第3話 基礎魔力

 基礎魔力

「まずは、魔力を高めていきましょう」

 先生は先日と変わらず、穏やかに話す。私は何となく居心地が悪かったが、それでも魔法使いになりたいのだから、練習はしないといけない。

「ここに、7種類の果実があります。好きなものを取って」

 言われた通り、各々木箱に近づいていく。イチゴ、ブルーベリー、マスカット、と7色ある。私は自然にマスカットの粒を取った。

「完全には熟れていません。これに魔力を込めて、熟成させてください」

「はい!」

 元気よくダイヤモンドが手を上げる。

「魔法の集中って、どれくらいまで可能ですか?」

「倒れない程度でお願いします」

 そして、先生は私を見遣る。

「手に魔力を集中させて、そのマスカットの味をあげてください」

「……魔力って、どうやって集中させるんですか」

「風を呼ぶ口笛を吹く時、集中したでしょう?冷静に、息を整えて、手に熱を込めてください」

 言われた通り、マスカットに手をかざして、じっと念を送る。水晶玉みたいだな、とちょっと思う。

 風を呼ぶ時のように、真剣に集中させて「甘くなれ」と意識を向ける。ほんの少しずつだが、色がはっきりしてきた。甘い匂いと、蛍光色の黄緑に見える。

「自分でいいと思ったら、やめていいですからね」

 集中力が切れた。疲れがどっと襲ってくる。

「この修行のいい所は、自分で魔力がどれくらい入ったか、確認できるところです」


「時間魔法とは違うんですか?」

 ふとコハクが言う。先生は頷いた。

「熟れさせる、という点では一緒ですが、時間を進めて熟成させても、美味しいとは限りません。美味しくする、という目的で始めれば、自分の魔力量もわかり、かつ美味しいものが食べれる。さあ、口に入れて」

 みんなで同時に口に入れた。

「……すっぱ!!」

「えぐい」

「味がしない……」

 そして私も

「美味しくない」

「簡単に出来る訓練です。手が空いた時にでも、やってみて下さい」

「はい」

 ダイヤが椅子にもたれ掛かる。

「疲れたー。見た目は良かったのに」

「まだまだなんですね……」

「魔力補充しとこー」

 そう言って、ダイヤはカバンからミネラルウォーターを取りだした。

「私もやっておこうっと」

 コハクははちみつを取り出す。ガーネットは空を伺っていた。

「何?」

 ダイヤに強めに聞かれて、私は肩を揺らす。

「お前、威嚇すんなよ」

「だってこっちじっと見てるんだもん。興味あるなら来ればいいじゃん」

 そう言われて仲間に入る。

「よろしく」

「よろしくね」

 コハクが笑いかけた。私も微笑む。

「魔力補充って何?」

「消費した分の魔力を回復させるの。貰った宝石によって、自分の魔力の回復の仕方も違うんだけどね」

 コハクは瓶を開けて、ひとさじ分掬う。ダイヤはペットボトルを逆さにしていた。

「ペリドットさんは、どうやって補充するの?」

「わかんない……けど、外に出たいかも」

「俺、日光浴だから一緒行くか?」

 ガーネットが立ち上がったから、私もお供する。

「お前具体的に風って言ってるから、風に当たっときゃ補充できるだろ」

「ガーネットはなんで日光浴なの?」

「石が太陽を欲しがるんだ」

 きらりと紅く光った。

「赤いから」

「紅いから」

「その補充で、魔力上がったりしないの?」

「魔力の器は自力で上げるしかねぇよ。今日の訓練だったり、個人修行だったり。消費したぶんが回復するだけだ」


 外は涼しかった。気持ちが楽になる。

「あー日が弱い。霞んでんなぁ」

 そう言って、ガーネットは指輪を空へ持ち上げる。

 私は風に当たった。でもどこか物足りない。少し呼吸を整えて、口笛を吹いた。高い音が鳴って、木々が揺れ始める。

「お前魔力上がってんじゃん」

「え」

「この間は指輪してても風吹かなかったろ。あ、指輪は絶対外すなよ」

 ガーネットの言葉に、ゆっくり頷いた。そうだった。指輪を見ると、少し立体に、石がうねっている。

「面白い」

 思わず何度も口笛を吹く。風はふわふわ私を取り巻き、楽しくて笑い出す。

「あんま魔力使うなよ」

「いや、なんか満たされてく」

 そうしているうちに、日が刺してきた。お、と声が聞こえる。

「お前の魔法か知らねぇけど、案外いいな」

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小さな魔法使いの作り方 空付 碧 @learine

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