「知らない失意」
……………。
「……!! ———齋兜、さま…ご無事で……!!」
———現れたのは、…小さな涙をぽろぽろと流しながら俺を「様」付けで呼ぶ、後ろ髪を小さく纏め、真っ白な子供用の和服を見に包んだ、小学生くらいの少女だった。
すぐに駆け寄って、俺の胸元ぐらいの身長の少女は強く俺を抱きしめてくる。
だが。…当然ながら、俺はこいつの事を覚えていなかった。
「………」
「齋兜さま…?」
「鋏さん、…この子は?」
「…この子は、
「そうなのか」
「———どういうことですか…?」
「鋭子さん…。齋兜は……、維井条襲によって記憶を消されたんだ」
見てくれだけでも幼く、純粋そうな少女には、あまりにも、あまりにも残酷な事実。…だが、それを俺は知らない。彼女の失意を、本当の意味で俺は理解できない。
「そんな…どうして……」
シャツが、濡らされていくのがわかる。
「…離れてくれないか。悪いが、僕はあなたの事を覚えていない」
「……」
…俺の言葉に従って離れるのが早いか、遅いか。
もう二人目、三人目が、鋭子を介してそこに立っていたことに気が付く。
一人は怪和崎や俺と同年代くらいの女子学生、もう一人は鋭子と同じような子供用の和服に身を包んだ、今度は赤を基調とした少女だった。
「齋兜くん…」
女学生が俺の名を呼ぶ。
「僕は、あなたの事も覚えていない」
「……!」
「…齋兜、この子達は
「———…僕は、ここで暮らしていたんだな」
…何故だろうか、申し訳ないような気持ちになっていた。記憶を失う前、俺がどんな迂闊な行動をしたのか知らないが、そのせいで彼女達にこんな思いをさせている。
「いちおう言っておくね、齋兜くん」
「…え?」
「——おかえり」
その言葉も…きっと「今の俺」に向いた言葉ではない。
この女子…、寄垣は、まだ俺の記憶が戻ることを信じているのだ。
———今の俺は、求められていない。
「…ただいま」
…応えるべきなのは、俺ではない。だが応えられるのは俺しかいなかった。
「…まあ、ゆっくり思い出していってよ! それでいいからさ。…わたしは、齋兜くんがいてくれるだけで、嬉しいからさ」
「……」
「でもまずは、早くリアライザーを回収しないとね。…維井条さんとも向き合えない」
「…鋏さん。さっき言っていたCOBBRAに譲ってはいけないものって、琴梨さんが言っている『リアライザー』とやらのことか? 回収とは…」
「詳しくは、もうちょっと腰を落ち着けて話そうぜ。まだ追手は来ないはずだ」
「……わかった」
靴を脱いだ。 目新しい室内へ入っていく。
…今日は寒いな。
I Call Message【ニヒスカ第二章】 慎み深いもんじゃ @enomototomone0918anoradio
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