小さな魔法使いの作り方
空付 碧
第1話 小さな風の魔法
小さな風の魔法
口笛を吹いた時、さわりと風が吹き抜けた。音に合わせて踊る風に、もしかしたら私は魔法使いなのかもしれないと思った。集中して息をする。
ゆっくり息を吐き出せば、風が頭を撫でた。
私に魔法がかかった、のかもしれない。
魔法使いになりたいと思った。
「なんのために魔法使いになるんですか?」
魔法使いに尋ねれば、
「運命ですよ」
なんて答えてくる。私はひよっこだ。口笛を吹くくらいしかできない。そんな私は、なんのために魔法使いになるのか。
「私は、自分が幸せになるための、魔法使いになります」
「自分のために使うって、時に危ない話ですよ?」
「私の幸せは、角砂糖や金平糖のような、些細なものです。人を薙ぎ払うものにするつもりはありません」
「油断はしないでくださいね。力はどちらに転ぶなんて分かりませんから」
そういうと、たどり着いたお店の主人は、指輪を机の上に置いた。
「魔法使いの印です。時に魔力を増幅させ、時に制御する。ここに石をいれるのですが」
銀色の指輪は人差し指にピッタリと収まり、キラキラと輝いている。そして小さなくぼみを見つけた。
「あなたの望む幸せの魔法石を選んでください」
「風の石がいいです」
「ペリドットにしましょうかねぇ」
黄緑のさざれ石が置かれる。
「好きなのを選んでください」
私は石の中に手を入れた。集中して、手のひらにエネルギーを送る。指先に当たった石を取り上げた。少しつぶの大きい、黄緑の光るものだった。
「では」
魔法使いの手が光り、指輪と石が同調していく。
「主を守りたまえ」
出来上がった指輪は、ペリドットがしっかりと根を張った、芸術的なものだった。
「ありがとうございます」
「では、魔法へ、案内致しましょう」
店の奥の古いドアが開く。
私は魔法使いの第一歩を踏み出した 。
風との契約
扉の向こう側は、ただの町が広がっていた。けれど、通りで帽子から鳩を出したり、小さな水瓶から有り得ないほどの量の牛乳が流れ出たりと、私の触れたことの無い世界があった。
「皆、魔法使いですか?」
「魔法使いが作った道具を使っている、一般人ですよ。魔法使い志願者は、あの建物にいます」
私は指を刺された方を見る。赤い瓦の小さな建物だった。
「ここは裏道です。表へ出れば、あなたの知っている町へ戻りますよ」
「それって、魔法使いになるためには、この通りに居ないといけないってことですか」
「あなたの見るものの視点が変わっただけの、元の町です。安心してください、家族にも会えますよ」
両親を思い出す。魔法使いになりたいと言ったら、少し顔を顰めたあと、「夢があっていいね」と言った。魔法を信じていない様子だった。
「では、行ってらっしゃい」
店の主人は、戸を閉めて帰っていった。私は意を決して、赤い屋根へ近づいていく。木のドアは少し開いていた。手をかけて、中を覗くと薄暗い修道院のようだった。
「よぉ、入るなら、とっとと入れよ」
後ろから声をかけられて、驚いて振り向けば、同い年くらいの少し肥えた男の子が立っていた。
「入口塞いじゃいけねぇよ」
「ごめんなさい」
私はサッと避ける。男の子は私を見て言う。
「入んねぇの?」
「後でで大丈夫だから」
「俺は、先に来た方が入るって約束してんだ」
「約束?」
少年は人差し指を見せてきた。私と同じ指輪に、真っ赤な石が嵌っていた。
「魔法の約束。もしかしてお前、全くの新人だな?」
覗き込んでくる少年に、たじたじになって答える。
「私、さっき魔法使いになる準備をしたの」
「じゃあ、余計先に入れよ。それから先生に挨拶して、席につけ。礼儀は大事な事だ」
きらりと赤い石が光った。揺れるように光る石は、どこか満足気でもあるように見えた。
「ほら」
「うん」
私はゆっくりドアを開く。薄暗い中、1番奥で書き物をしている男性が見えた。私は恐る恐る近寄っていく。
「おや、新しい見習いさんですか」
顔を上げた人は、先程の店の主人だった。
「帰ったんじゃないんですか?」
驚いて声を上げると、少し考えて男性は答える。
「弟でしょうね。相変わらず、雑な作業をしている」
私の指輪を見て、ため息をついた。
「それで、どんな魔法を使いたいんですか」
「自分が幸せになれる魔法使いになりたいです」
「それって、エゴじゃねぇの?」
あとから入ってきた少年は言う。少し緊張する。
「私は、小さい頃から憧れだった魔法使いになりたいんです」
「魔法は薬にも毒にもなる。あなたはここで、使い分ける練習をしないといけないですね」
先生は微笑んだ。
「魔法は使えますか」
「小さなものなら」
私は口笛を吹いた。中に風を招き入れようとする。けれど無風だ。
「いつもは、駆けてくるんですが」
「なるほど。指輪を見せてください」
そう言われて見せると、手から指輪が離れていく。その瞬間、窓が開いて風が吹き込んできた。
「完全に制御されていたんですね」
指輪を戻されると、風は止んだ。
「まずは魔法の基礎、それから風の使い方を学びましょう。そして、あなたの目指す、正しく幸せな魔法使いになりましょう」
「はい」
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