第21話 ごめんなさい
「山科さん?」
「え?」
準備室を出て昇降口へ向かう途中、誰かに呼ばれた柚愛は足を止めた。
振り返った先にいたのは───
「あ、白川くん……」
「よかった会えて、本当は……明日言うつもりだったんだけどさ……」
白川は走って来たのか息が上がり額には汗が滲んでいた。
「うん。なに?」
「明日の放課後、屋上の扉の前に来てくれる? 話がある」
「あ、うん」
「じゃあ、約束だから」
白川はそう言うと足早に去って行った。
「(話……話ってなんだろ? ……もしかして準備室入るの見られてたかな? それとも出る時? ど、どうしよう)」
白川の"話がある"は、柚愛の中でどんどん嫌なことを想像させる。
***
──そして、放課後。
「柚愛、じゃあね!」
「ばいばい」
穂花に相談も出来ず約束の時間になってしまった。
柚愛は重い足取りで屋上へと向かう。
「あ……」
屋上のドアの前に向かうと既に白川の姿があった。
「来てくれてありがとな」
柚愛は階段の上から3段目あたりで足を止め、白川と向き合った。
「約束したからちゃんとくるよ?」
「あ、ありがとう。俺、俺さ……」
俯き歯切れが悪そうに喋る白川。
その耳は真っ赤に染まっていた。
「うん」
「あ、足ってもう大丈夫?」
「う、うん。お陰様で……ありがとう」
「(遥也さんと同じ行動ばかりするから恐怖しかなかったけど……。[l]話ってなんだろ? やっぱり準備室の見られてたのかな……)[l]」
不安そうな顔を浮かべる柚愛をよそに、
「よかった……。あまり話したこともない他クラスの俺がなんで手伝ったか知ってる?」
やや緊張気味に話す白川。
「……たまたま見かけたから?」
「見かけたぐらいじゃ手伝わない。ただ、話すきっかけが欲しかっただけ……」
「きっかけ?」
「うん、あまり話せなかったけど……。俺、山科さんのことが好きなんだ。付き合ってください」
白川はそう口にすると腰を曲げ頭を下げた。
まるで時が止まったかのように柚愛の耳には周りの音が入ってこない──
柚愛は驚き瞬きを数回繰り返す。
「え、あ……ご、ごめんなさい。今、付き合ってる人がいてお付き合いはでき、ないです……」
柚愛が話をしているとだんだんと白川の顔が険しくなっていく。
恐怖からか最後の方は白川に届いたかどうか分からないほどの小ささだった。
「……へえ。足怪我した時、優しくしてやったのに断るんだ。……ふざけんなよっ!」
白川は声を荒らげると屋上の扉を右手で思いっきり殴る。
鉄の扉は鈍い音共に若干凹んでいた。
「どけっ」
白川は柚愛の肩を自分の腕で押しそのまま階段を駆け下りていった。
「っ……!」
その反動でバランスを崩し前に倒れ込んだ。
後ろに倒れなかったのが不幸中の幸いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます