第20話 寂しかった

夏休みも終わり、再び学校が始まった。


「(夏休みはたまにしか会えなかったけど、学校行けば遥也さんに会える……幸せだな)」


柚愛は1人笑みを浮かべながら穂花との待ち合わせ場所へ向かった。


穂花の朝練がない日は2人で登校している。


「おはよう。朝から幸せそうだけど、なんかいいことあったの?」


先に到着していた穂花が柚愛に気づくと笑顔を見せた。


「おはよう! えっ! あたしそんなに顔に出てた?」


柚愛は、恥ずかしそうに両手で頬を押さえた。


その頬はほんのり赤く染まっていた。


「1人で笑ってたよ。で、何かあったの?」


歩きながら柚愛に詰め寄る穂花。


「え、っと……。秘密! 今度話すからもうちょっと待ってて」

「秘密か……。うん、話したくなったら言って。いくらでも聞いてあげるから」


一瞬寂しそうな顔をした穂花だが、すぐに笑みを浮かべた。


「穂花ありがとー! 大好き」


柚愛はそう言うと穂花に抱きついた。


「(ごめんね、穂花。いつか遥也さんのこと話すからその時はたくさん聞いてね)」

「ちょっと柚愛、歩きにくいって!」


柚愛を引き離そうとする穂花は満面の笑みを浮かべる。


教室へ入った柚愛はそわそわしていた。


夏休み中、遥也に会えたのは夏祭りが最後。


電話やメールはしていたが、会えるのは2週間ぶりだ。


「(遥也さんまだかな?)」


自分の席に座った柚愛は前の入口を愛おしそうに見つめていた。


しばらくするとドアが開いた。


「おはよー」


入口を見つめていた柚愛は教室に入ってきた遥也と目が合うと恥ずかしさからすぐに逸らした。


「(恥ずかしくて逸らしちゃったよ。今の感じ悪かったかな……?)」


俯く柚愛はこっそり遥也を盗み見た。


そして、遥也と再び目が合う。


すぐに目を逸らさないでいる柚愛に、遥也は笑みを浮かべた。


「……っ!」


柚愛の頬は真っ赤に染まった。


「先生、今なんで笑ったんですかー?」


突然笑みを浮かべた遥也に女子生徒が問いかけた。


「(遥也さん、今の見られてたじゃん。どうするの?)」

「笑ってたか?」

「自覚ないんですかー?」

「夏休み明けも全員登校してくれたから嬉しくてな」


遥也は再び笑みを浮かべた。


***


「し、失礼しま……す」


放課後、柚愛は恐る恐る数学準備室のドアを開けた。


「やっと来た。ん? どうした?」


机の上で作業していた遥也は一旦手を止め、振り返った。


「用も無いのに来たら怪しまれると思って……」


ドアを閉めた柚愛はそう答えた。


「なんか言われたら俺に呼ばれたって言えば大丈夫だから」

「じゃあそうするね」


安堵した柚愛は笑みを浮かべた。


「ああ。数学の件で山科さん呼び出したとか言えばなんとかなるよ」

「数学……。あたし、今度のテストも頑張るからね」

「ああ、期待してる。おいで、寂しかっただろ?」


イスに座る遥也は両手を広げた。


「え、でも……ここ学校だよ」


ほんのり頬を赤くした柚愛は辺りを見渡す。


「寂しかったのは俺だけか?」

「……っ! その言い方はずるいよ……。あたしも……寂しかった……」


頬を真っ赤に染めた柚愛は遥也の元へ駆け寄った。


「素直でよろしい」


遥也は柚愛の頭を撫でるとそのまま抱きしめた。


「なんかその言い方先生みたい」

「柚愛の彼氏でもあるけど、俺は先生だ」

「そうだね。遥也さん大好き」


柚愛は微笑み、遥也の背中に腕を回す。


「俺も……」


遥也は柚愛を引き離すと口付けを落とした。



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