第19話 お祭り

***


「遥也さん……お待たせ」

「柚愛、綺麗だ。似合ってる」


夏休みが残り1週間となった今日。


2人はとある駅で待ち合わせをした。


そこは学校から1時間ほど電車を乗り継いだ場所にあった。


「じゃあ行こっか」

「うん」


2人は手を繋ぎ歩き始めた。


柚愛は慣れない下駄で歩きにくそうに神林の後へ続く。


2人が来ているのは祭りだ。


柚愛はピンクの牡丹柄の浴衣に身を包み、神林は灰色に縞かすりの模様。


「あ、射的やってみたい」

「じゃあ俺もやってみるかな」


お金と引き換えに2人は射的銃を受け取り的に向かって構えた。


「おめでとうございます!」

「わぁっ! やったー! お菓子取れた!」


5回目にして柚愛はお菓子を倒すことが出来た。


「兄ちゃん凄いな。はい、持ってきな」

「ありがとうございます」


柚愛はふと隣に視線を向けると神林の手には沢山の景品があった。


「それ、全部今取ったの?」

「ああ。俺得意なんだよね」


神林は景品の入った袋を柚愛に見せた。


そして、2人はその場から歩き出した。


「え、何回やったの?」

「柚愛と同じ5回だよ」

「じゃあ、全部当たったってこと? 凄い!」

「だから得意って言ったろ? これ、全部あげるよ。この小さい置物柚愛好きだろ?」


神林はたくさん取った景品の中から可愛らしい猫の置物を手に取り柚愛に見せた。


「あ! 猫の置物だ! 可愛い……いいの?」

「ああ。柚愛の為に取ったんだから貰ってくれ」

「ありがとう」

「ああ。帰るまでは俺が持っとくから覚えててな」

「うん」


2人再び手を繋ぎ歩き出す。


「わたあめ食べたい」

「美味そうだな」


柚愛はおじさんにお金を支払うとわたあめを受け取ると歩きだした。


「美味しそう」


満面の笑みを浮かべた柚愛。


今にもヨダレが垂れてきそうだった。


「美味しい!」


一口食べると美味しさから頬に手を添える。


「一口頂戴」


左側に顔を向けると口を開けた神林がいた。


「はい、どうぞ」

「ん、美味い」


柚愛がわたあめを差し出すと神林は柚愛の手を握りわたあめにかぶりついた。


「……っ!」


思わず赤面する柚愛。


「そろそろ花火始まるな」

「あ、もう19時15分なんだね」


神林の言葉に柚愛は左手首に付いている腕時計に視線を移した。


「ああ。なんか、買ってくか」


神林と柚愛は屋台で焼きそばとたこ焼きを買った。


2人は人混みとは逆方向へ進んで行く。


「ねえ、遥也さんこっちであってるの?」

「ん? ああ。とっておきの場所があるんだ」


神林は柚愛の手を握ると微笑んだ。


しばらく歩くと右側に小さな丘が現れる。


階段を上るとそこは──


「うわぁ……凄い! 綺麗」


街が一望できた。


ベンチが設置されていた。


「ここは花火を遮るものがないから一望できるだ」

「凄い……楽しみ」

「さっ、食べるか」


2人は中央のベンチに腰掛け、花火が始まるまで屋台で買ったものを食べ始めた。


しばらくすると掠れた口笛のような音と共に夜空に花が開く。


大きな音をたてた花は一瞬で夜空に消えていく。


「綺麗……」


柚愛は目を細め笑みを浮かべた。


そんな柚愛を神林は見つめていた。


握った手を優しく親指で撫でる神林。


「ん? どうしたの?」


左に顔を向ける柚愛。


「こっち向いた」


そこには嬉しそうに微笑む神林の姿が柚愛の瞳に映った。


隣同士に座る2人。


必然的に顔は近くなる。


神林は柚愛の肩を抱くと自分の方にさらに引き寄せる。


そして、重なる唇。


2人が口付けを交わす中、夜空には沢山の花が咲く。


「柚愛、愛してる」

「あたしも……」


唇が離れると柚愛は恥ずかしそうに俯いた。



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