第23話 涙の理由

「そ、それで……こ、怖かったぁ……」


そう口にした柚愛の瞳には今にも零れ落ちそうな涙が溜まっていた。



「怖かったの?」

「うん……。屋上の……扉、思いっきり殴ってて……。あ、あと……いなくなったと思ったら、戻ってきて……うっ……き、す……された」

「っ……柚愛、話してくれてありがとう。[l]辛かったね……」


穂花は膝立ちをすると少し前のめりになりながら、俯く柚愛の頭を優しく撫でた。


「(白川の奴、絶対に許さない。柚愛を傷つけて泣かせて……)」


穂花は柚愛の頭を撫でる手とは反対の拳をきつく握りしめた。


「ど、どうしよう……遥也さんに嫌われちゃう……」

「遥也さん?」

「……っ! あ……」


泣きすぎて思考が回らない柚愛。


穂花の言葉に自分が口に出していた事を知り、血の気が引くのがわかった。


「え、なんか、聞いちゃいけないことだった?」


柚愛の表情から聞いてはいけないことを聞いたと悟った穂花。


不安そうな顔で柚愛に問いかけた。


「あ、えっと……誰にも言わない?」

「うん、言わないよ」


穂花が秘密にしてくれると口にすると柚愛はひとつ息をつくと、ほっとしたようか顔を浮かべる。


「じ、実は遥也さん……神林先生と……つ、付き合ってて」

「……えっ!? 先生と? いつから? 全然わかんなかった!」


穂花は驚き開いた口が塞がらないでいた。


「……こ、この前の期末テスト前くらいから」

「そうだったんだ……おめでとう!」

「……先生と付き合ってるんだよ?なんとも思わないの?」


そう、口にする柚愛は言葉と裏腹に不安そうな顔を浮かべていた。


「なんで? 誰を好きになって付き合うかなんてその人の自由じゃん。だからなんとも思わないよ。それに柚愛は先生と付き合えて幸せなんでしょ?」

「穂花……ありがとう。うん、幸せだよ」


穂花の言葉に柚愛の瞳には薄らと光るものが見えた。


「なら良かった。まあ、柚愛が取られちゃったのは寂しいけどね。たまにはあたしとも遊んでよ」

「遊ぶ! 遊ぶに決まってるじゃん!」


今にもテーブルを乗り出しそうな勢いでそう口にする柚愛。


その顔にはすっかり笑顔が戻っていた。


「うん! 笑顔が戻ってよかった」

「穂花ありがとう」

「うん、あのさ……言いにくいとは思うけど今日のことちゃんと話した方がいいと思うよ。先生だって、後からなんかのきっかけで知るよりちゃんと柚愛から話した方がいいと思う」


突然、穂花が真剣な顔つきで口を開く。


「やっぱりそうだよね……うん、今度話してみる」

「それにしても白川ほんと最低……。告白して脅して、しかも……あたしから白川に言っとこか?」


柚愛は1番傷ついただろう言葉はあえて口にしなかった穂花。


柚愛には1秒でも早く忘れて欲しいと思う穂花なりの優しさだろうか。


「え、いいよ……白川くんの気持ちに答えられなかったのは事実だし。告白してくれた時、すごく緊張してたみたいなの……そりや、キ……スされたのはショックだったけど……」

「そっか。柚愛がいいならいいんだ。もし、またなんかされたら言って。その時はあたしが一発お見舞いしてあげるから! まあ、ないことが1番はだけどね」


穂花は"一発お見舞い"と言いながらビンタをするように右手を宙で仰がせた。


「ありがとう」


そう、礼を告げる柚愛の頬は綻んでいた。


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