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 その後、彼女から撮影の誘いは来なくなった。クラスメイトなのだから、教室で顔を合わせるが、目的の写真を撮り終えたからか、モデルの僕に興味はなくなったらしく彼女から話しかけてくることはなかった。僕も撮影以外で彼女に話しかけるきっかけが見つからず、彼女の属するグループへの恐れも変わらずあったので声をかけられないでいた。


 ある日スマートフォンが彼女からのメッセージの受信を知らせた。

画面には「報告。写真が入賞したよ。ありがと」というメッセージとともにお辞儀をする可愛らしいウサギのキャラクターのスタンプ、ショッピングセンターの地図が添付されていた。


 僕は写真を確認するために出かけた。


 入賞とはいうものの、大賞ではないので、ショッピングセンターのイベントホールに何枚も飾られた中の一枚というだけだった。


 ピンクでファンシーな喫茶店には似合わない、暗い表情で俯いて座る男。食べかけで溶けているいちごパフェ。ピンぼけしたようにぼやけているので男は泣いているようにも見える。全体のアンバランスさが良いのだろうか。写真については、僕は何も興味がわかない。この写真と、大賞の写真を入れ替えても僕は気が付かないだろう。


 彼女はこういった景色を退廃的と呼び、好んでいるのだろうか。そう考えるが、よく分からなかった。


 モデルが自分なんだと思うと、少し誇らしかった。


 写真の男に問いかける。僕は本当に桂木さんが好きだったのか? 桂木さんの笑顔は可愛かった。教室では見たことの無い仕草にも見惚れてた。でもそれは、たまたま僕に興味を持ってくれた女子が桂木さんだっただけじゃないのか? 積極的に接してくれる女子であれば桂木さんじゃなくとも良かったんじゃないか?


 その問いかけに、写真の男は何も答えてくれない。当然か。早くパフェ食べろよ。溶けてなくなるぞ。


 自分の気持ちを確認するために、彼女に今会えないかとメッセージを送った。直接お祝いを言いたい気持ちもあった。


 あまり待たずに、彼女からの返信があった。


「今、カレシといるから無理」


 メッセージと共に口を手で覆って、イタズラな含み笑いをする可愛らしいクマのキャラクターのスタンプ。そのクマが勘違いしている僕を嘲り笑っているように見えた。


 彼女からの返信を見て僕は、一瞬何かが芽生えそうになった気がしたが、それ以上に「そりゃそうだな」と収まりが良く、何かに納得していた「無駄に告白せずに済んだ」とすら思っていた。


 こういった、別れにはもっと悔しさだとか、絶望だとかが押し寄せてくるものだと思っていたが、僕の中からはなんにも湧き上がってこない。無理やり湧き起こそうにも、なんにも思えない。風のない水面のようにスンと静まり返っていた。


 ――ああ、これが彼女の言う退廃的なんだな。


「さよなら、桂木さん」


 切なげに呟いてみたけれど、僕の目から涙があふれることは無かった。

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退廃くんとカメラ子ちゃん 師走 こなゆき @shiwasu_konayuki

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