第2話 魔法の言葉

 魔法の言葉

 魔法使いの同級生は、3人だった。

 朝出会った、ガーネット(赤色)の男の子と、協調を大事にするコハク(オレンジ)の女の子と、気の強いダイヤモンド(白)の女の子だった。

「まず、望みを口に出しておきましょう」

 最初に会った先生が言う。はい!とダイヤモンドが手を挙げた。

「何度も言ってきました!!」

「そうですね。何度でも言うべきです」

 先生は微笑んで言う。

「道に迷った時、灯りになるように何度でも唱えておくんですよ。自分にも、指輪にも。指輪は指針ですからね。自分の成り行きが良く見てとれます」

 それぞれの指輪がきらりと光り、各々自分の指輪を見る。

「あの、みんなバラバラな形なのは、なんでですか?」

 コハクが言った。

「今の魔力と、望みへの具現がそれぞれ違うからです。力が溜まるほど、大粒になっていき、望みに近づくほど形が整っていく」

「なるほど」

 ガーネットも納得したように頷いた。私は自分の指輪を見る。綺麗だと思っていたが、歪で張り付いた小粒のペリドットだ。

「ペリドットさんは、今日初めてなので十分ですよ」

「はい」

 では、と先生は手を叩いた。

「まずは基本です。復唱下さい」

「はい」

「人を不幸にする魔法を使わない」

 先生の声は大きかった。

「人を不幸にする魔法を使わない」

「これだけは絶対忘れないように。では、それぞれ自己紹介と、どんな魔法使いになりたいのか言ってください」

 また、はい!とダイヤが手を挙げた。

「ダイヤモンドの原石です。いつか、歴史に残るほど強い、魔物をやっつける戦士になります!!そのために、有能な魔法使いになります」

 彼女の指輪が光った。ゆらゆらと光って、少しカットが見えた。

「次コハクね」

「え!?あ、はい」

 三つ編みの女の子が立つ。

「コハクです。私は、魔法でしか治癒できない病気の人のために、薬を作りたいです。人のために尽くす魔法使いになります」

 溶けるようなコハクが光った。雫のようにも見える。

「俺はガーネット。規則を守り、律することで、人に道を教える魔導師になりたいです。まずは自分を強化する魔法使いになります」

 赤く火が燃えるように石が見えた。六角形のような、形がいちばん綺麗だった。

「ペリドットです。私は……」

 言い淀んだ。なんと言ったらいいんだろう。先生は微笑んだ。

「素直に、石に嘘をつかないように、言うんですよ」

「はい」

 息を吸う。

「私は、少しだけ幸せな魔法使いになりたいです」

「え?具体的には?」

 ダイヤが身を乗り出した。

「なんのために魔法使いになるの?」

 私は気迫に、言い淀む。

「まだ、よくわかってないけれど、……、魔法を使う人になりたい」

「先生!!」

 ダイヤが大声を出した。

「魔法は、特別なものでしょ!?それを私利私欲のために極めたいって、許されるの!?」

「生活に彩りを加えることは、魔法具でもみんなやっていることです」

 先生は穏やかに言う。

「じゃあ、魔法使いなんてならなくても!!」

「ダイヤ悪い癖出てる」

「魔法使いになるのは運命です。あなたも彼女も望む魔法使いになります」

 ガーネットと先生の声に、ダイヤは震える。

「私認めない!!」

 そう言って、ダイヤは部屋を飛び出していった。

「せんせ、あの」

 私の声は震えていた。先生は微笑む。

「あの子は頭を冷やす必要があるので大丈夫です。あなたも、今日は休みなさい」

 先生に促されて、私も小さく頷いた。


 家に帰るまで、少し寄り道をした。

 人気のない井戸のそばで、私がなんで魔法使いになりたいのか、考えていた。

 私には、戦力も人助けも道しるべもない。ただあるのは、風と戯れた時のドキドキした空気だけだ。それだけで、魔法使いになってはいけないのか。ちょっと幸せになる、それだけじゃダメなのか。

「お前の落ち込みポイントはここか」

 ガーネットの声がした。私は力なく振り向く。階段に並んでみると少し狭かった。

「最初お前いってたじゃんか」

「魔法使いの動悸?」

「そう。魔法使いの指輪を貰えたんだ。お前にはお前の望みがあって、それを使いこなせばいいんだけだ」

「一理あるけど、」

 はぁとため息を付いた。

「ダイヤは認められたい一心だから、中途半端って感じたんだろ」

「あの人苦手かも」

「無理に仲良くする必要は無いぞ。俺は相手が正しいと思う道を、諭す魔法使いになるんだ。だから、お前はもう少し魔法にも素直になった方がいい」

「今の気持ちじゃなくて?」

「お前、なんで魔法使いになりたかったか、ちゃんと言えるか?」

 夕焼けが、影を落とす。

「……私は、風と一緒に生きていきたいの。風と一緒なら、なんでも出来ると思う」

「十分な理由じゃねぇか」

 ガーネットが背中をどんと叩いた。

「自分が幸せになるために必要なのは、風と契約するって明白な理由だ」

「そうかな」

「ちゃんと言っとけ。自分にも、指輪にも」

 私は少し躊躇って、先程の自己紹介を思い出す。

「……ペリドットです。私は、風といっしょに暮らしていくために、魔法使いになりたいです。少し幸せな、小さな魔法使いになりたいです」

 突風が吹いた。私の顔を撫でたあと、走り去っていった。

「今のでいいの?」

「なんだっていいんだ。だからお前は、正しく道を歩けよ」

 ガーネットはそう言って立ち去っていった。

 私も帰ろうと思って、立ち上がると指輪が光って見えた。見ると、歪だった姿が少しだけ整っている。

 そうか。私の原動力は、やっぱり風なんだ。

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