第24話 バレないように……

始業式から数日後──


文化祭まであと3日と迫る中、着々と準備が進められていた。


あれ以降、白川が柚愛に声をかけることはなかった。


文化祭の準備で他クラスとの交流もあまり無かった為、顔をあわせずに済んでいた。


「見てみて! 似合う?」


クラスの中でも派手目な子が文化祭で着る衣装に身を包み教室で披露していた。


「わー! 萌(モエ)可愛い!」


「ほんと? ありがとう!」


萌と呼ばれる彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「せんせっ! 見てぇ似合う?」


萌は神林を呼び止めると小首を傾げ、上目遣いで問いかけた。


「(うわぁ……あからさまに首傾げて上目遣いで質問するの初めて見た。萌ちゃんって遥也さんのこと好きなのかな……?)」


外装の準備をしていた柚愛。


話し声が聞こえ、後ろの席の廊下側から萌と神林の様子を盗み見ていた。


「ん? お、文化祭で着るやつか! いいじゃないか!女子はこれで男子は何着るんだ?」

「男子も女子と一緒で浴衣だよ! 先生も着るんだから準備しておいてよね」

「俺はいいよ」

「着るの! 先生絶対浴衣似合う! 萌、先生の浴衣見たいから絶対着てね」


萌は神林の腕を掴むとブンブンと振り回す。


「(遥也さんの腕掴まないでよ。笑ってるけどあれは苦笑いだよ。あたしの遥也さんに触らないでよ……そんなこと言えないけど、やっぱり嫌だな)」


萌の行動に苛立ちを感じながらも口に出せない柚愛。


萌は派手目な見た目だが顔立ちがハッキリしていて大人ぽい印象を与える。


「(あたしより、ああゆう子の方が男の人はいいのかな? あたしはあんなに可愛くもないし、子供ぽいしな……)」


そんな萌と自分とを比べ不安そうな顔をし俯く柚愛。


「学校の見回りもしないとだし、動きずらいからな。……まあ、甚平なら着れなくもないけど……」


そう答える神林の口調は歯切れが悪かった。


「男子は浴衣でも甚平でもOKだから、甚平で決まりね」

「あ、ああ」

「やったー! みんな聞いてー! 文化祭で先生が甚平着てくれるってー!」


萌の言葉に女子生徒からは黄色い声が上がった。


「(うわぁ……今まで気づかなったけど、遥也さんって女子に人気だったんだな。……付き合ってるのバレたらヤバそうだな……)」


絶対にバレないようにしようと柚愛は心に誓ったのだった。


──この時は、まさかあんなことになるとは思いもよらなかっただろう。


***


「失礼します」


昼休み、お昼を食べ終えた柚愛は数学準備室のドアを開け、中へ入った。


「ん? 柚愛か、どうした?」


ドアが開くなり、振り向いた遥也。


柚愛の顔を見た途端、優しそうな顔をした。


柚愛はそれが嬉しくてたまらなかった。


「ううん。なんでもない。ただ、顔が見たくなっただけ」


柚愛は遥也が座る椅子まで歩み寄る。


「そうか。まあ、毎日会えてるけど、そう言ってもらえるのは嬉しいもんだな」

「嬉しい?」


不安そうに問いかける柚愛。


「ああ。どうした? なんか最近……始業式の後ぐらいから元気ないみたいだけど大丈夫か?」


ここ数日の柚愛の様子を思い出した遥也は心配そうな面持ちだった。


「あのね……あ、やっぱりなんでもない。大丈夫だよ……」

「(やっぱり言えないよ……他の人に、キス……されたなんて……)」


あれから連絡を取り合うことはあったが、なかなか会ってゆっくり話す機会がなかった。


そのため、未だに柚愛はあのことを遥也に言えないでいた。


「ほんとに大丈夫なのか? 俺には言えないこと?[l]」


「……っ。言えなくは……ない。けど……」


遥也に下から覗き込まれ、思わず息を呑む柚愛。


「わかった。言いたくないから言わなくていい。ただ、これだけは覚えておいて。俺は何を聞いても柚愛のことは嫌いにならないから。な?」


遥也はそう言うと腕を伸ばし、柚愛の頭に手を添えた。


「遥也さん……ありがとう」

「そろそろ昼休み終わるから」

「うん、ばいばい」


結局何も言えずに昼休みを終えるチャイムが鳴り、柚愛は数学準備室を後にした。



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