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「もしかして、ここ数日であたしの魅力に気がついて、惚れちゃったとかあ?」


 彼女はふざけているのだろう。ニヤニヤといたずらっぽく笑っている。


 自分では意識していない部分が態度に出ていて、気が付かれたのかもしれないと身体が跳ねた。


「くくくっ……なあんてね。冗談だよ。なんにも求めていないキミだもん。そんなこと無いよねえ」


 彼女は声に出して笑った。僕は遅れて作り笑いを返すしか出来なかった。彼女の態度から僕は、意識すらされていないんだろうな。と思った。


 そもそも、彼女は僕を退廃的な雰囲気をまとうモデルとしか見ていない。仲良くなりたいなんて思っていないのだろう。それを僕は勝手に勘違いをして好きになったんじゃないか、付き合えるんじゃないかと勘違いをしたんだ。恥ずかしい。


 何も言えずに俯いた。頬が熱くなる。


 僕が退廃的だという意味は分かっていない。けれど、彼女の写真に違和感があるというのなら、今の僕は退廃的ではないのだろう。


 鎮めろ。沈めろ。思い上がるな。彼女は僕のことなんて写真の被写体としか見ていない。彼女が好んで撮っている閉店した店のシャッター、路地裏をさまよう野良猫、踏み潰された雑草と同じなんだ。


 不意に聞き慣れたトイカメラの撮影音が聞こえた。


 顔を上げた。


「シャッターチャーンスってね」


 彼女は満足そうにニンマリと笑った。


 僕は先程より歪んだ作り笑いを浮かべるしか出来なかった。

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