ』とは俺のことだぜ!!」
「み、見事なり……だが、俺はダークサテライター四天王でも最弱……!お前に他の四天王が倒せるかな?」
「倒すさ!サテライトバトルは皆の物!全ての人工衛星を手にしようとするダークサテライターは俺が倒す!!」
カツキは今、ダークサテライターなる闇の組織と戦っている。
ダークサテライターは人工衛星の全てを手中に納めようとする悪しき軍団だ。
カツキはそんな闇の組織と真っ向からサテライトバトルを繰り広げる日々を送っていた。
「ダークサテライター四天王ジャッキー……手強い相手だったぜ。だけど、1度サテライトバトルをした奴は友達だ!
ジャッキー、また今度もサテライトバトルしようぜ!!」
「ふっ……この世界にはお前の様な光のサテライターが必要なのかもな。
敗者は勝者に従うのみ……。約束通り、次は負けない――」
突如、ダークサテライタージャッキーの身体に黒い稲妻が直撃した。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ジャッキー!?」
「か、カツキ来るなっ!これは……これはっ!!ダークサテライター頭首、ゴウマ様の力だ!!
カツキ、ゴウマ様が来るっ!!早く逃げろ!」
「そんな……ジャッキーを見捨てるなんて出来ない!!」
「そう言って貰えて嬉しい……ぜ」
大きな爆発音が鳴り響き、ジャッキーの身体は宙へ弾け飛んだ。
彼のいた場所には仮面をつけた漆黒のローブを身に纏う男が立っていた。
「この私を裏切るとは愚かなり。そして初めまして、大隅カツキ」
「お、お前はゴウマッ!!」
ダークサテライター頭首ゴウマ。
サテライトバトル世界大会の決勝の最中、その姿を現した邪悪なるサテライター。
彼は一瞬の間に各国サテライターを打ちのめし、半数の人工衛星を手にしたのだ。
国同士は力を合わせ、打倒ゴウマを目標に日々力を磨き上げている。
カツキもまたゴウマを倒すためにその技術を磨いてきた。
だが、早すぎる。こんなにも早くゴウマと退治することになるとは。
カツキは身震いする。
「ゴウマ!!お前のやったことは許されないぞ!!」
「ふっ。君たち光のサテライターは何も分かっていない。サテライトバトルの先にある物がどういうことかを」
「なんだとっ!?」
「そうだな。君が私に勝てたら教えてやろう」
「サテライトバトラーに言葉は無用、か……。いいぜ!ゴウマ!!俺のチエリブロッサムで倒してやる!!」
「フッ……!私の【チエルノブイリィ】に勝てるかな?」
2人の間に緊張が走る。数秒の沈黙の後、両者は声を揃えて口火を切った。
『――ビバ!サテライトバトル!!』
その声と共に、両者の人工衛星は激突した。
その衝撃は凄まじいもので、周囲50キロメートルにある人工衛星は軒並み鉄クズに早変わりする。
「満開の桜吹雪とはよく言ったもの。戦いに巻き込まれる人工衛星が砕け、飛び散る様はまさに春風にかどわされる桜そのもの!見事だ」
「褒めても手はゆるめねぇぜ!!行けっ!チエリブロッサム!!」
ゴウマの賞賛などカツキの耳には入らない。
彼の目に宿る炎は怒りの炎。ゴウマに倒された数多のサテライターの意志が宿る瞳は熱く煌めいていた。
「たが、我がチエルノブイリィに正面から挑むなど愚の骨頂。ダークネスジャミングッ!!」
ゴウマの声と共に彼の人工衛星は闇の波動を放った。
その波動に晒されたカツキの人工衛星は、動きを止める。
「まさかその技は……!違法人工衛星の使用は禁止されているはずだ!」
「ダークサテライターに道理が通じるとでも?これだから君は子供なのだ」
「サテライターの風上にも置けないヤツめ!」
カツキの怒りとは裏腹にゴウマは一方的な攻撃を浴びせ続ける。
カツキの人工衛星は見る影も無いほど、ボロボロになってしまった。
「ぐっ……卑怯者め!!」
「フフフフフ!ダークサテライターにも意地があるのだよ!鉄クズになるがいい!!大隅カツキィィィィィ!!」
もはやカツキに為す術は無かった。だが、死中に活を見出すのもまたカツキという男だったのだ。
「だったら……だったら!俺の最期のサテライトスキルを使わせて貰うぜ!!」
「なっ!?貴様!サテライトスキルを有しているだと!?」
「そうだ!俺のサテライトスキルは負けそうになればなるほどその力を発揮する!
一緒にランデブーと行こうぜ!ゴウマッ!!
サテライトスキル“
「こ、この感じは……!?まさか重力を!?」
「そうだ!全ての人工衛星を地球目掛けて落としてやるぜ!!」
「いや、まて!まって!!そんなことしたら地球が終わってしまうぞ!!」
「うるせぇぇぇぇぇ!!ダークサテライター頭首ゴウマに勝てるなら俺は手段を選ばないぞぉぉぉ!!」
そう、大隅カツキは小学生なのだ。
小学生に世界のことなど、地球のことなど、ましてや戦争によって滅びかけたことなど関係が無いのだ。
ゴウマの悲痛の声虚しく、地球は無数の人工衛星の追突により消滅した。
見方を変えれば、人類は戦争で滅んだのだ。
これが後に宇宙で密かに語られる禁忌の歴史、サテライトバトルの末路である。
リクエスト:大潮ルカ様
時間:59分
一言感想:1時間でホビーアニメと、爆発オチを書きたかった。
後悔はしていない。
【短編】四十五の1hour Write 415(アズマジュウゴ) @AzumaJugo
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