第80話 初めて転生に感謝したもかもしれん

 孤児院での最後の夜が明け、周りの音につられ目が覚める。

 昨夜は遅かったのでまだ眠いが既に起き出した子供たちの手前、二度寝も出来ないので仕方なく起きる事にする。



 あの後、オリビアさんとは“お話”をした。

 ・・・そう、“O・HA・NA・SHI”である・・・。


 特筆すべき展開も無い、ただただ普通のお話である。

 方や駆け出し冒険者10歳の小僧と、聖職者の20代女子・・・いきなり何か起こるとか、そんな全12話の駆け足ドラマティックな展開など、リアルではそうそう起きよう筈もない・・・転生しといてなんだけど・・・。

 でも最後の方はこの2ヶ月を取り戻すかのように、打ち解け合えた気がした。


 イヤン、ウフフなど爪の先ほども無くオワタけど・・・多分この間、爪切り過ぎて深爪になったせいだな・・・


 まあ・・・あれだ、期待しなかったと言えば嘘になるが・・・ヘ、ヘタレとかじゃねーし!そーゆう雰囲気を大事にするタイプだし!



 ただ思わぬ収穫もあった。聖職者にある貞潔、清貧、従順の誓願・・・いわゆる完徳は無いとの事だった。初めて来た時に『司祭様が〜』と言っていたので、勝手にカトリック系のそれと同じ感じかと思っていたが、どうやら違ったらしい・・・。


 どちらかと言えば聖教国のカズム教の方が、そういった戒律が緩そうなイメージだったが・・・なんせ私的財産を持たないどころか国持っちゃってるし・・・しかし、そういった完徳はカズム教、ティアプス教どちらも無いとの事だった。


 では一体何が違うのかといえば、いわゆるタカ派とハト派という流れからの分裂らしい。

 「主神ティアプス」は両者ともだが、それプラス「戦いの女神カズム」を祀るかどうかで違うらしい。


 戻って、


 つまり、この世界の聖職者は恋愛、結婚ともにOKで、即ちその先の・・・✖✖✖もOKという事になる・・・。この背徳感を合法的に享受できる日が来ようとは・・・初めて転生に感謝したもかもしれん・・・。



 かと言って、オリビアさん目当てにこのままこの町に定住するかと聞かれたら、それも困るのが実際のとこ。

 まだ慌てる時間じゃない、世界は広いのだ!

 自由を謳歌してからでも遅くはあるまい。




 子供たちとオリビアさんに見送られる。両者とも昨日の夕食時とは打って変わって、皆晴れ晴れとした表情に見える・・・ベル以外は・・・。




『マサル・・・いくの?』



『ああ、でも昨日も言ったけどこれが最後ってわけじゃないさ。まだ直ぐに旅立つわけじゃないし、この町に居る間はちょくちょく顔を出すから。』




 畑の作物が収穫が出来るまではまだ時間が掛かるし、それまでは見守るつもりでいた。

 ここまでして収穫まで持ちませんでしたでは流石に目覚めも悪いし、何より情が移り過ぎてしまっていた。これくらいはアフターサービスみたいなものだ・・・と思う・・・甘すぎかな?




『あした・・・くる?』



『あ、あしたっ!?・・・わかったよ。』




 俺の言葉に満足したのか、ベルもようやく笑顔になった。・・・やっぱり甘いな・・・。




 ・・・こんな様子で本当に旅立つことが出来るのか自分でも不安になってくるが、2ヶ月に渡る長かったクエストはこうして終わったのだった・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きなモノは最後に取っておくスタイル! はるおう @haruou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ