第22話 最悪

白川が柚愛の肩を押し階段を降りて行った後、小さくなった足音が再び大きく聞こえてきた。


「あ、忘れ物。……人が親切にしてやったのに断った罰な」


白川はそう言うと去って行った。


「……っ、うっ……最悪。……ひどいよっ……。遥也さん……ごめんなさい……」


階段にはたくさんの粒が零れ落ちていた。

柚愛は流れた涙ではなく、仕切りに唇を拭っていた──


***




「……帰らな……きゃ」


──あれからどれくらい経っただろうか。


下校時刻となり校内放送で音楽が聞こえてきた。


柚愛は重い腰を上げ、階段を降りて行く。



「あれ? 柚愛? まだ帰ってなかったんだ」


階段を降りていると聞き覚えのある声が柚愛の耳に届いた。


顔を上げるとそこには──




「ほ、穂花ぁ……」

「うぉっ! どうした?」


穂花がいた。


涙で顔を歪めた柚愛は穂花の胸に顔を埋めた。


「……」

「よしよし。着替えて来るからちょっとだけ待ってて。……絶対だよっ!」

「……うん」


なにも反応がない柚愛の頭を数回ポンポンとした穂花は部活終わりの為、ジャージ姿だ。


穂花は、柚愛に階段の所で待ってるように念を押すとそのまま教室の中へ。


数分後、着替えを済ました穂花が柚愛の前に現れた。


「よし、行こっか」

「……」


柚愛はコクンと頷くと穂花の後に続いた。


「柚愛……時間大丈夫なら、家くる? 話したいことあるんだよね……?」

「……うん」


学校から穂花の家までの道のりは無言のまま。


穂花は心配そうな顔を浮かべ時より柚愛がちゃんと着いて来ているか確認をしていた。


「柚愛、着いたよ。飲み物持ってくるから先に部屋行ってて」


しばらくすると住宅街の中の一軒家の前にたどり着いた。


白とクリーム色の組み合わせが絶妙な外壁、リビングの窓からはキャットタワーのてっぺんで眠る猫が様子を伺っていた。


「うん……ありがと」


柚愛が階段を上るのを見届けると、穂花はリビングへ向かった。


「(柚愛が泣いてるの初めてみたな……。何があったんだろ? 柚愛を傷つけた奴がいるなら、あたしは絶対許さないけど……)」

「柚愛お待たせ」


麦茶の入ったコップを2つテーブルに乗せ、

穂花は柚愛が座るベッド側の対角線上に腰掛けた。


「柚愛、何かあった? 話したいことあったらなんでも聞くよ」

「……」


穂花が問いかけるも柚愛は俯いたまま喋ろうとしなかった。


「もし、話したくなかったらいいんだけど……。今日の放課後、柚愛どこにいたの? その時になんかあった?」


「……あ、あのね……」


穂花が優しく問いかければ、柚愛は一度大きく深呼吸をすると口を開いた。


「うん、ゆっくりでいいよ」

「……し、白川くんに……」

「うん」

「(白川? たしか、柚愛が足怪我した時によくしてもらったって言ってたような……)」


聞いた事のある名前。


穂花は柚愛が怪我していた時のことを思い出していた。



「ほ、放課後呼び出されて……屋上のとこ、それで……こ、告白されて……」

「……っ! うん」

「(告白されただけならこんなに怯えないし泣いたりしないよね。なんかあったのかな?)」


ゆっくりと口を開き始めた柚愛を穂花は心配そうに見つめていた。


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